第5話
覚醒したときに自身が信じられなかった。
しかし目覚めた。
そのことは私を
ハヌマンは、私の軍はどうなっただろうか。
竜に飲み込まれ、食い散らかされたのであろうか。
あるいはこのように全裸で両手足を大の字に開かれ、岩肌に打ち捨てられているのだろうか。眼球が零れそうなくらいに視線を下げ、傷を負ってないかを確認したが、擦過傷が僅かにある程度だ。さらに全身に様々な色の管が刺さっている。そして得体の知れない液体が注入されている。
四肢に力を込めてみた。あちこちから激痛という応答を得たが、しかし身体は微動だにしない。ただ
全身が火照っていた。
自由になるのは瞼のみであり、呼吸のみである。
薄暗がりの石造りの牢である。壁の高い位置に明り取りの窓がある。目を凝らすと人間が通り抜けられないほどに、天地の幅が狭い窓だ。
ふいにひとの気配がした。
穴をくぐるようにして、僧形の男たちが二人入ってきた。
ひとりは壮年風の男で、きちんと剃髪し皺の刻まれた四角い顎をもっていた。麻の僧衣を肩重ねにまとい、
もうひとりは更に小柄な、皺だらけの古老に近い男だった。 半裸の上半身に聖紐をかけ、
筋ばって、干物のように萎んだ肉体は、半ばは死んでいるように見えた。 剃髪した頭頂には血膿のような斑点がめだつ。皮膚はかさかさと水気がなく、疱瘡のようなかさぶたが幾重にも重なって、皺がさらに深く這っているように見えた。
だが高齢を跳ねつけて、双眸は
ドラヴィダ人の聖職者バラモンである。
無論、微服の古老の方が高位にあたる。
私は瞼をあけて、凝視した。
交互に、彼らを睨みつけた。
ふっと壮年の僧が笑みをこぼした。
「気がついている」
アッカド語で壮年の僧が話している。私に理解させたくない会話をしているのは明白だ。その言を呑み込めない顔を装った。
アッカド語の起源はバビロニアに発する、我々の言葉と同祖のものではある。 だが古ヴェーダの叙述に使われているのみで、詠唱はできても会話として使うことは滅多にない。
教養のあるアーリア人ならば完全に理解できるが、残念だが私には片言でしか理解できない。しかし充分な内容を得た。
「どうだ、シアタ」
「まだ判りませぬな。僧主アーシタ」
「月が満ちるのを待つ」
僧主がそう呟いて、二人は立ち去った。
霧が一陣の風に吹き流されたかのような、幻のような姿であった。
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