6話 最高級抹茶
俺が耳を触っていると、ミリィが目を閉じたまま口を開いた。
「触るだけではなく、舐めて頂いてもよろしいのですよ?」
「いきなり何言ってんだよ。そんなことはしません」
舐める……人の身体を味わうなんて、出来る訳がない。
舌という最も重要で敏感な器官で相手と触れ合い、その人の味を知る。
ミリィの味を想像しただけで、興奮してしまう。
「あの時は、熱烈な口付けをして頂いたのに……」
「記憶に無いな」
付き合ってもいない相手に、そんな性的なことをする訳がない。
……ということにさせて欲しい。
「政治家らしくおっしゃっても無駄ですよ?」
「頼むから忘れてくれ。あれは気の迷いというか、本当にどうかしてた」
「忘れるなんて、不可能です。脳裏に深く刻み込まれてしまっています」
「……だよな」
あれは数年前。大学生の時だ。
色々と忙しい時期が重なり、疲れていた時にミリィが会いに来て、誘惑された結果、……俺は一線を越えてしまった。
いや、誘惑されたことなんて言い訳にならない。
耳を味わい、口に含み、終いには甘噛みまでしまったのも、――全て俺の意思だ。
ミリィの豊富な魔力に由来すると思われる抹茶のような優しい苦さ、皮脂から感じる微かな甘さ、徐々に強まる汗の塩気。白い耳は紅く色付き、甘噛みすれば敏感に反応してくる。
俺は初めて知る女性の味に興奮していたし、その行為の意味を知るミリィも、それは同じだった。耳だけで踏み止まれたことが奇跡とさえ思える。
今でも鮮明に覚えているし、忘れることなど出来やしない。
「もう一度、味わって頂けませんか?」
絶対にしない。
ミリィとの行為に対する後悔は無い。それでも、付き合ってもいない相手に舌を出してしまった。性欲に負けてしまった。その点においては深く反省しているし、恥じている。
次にミリィの身体を味わう機会があるとしたら、想いに応え、関係を明確にしてからと決めている。
「……そうだ。依頼していたものは完成した?」
だから、強引に話を変える。スルースキルも政治家には必須の能力だ。
「もう。完成したので持ってきましたよ」
「ありがとう。助かるよ」
話を変えてくれたことも含めて助かる。
ミリィが服の隙間から取り出したのは、銀色のネクタイピンだ。俺が依頼した、透明になり周囲に気付かれないようになる魔道具だろう。
「こちらなのですが、使用中は私ですら認識出来なくなりますので、細心の注意を払うようにして下さい」
「それは、本当なのか?」
「はい。こういった魔術はどうしても魔力の微かな揺らぎが残ってしまうので、敏感な
逆に言えば、ミリィでさえそこまでしなければ見つけることが出来ないのか。恐ろしい魔道具だな。
「分かった。注意するし、使用は最低限に留めるよ」
「そうして頂けると助かります。しかし、私への悪戯はご自由に致して下さいね?」
「どういうこと?」
「私は魔道具が起動したことだけは分かりますが、どこに居るかは全く分かりません。つまり、服の下から体を覗かれてしまっても、気付くことすら出来ないのです」
「いや、仮に覗いたとしても見えないだろ?」
体温調節も体の保護も魔術で済ませているし、下着も着けずに薄い布を体に巻いただけという格好をしているのは、仮に捲れても魔術で黒く隠されているからだ。
「あれ、言ってませんでしたか?私は
「え?」
「これが証拠です」
「……ッ?!」
ミリィがいきなり服を捲り上げ、白い太ももを見せてきた。
風に乗った発情の匂いがそのまま鼻に抜けてきたことも相まって、流石に動揺してしまう。
「い、いや。待て。待て?別に、それは魔術を使ってない証拠にはな――何でもない」
男女を問わず、大半の
俺になら太ももを見られても良いとミリィが判断しただけであって、流石に魔術は使っているだろう。
……と一瞬考えてしまったけど、ミリィから怒りの匂いがしたので慌てて口を噤んだ。
「私が莅塩様に対して体を隠すと本当に思われたのですか?」
「悪かった。訂正させて欲しい。慌てて発言してしまっただけで、落ち着いて考えてみればミリィが隠すなんてありえないと思う。本当に申し訳ない」
これに関しては俺が悪いので、素直に謝る。
俺はミリィの愛も、その深さも知っていて、何より長年一緒に居たのだ。気が動転していたとはいえ、ミリィを傷付ける発言だった。
「その通りです。私のことをしっかりと理解して頂けているようで安心しました」
ただ。それはそうと、普段からあの薄い服が捲れただけで見えてしまう状況なのか。
マジか……。
ⓡⓡⓡ
恋のABCというものはご存知でしょうか?
他にもDEFZ、HIJKなんてものもあるそうですが、
見る・触る<性行為<舐める<キス
となります。アルファベットに置き換えるとBCAみたいな感じです。なので、2話の
ちなみに“舌を出す”は“手を出す”と同義です。
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