第56話 主人公の代わりに、ヒロインたちと温泉に入る 幕間

「ふう……やっと寮に帰って来た」


 夕方――

 俺は学園寮のベッドで横になる。


 (モブ悪役なのに「公爵」になってしまった……)


 原作のシナリオでは、これからジークは、宰相のバッキンガム公爵と対決することになる。

 バッキンガム公爵は、第1王女のシャルロッテを影で操る黒幕。

 ドミナント・タクティクスのラスボスだ。

 本当なら神剣デュランダルをバッキンガム公爵側に奪われていたはずだが、俺が神剣デュランダルを持っている。

 だからシナリオは、また修正されざる得ないだろう。


 ――コンコンっ!


「アルフォンス……いますか?」


 オリヴィアの声だ。

 俺はドアを開ける。


「アルフォンス、お休みのところごめん」

「いいよ。どうしたの?」

「……あたしたちダンジョン攻略がんばったじゃない? だから温泉でも一緒にどうかなって?」

「お、温泉……?!」

「え……もしかして嫌だった?」


 温泉イベントが来た……!

 バルト神殿跡ダンジョンを攻略後、全ルート共通のイベントだ。

 王族寮の地下に温泉にオリヴィアから誘われる。

 二人きりだと体裁が悪いから、他のヒロインも一緒に来て……


「何でもないよ。俺、温泉好きだし……」


 原作のシナリオで温泉に誘われるのは、もちろんジークだ。

 温泉で裸のヒロインたちとハーレム――


 エロゲらしいハプニングもいっぱいあって……


 プレイヤーにとって、1番楽しみなイベントだ。


「よかったぁ……! よおし! さっそく王族寮に行きましょう!」


 (生きて出られるかな……?)

 

 ★


「はあ~~……っ! あったまる……」


 オリヴィアが声を漏らす。

 王族寮の地下にある温泉。

 王族専用の特別な場所だ。

 もちろん一般の学園生は、入ることができない。

 そして1番大事なことは――この温泉が「混浴」であること。

 混浴……男と女が一緒に風呂に入る。

 裸で――


 (たしかにすげえあったまるな……)


 俺は浴槽で、ゆっくり身体を伸ばした。

 白く濁った熱い湯。

身体の疲れが取れていく……


「アルくんっ! 背中流しましょうか?」


リーセリアが俺の隣に座る。


(う……これは……っ!)


 ――たゆんっ! たゆんっ!


 タオル越しでもはっきりとわかる、豊満な胸。

 女性的な魅力に溢れた身体……


「アルくんはすっごくがんばったから。ほら、来て」


 リーセリアが俺の手を取る。


「ま、待ってください……っ! アルフォンスの背中を流すのは私ですっ!」


 オリヴィアが俺とリーセリアの前に立ちはだかる。


 (オリヴィアも、リーセリアに負けてないな……)


 いや、もしかしたら、胸はリーセリアより大きくて――

 お湯で身体にくっついたタオルが、余計に胸のラインを強調する。


「いえいえ。王族のオリヴィア殿下にやらせるわけにはいきません。ここはあたしが、アルくんの背中を責任持って流します……!」

「……リーセリアさん。アルフォンスの勇姿を近くで見ていたのは。このあたしです。だからあたしこそ、アルフォンスの背中を流す資格があるのです!」

「オリヴィア殿下……ごめんなさい。それ、意味わかんないです」

「ぐぬぬ……! と、とにかく! アルフォンスの背中を流すのはあたしです! これは、王女命令です……っ!」


 ビシっと、人差し指を立てるオリヴィア。


「また王女命令! オリヴィア殿下ずるいです!」

「ふっふっふ……! 王族の特権ですわ!」


 と、オリヴィアは王族の権力(?)を振りかざす。

 俺の腕を引っ張り合う、リーセリアとオリヴィア。


 ――ふにょん! ふにょん!


 2人(リーセリアとオリヴィア)の柔らかい胸が手に当たって……


 (これがハーレム主人公の気持ちか……)


 うん。そうだった。ここは、エロゲの世界だった。


「ふん……! デレデレしちゃって! 幼馴染のあたしがいるのに……っ!」


 なぜかレギーネが怒り出す。


「ていうかレギーネ、お前もいたのか……」

「あたしがいちゃ悪いわけ?」

「いや、別に……」


 豊満なリーセリアとオリヴィアに比べて、レギーネはいろいろ「発展途上」だ。

 俺はぺったりと胸についたタオルを見てしまう。


「何を見てるの……?」

「え……何も見てないよ!」

「ウソ! 今、あたしの胸見て【ぺったんこだな~~っ!】とか思ってんでしょ! ううう……! アルフォンスのバカぁぁぁっ!」


 タオルで理不尽に殴られる俺。


「大丈夫だ。レギーネ。人の価値はそこの大きさでは――」

「うるさい! うるさい! アンタの同情なんか要らないんだからね……っ!」


 と、レギ―ネにビシバシ殴れていたが、


 (……! 人の視線を感じる……?)


 一瞬だが、背後に誰かの視線を感じる……

 まさか「のぞき」か……?


 (いや、まさかな……王族寮は結界があるし)



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