3話 秘書との会話
「無事に会談を終えましたな、
「ああ、何とかな」
会談が予定通りに終わり、帰国する為に政府専用機に乗り込むと、第一秘書の
「お疲れ様、です」
「
同じく秘書の七岷も労いの言葉を掛けてくれたのだが、こちらは目に見えて疲れている。
飛行機に乗ることすら初めてと言っていたのに、行先は海外、目的は会談、しかも12時間のフライトだからな。当然だろう。
「出てきた軽食が予想してたよりマシだった、です」
「あー。まあ、そうだよな」
出てきた感想は、七岷らしいものだった。
シャローラン
ともかく、その時点でお察しだろう。そもそも調理という概念が存在しないのだから。
「あ、すみません、です」
「いや、今は俺達しかいないから別にいいよ。
「はいです」
「じゃあ、会見について話そうか」
帰国したらすぐに記者会見を行う予定なので、内容を確認する。着陸までは長いし、急ぐ必要は無いけど、早めに終わらせて休憩の時間を取りたい。
「俺から話す内容は……陛下に信頼回復に努め、今まで以上に親密な関係を築きたいと伝えたこと。洋菓子で
「問題は無いですが、景気の回復については言葉を選ぶべきだと思われます」
「分かってる。あくまで
しかし、事実はどうであれ
「七岷はどう思う?」
「平気だと思う、です。けど、洋菓子の内容は気になる、です」
「確かにそうだな。店舗名とパティシエの名前はすぐ言えるようにしておくよ」
祖父の秘書として四十年近く政界に関わってきた猪清水とは違い、俺よりも年下の七岷には政治知識がほとんど無いが、それは国民の意見に近いということ。参考になる。
「次に記者からの質問の想定だが、陛下との関係は必ず聞かれるよなあ……」
「でしょうな。幼少期と高校時代、それぞれ聞かれると思われます」
七岷も頷いている。というか、七岷も気になっているみたいだ。
「……他には?」
申し訳無さそうに首を横に振る猪清水と、首を傾げる七岷。大統領の記者会見なんだから、政治に関する質問はあるべきだろうに。
俺が戦い抜いた大統領選挙の時に、投票率が過去最高の42.4%を記録した国は流石だな。テレビでは「史上二度目の40%超え」とニュースになっていたが、世界的には最低レベルなんだよなあ……。
「まあ、仕方ないか。それなら陛下との話は考えておくから、一度記者会見の話を終わりにしよう。他に今やっておくことは無いよな?」
「ありませぬ」
「なら、休憩にしようか。七岷。疲れてるだろうし、仮眠室で寝ててもいいよ」
政府専用機の座席は完全に平らにすることが出来るけど、ちゃんとしたベッドも一床ある。伍木国まではまだ10時間近く掛かるし、仮眠としては充分すぎる程だろう。
「いいんです?」
「俺は海外も飛行機も慣れてるからな」
猪清水に視線を向けたけど、七岷が仮眠室を使用することには反対していなさそうだ。
「……じゃあ、少しだけお言葉に甘えさせてもらう、です」
七岷は迷っていたけど、最終的には部屋を出て、仮眠室に向かった。
「……莅塩大統領。少々甘いのではありませぬか?」
「秘書を大切にする良き政治家だろう?猪清水も何かあったら言ってくれ」
俺はおどけてみせて、言外に理由を話すつもりは無いと伝える。
七岷には教えられてないが、緊張のせいで昨夜はよく眠れず、今朝は吐いていたことは匂いで分かった。そんな状況で、俺に顔色が悪いから今日は無理しなくていいと言われても頑張ってくれた。
これくらいの労いは当然だろう。
「七岷、起きて」
あと少しで着陸するので、七岷を起こす。途中で飛行機が揺れた時もあったが、一度も起きてこなかったし、疲れも取れただろう。
「…………ぅぅ」
「そろそろ着陸するよ、七岷。起きた?」
「……ぅぅん?、……あ。…………ごめんなさい、です」
「疲れてただろうし、謝らなくていいって」
七岷は何度かまばたきをすると、目を擦りながらゆっくり体を起こす。
「……ありがとう、です。……顔洗ってきても、いいです?」
「ああ。着陸までは十分くらいあるよ」
七岷は申し訳なさそうに機体後方にある扉を開き、洗面室に入っていった。俺が提案したんだし、そんな気にする必要は無いんだが……。
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