2話 誤爆事件
――ガチャっ、
左右にいる
今から始まるのは、俺が
今度こそ、本当に始まる。
「
俺は少し離れたところからミリィに声を掛けた。先程のような異常事態は、起こらない筈だ。
「
挨拶を返されたのでゆっくりと近付いて、手を差し出す。ミリィが握手に応じると、周囲の記者達が連写を始めた。
……流石に撮りすぎじゃね?
音が途切れる瞬間さえ無い程に連写している記者がいて、しかも興奮していることが匂いで分かる。本当に何なんだよ。
「
「
「では、私からお願いしましょうか。伍木国語で話して頂けませんか?」
「……承知致しました」
ここまでは打ち合わせ通り。
ミリィが女凰として接するのがどうしても嫌そうだったので、こういう形に落ち着いた。本来なら有り得ないことだが、
「ありがとうございます。両国の関係を深める為にも、この方が良いと思いませんか?」
「確かにそうですね。両国の関係を深めるという願いは私も同じです。今後は失われた信用を回復することに尽力し、今まで以上に親密な関係を築いていきたいと考えております」
「その言葉を聞いて安心しました。先の件の不信感は、未だに拭えませんので」
ミリィが少し俯きながら溢すと、会場が静まり返る。
先の件とは、
大統領の公式アカウントに投稿された“陛下の足を舐めたい”という性的な内容の投稿が発端となり、SNSの裏アカウントでミリィへのセクハラ投稿を繰り返していたことが発覚したのだ。
一夜にして悪化した外交関係は未だ改善しておらず、政界は緊張感に包まれている。
「誠に申し訳ありま――」
「いいえ。莅塩様は何一つ悪くないのですから、謝罪は受け取れません。それに、莅塩様はあのようなことを絶対にしないと知っていますから」
「そう言って頂けるとありがたいです」
「しかし、私が信用しているのはあくまでも莅塩様です。先の件を思い出してしまい、不躾な視線への恐怖心から
女凰様による無理難題。
……のように周囲には思われているのだろうが、これはミリィ発案の茶番である。そもそも㠶鹿前大統領の誤爆事件は、ミリィが魔術で誤爆させたことが発端なのだから。両国を巻き込む大騒動を起こした目的は、大きく分けて二つ。
一つはシャローラン
そしてもう一つは、この問題を俺に解決させて、大統領としての実績を作ることだ。
俺としては支持率よりも国民の生活を優先したかったのだが、ミリィの勢いに押されて説得しきれなかった。
「……では、こういった方法はいかがでしょうか?」
秘書に合図を出すと、沢山の洋菓子が並んだ台が会場に運ばれてきた。美食の国として有名な
「今日は友好の証に、各地の菓子店に洋菓子を用意して頂きました。私は食を通じて伍木国の民の心を知ることが、恐怖を和らげる一助となると信じております」
「……これは驚かされました。この場で食べても良いのですよね?」
「どうぞ、お食べになって下さい」
「ふふっ、どれも美味しそうで多くて迷ってしまいますね」
ミリィは台の周りを歩きながら、ほうじ茶クッキーと抹茶のプチシュークリームを選ぶと、上品に口に運んだ。
「どちらもとても美味しいです。それに、私の好みも考えられているようですね」
「陛下は多くの伍木国民に愛されているので、当然でしょう。依頼した際には快く引き受けるどころか、陛下に食べて頂ける機会に恵まれたと逆に感謝されてしまった程です」
偽りだらけの会談だが、これだけは本当の話だ。
用意された洋菓子も、ミリィの好みに合わせて苦味のある物が多い上に、普段は魔草しか食べない
「……莅塩様。仮に
「陛下が望むのであれば、仰せの通りに」
「では、延期していた
……こいつ、私欲を出してきやがったな。
事前の打ち合わせでは最大限の警備体制を要求した上で、
「承知致しました。感謝申し上げます」
それはさておき、これでシャローラン
会談を初めて数分の出来事に周囲の記者達は驚いているが、懐疑的な感情の匂いはしない。概ね予定通りに会談を進められただろう。
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