4話 記者会見

「――以上で、冒頭発言とします」


 官邸での記者会見が始まり、俺は事前に決めた内容を話した。記者達の反応を伺うが、匂いの他に、態度や視線からも反感を買った様子はない。というより、半数近くが眠気と戦っていた。

 大統領おれの話には興味なしですか。


「続いて、皆様から質問を受け付けます。質問のある方は挙手の上、指名されてから所属と名前を述べ、質問してください」


 司会の言葉で、数名の手が挙げられた。さて、どんな質問か来るか。


「朝餉新聞の佐藤です。ミリトフィス女凰陛下は大統領のことを親しい友人とおっしゃっていましたが、具体的にどのような交友があるのでしょうか」


 ……ほらな。初手からこれだよ。

 こうも国民の関心が政治に向いていないとは思いたくなかった。大統領になる前から理解はしていたつもりだけど、実際にこの立場になると少し悲しくなる。


「陛下とは、主にチャットや通話をさせて頂いている他、年に数回は会って話すこともあります。お互いに個人的な話をすることが多いですね」


 これは事前にミリィと決めていた。

 本当は月に何度も会いに来ているが、それだと特別な関係だと揶揄されるのは必然だし、何より魔術を使っての不法入国だからな。言える訳がない。

 それにお互いの立場上、世間話=国家機密になりかねないので、個人的な話という言葉を選んだ。


「甘瓜新聞の鈴木です。陛下と会う際、料理を振る舞うことはあるのでしょうか?料理名と合わせてお答え願います」


「時間さえ合えば振る舞うことはありますが、料理名に関しては陛下の意向により伏せさせて頂きます」


 料理名まで話してもいいけど、そこから変な騒動に発展しないとも言い切れないし、民衆の関心を政治に寄せる為にも情報は小出しにしたい。


「バナンナ放送の高橋です。栄杖大統領は幼少期、高校時代をミリトフィス女凰陛下と共に過ごしたそうですが、特に記憶に残っている出来事はありますでしょうか?」


「幼少期は私が久糍來くじく元大統領の付き添いとしてシャローラン凰国おうこくへ訪問した時や、陛下が伍木国ごもくこくに訪問した時にお会いしただけなのですが、やはり初めてお話した時のことが最も印象に残っていますね。その時は私的な場であったにも関わらず、既に凰族としての風格があり、とても驚かされたのを今でも鮮明に覚えています」


 幼少期を共に過ごした。という表現は誤解を招くので、軽く訂正する。実際にはミリィがわがままを言って栄杖えいじょう家に一ヶ月ほど泊まったこともあったけど、公に知られている事実としては年に数回会っていた程度だ。


「高校時代ですと、やはり凰峰祭ミラヒリアでしょうか。シャローラン凰立学校における学園祭のようなもので、最終日は大きな焚火の周囲で踊るのですが、陛下と踊る機会に恵まれたのはとても嬉しかったですね」


 どちらも、我ながら模範回答だと思う。既に世間には知られているので騒ぎになることなく、適度に親密さを伝えられただろう。


炒食反チャハーンニュースの田中です。陛下が召し上がっていた洋菓子の店舗名をお教え下さい」


「陛下が召し上がっていたのは、“武者パニー”の城綾しろあやさんによるほうじ茶クッキー“大太刀の切先”と、“ルグ・ドゥ・グーア”の担村になむらさんによる抹茶のプチシュークリーム“三十万の輝石”です。その他、並んでいた洋菓子の詳細につきましては、後日SNS上にて公表させて頂く予定となっています」


 どちらも有名な店舗だし、担村さんも有名なパティシエなので覚えていたけど、城彩さんの名前は確認しなければ出てこなかっただろう。料理名に関しては尚更だ。

 七岷ななみに感謝だな。


「ウリフタツナナフシ社の伊藤です。先程は景気の回復を図るとおっしゃっていましたが、具体的にはどのような政策をお考えでしょうか」


 やっときたか、政治の質問。

 なお、独自路線をモットーとするウリフタツナナフシ社の記者ということは考えないこととする。


「まずは窓割れ理論を基に小さな犯罪も見逃さずにしっかりと取り締まり、増加傾向にある特殊詐欺等の特定の犯罪に対しては個別の対策も取ることで、治安の回復を図ります。それと同時に財政政策も実施することで、国民の皆様に消費を促し、好循環を生むことで景気を回復させる所存です」


 実際には国内に祇森族エルフが戻れば何もせずとも景気は回復すると予想しているので、形だけの政策だ。

 重要なのは事実ではなく、国民がどう感じるか。

 俺の政策により景気が回復したと国民に思わせることが肝心だ。


「フリーの生侭田きままだです。陛下に対して好意は持っているのでしょうか?」


 ……おい。さっきの質問との落差よ。フリーはフリージャーナリストであるという意味で、自由人という意味では無いよな?


の好意は持っていますが、恋愛感情はありません」


「仮に陛下が大統領に――」


「質問は挙手の上、お願い致します」


「……すみません。仮に陛下が大統領に想いを寄せていたとしたら、どうなさいますか?」


「そのような仮定の質問に答える場ではありませんので、回答を控えさせて頂きます」


 司会に止められても、生侭田は再び手を挙げた。この記者は今日初めて見た顔だけど、ミリィとの会談の場では誰よりも熱心にカメラを構え、興奮の匂いを発していた記者だ。

 考えたくはないが、政治ではなくミリィと俺との個人的な関係を目当てに来ているという説が出てきてしまった。そういうのは芸能人のスキャンダルで間に合っているだろうに……。

 この会見において質問は一人三回までとしているが、あと一回来るのだろうか?


「では、大統領は今後、陛下とどのような関係を築きたいとお考えでしょうか?大統領としてではなく、個人としてお答え願います」


 来るのか……。


「私個人としては当然、今まで通りの関係を続けたいと思っています」


「……質問のある方が居ないようなので、以上で栄杖大統領の記者会見を終わります」


 生侭田はまだ質問がありそうたったが、ルールは守ってくれるようで何よりだ。最後の最後で疲れさせられた会見だったな……。

 今後の会見にも来ると予想されるので、次からはフリーの生侭田対策をする必要がありそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る