第3話:指名手配

「それで、どうするんだ?」


 ハンスは兵士の隠れ待ち構える港の方を見ながら隣のフューリに訊ねた。


「まぁ、俺が正面突破するしかないだろう。お前らは船に隠れてろ。顔バレはまだ早い。」


 ハンスは急いで船の中央の床にある、ハッチのような扉を開け、食料や水の置いてある下の階層に降りていった。

 フューリは次に甲板に上がっていって舵を取っている女に舵取りを交代するよう促した。


「うまく隠れてろよ、船がぶっ壊れちまうのは避けたいからな。」


「はい、あなたの財産をほとんど使い果たして買ったんですからね。」


 女の言葉にフューリは怪訝な顔をする。女も急いで階段を降りてハッチを開けて、下階に入っていった。


「ハセのやつ……」


 船は岸についた。舫い綱を桟橋のビットに繋ぎ止め、フューリは荷物を肩に担いで、桟橋を歩き出した。

 そしてすぐに、1番近くに停まっている船にいた兵士の1人が大きな声で言った。


「フューリ・ダ・カーク!荷物を自分の前に置き手を挙げて膝をつけ!今お前を50人の兵士が囲んでいるッ!」


 フューリは、今まで暗くて気づかなかったが、船の下の、海の中からも肩までを出して銃を向けている兵士たちを見つけた。更には海の向かい側に建っている建物の窓からも銃口が向けられていた。


「これが八方塞がりってやつか……」


フューリはそう言いつつも、荷物を持ったまま、立っている。


「もう一度言う!荷物を自分の前に置き手を挙げて膝をつけ!さもなくばここで射撃する!」


 フューリは満更でもないと言う顔をして、歩みを止めない。乗ってきた船を背にして船着場を歩いていく。


「撃てぇーッ!」


 50人の兵士のうちの全てが、一斉にフューリを狙撃する。銃声は兵士の他に人気の少ない静かな夜に轟いた。

 煙が上がり、暗さに加えてフューリの様子は全く見えない。


 煙が徐々に薄くなっていくと、そこには再び歩を進めるフューリが見えた。


「くそッ!なぜ銃弾をこうも易く...化け物めッ!!」


 フューリは兵士の潜む船の横を堂々と歩く。


「不死の身なのか!」


 フューリは、段々遠くなっていく、兵士を統括しているらしい男の声を背に歩き続ける。そして男の今の言葉にニヤついて、彼の方を見ないまま、


「お好きに解釈してくれ」


とだけ言った。

兵士たちは皆戦意を失っていた。


――――――――――――――――――――


「こんな生活は久々だなぁ」


 賑わう街の中。路地裏の通りを、新品の服に着替えたフューリとハンス、そして大きな鞄を肩に掛けたハセが恐る恐る表通りを確認したりしながら、歩いていた。


「全く、誰のせいなんだか。」


 フューリはふざけてそう言ったが、ハセが


「あなたが大衆の前で能力を晒して逃亡して指名手配犯になり、自国の兵50人から逃れて挙句全財産注ぎ込んだ船を爆破されて島から出られなくなってしまったからでは?」


 と、真面目に返した。


「っるせぇ。知ってるよそんくらい。」


 フューリたちは建物を横切っていくうちに裏通りに出、兵がいないことを確認して恐る恐る歩いた。


「この島に『去概』の手術を受けた人間がホントにいるのかァ、果たして?」


 ハンスは心配するようにフューリに尋ねるが、フューリはただ、


「勘だから。」


 と返す。このやり取りが幾度かあった。

 ハンスの心配をよそに、フューリはまるでこの島の地図を熟知し、行きたい場所が分かりきっているかのように暗い路地を進んでいく。

 そしてハンスとハセが、当てもなく彷徨っているように見えるフューリに怒りを爆発させようか目論んでいた時、フューリは歩を止めた。


「なんだァ?急に」


「そろそろあなたの考えなしには我慢の限界ですが」


 フューリは2人の言葉を無視して、手を前に伸ばし、人差し指で、少し遠くにいる、この暗い裏通りで寝転がっている人間を指差した。


「誰だ?酔っ払いじゃあねえのかァ?」


「敵の潜伏兵かも」


 ハンスとハセはそれぞれ思ったことを口にするが、フューリが遮る。


「俺たちが探しているのが、あれだ。」


 3人は寝転がっている人間の近くに来た。どうやら本当に寝ているらしい。


「こいつ若いな?16、7ってとこだぜェ?こんなやつが『コッチ側』なんでどうやってわかんだ?」


「何でかは分からないが、確信がある。」


 ハンスは鼻で笑い、


「まあ見物だな。あんたの『勘』がどれほどのものか。」


 と罵った。ハセは寝ている例の人間の手首を触ったりしている。


「オイオイィ、触るなよォ、そんな汚ねぇヤツ!」


「生きているか確認しただけですよ、」


「やっぱりもう行こうぜェ、敵兵もすぐくるかもしれねェしよォ、」


 ハンスはハセを立ち上がらせて行こうとするがフューリ・ダ・カークは動かない。


「まぁ待て、起こしてみよう」


 フューリは寝ているその人の体をゆすって起こした。


「・・・誰だよ・・・ムニャ・・・お前ら・・・ムニャ・・・寝かせてくれよ。」


 その者は寝ぼけながら上半身を起こして壁にもたれかかる。

 

「なぁお前、もしかして変な能力とか持ってないか?」


「はぇ?そりゃあ・・・俺は冒険家だから・・・な・・・?」


「何言ってんだァ?こいつ?」


 ハンスは子供の戯言のように鼻で笑って、


「なぁもう行こうぜェ?そいつは能力持ってないだろォ」


 と言ったが、フューリはそれでも動かない。


「冒険家...?どこを冒険するんだ?」


 フューリがこう尋ねるや否や、突然その若者は目を輝かせて話し始めた。


「そりゃあもちろん、この国とイスカドニアは冒険し切った。ドッシューノ川の底から、ナンロ山の山頂までな!!

 本島にも大陸にも何回も行ったよ!大体の地理はわかったし、この間なんて――」


 そこまで言うと、若者は急に表情を曇らせて俯いた。


「どした?大丈夫か?」


「・・・大丈夫さ、間違えた。俺、デイト・アレキサンダー・ライトはただの浮浪者だ。」


 デイトと名乗ったその男以外の3人は、突然彼が落ち込んだことに驚いている。


「こいつ・・・さっきまで言ってたことと逆だぜェ?」


「冒険家と名乗ったのに今は浮浪者と。」


 ハセもハンスと共にこの場から早く逃げたいと言う気持ちを抱いた。


「やはり酔っ払いでは?」


「そう決めつけるな、彼は何か訳アリって感じだと思うね」


 フューリはデイトを立ち上がらせた。酔っ払いのようにフラフラと立った。


「なんだ・・・?どこ・・・連れてってくれんだ・・・?」


 フューリはデイトと肩を組んで歩くがデイトはフラフラと千鳥足で歩くので怪訝な顔をした。

 

「こいつほんとに起きてるかの怪しいぜェ?」


 ハンスとハセは仕方なしと言うふうに再び歩き出した、デイトを支えているフューリに着いて行った。

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ハートブレイクフル・ワールド ミケ @michena

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