第55話 俺だって爵位がもらえるはずなのに……っ! ジーク視点

【ジーク視点】


「アルフォンスが公爵だと……」


 授爵式が終わったあと、Aクラスに戻ってきた俺。

 アルフォンスが「公爵」に昇格したことで、クラス中が盛り上がっていた。


「アルフォンス、マジすげえな……っ!」

「アル様が王族に……っ!」

「なんとしてもアル様とお近づきにならないといけませんわ……」


 公爵は貴族の最高位だ。

 普通ならあり得ない昇格……


 (絶対におかしいだろ……っ!)


「アル様! 今度の週末わたくしと――」

「ダメですわ! アル様はわたくしと一緒に――」

「あたしのアル様を取るんじゃないわよ!!」

 

 令嬢たちがアルフォンスを取り囲む。

 アルフォンスを奪い合ってやがる。


 (クソ……っ! チヤホヤされやがって……っ!)


 どうしてアルフォンスだけが昇格して、俺が何も昇格しないんだよ!

 絶対に、おかしい。

 絶対に、間違っている。

 原作のシナリオでは、ジークは「騎士爵」をゲットしていたはず。

 クソ・クソ・クソ……! 

 なんでだ……っ!!


 (あっ! いいこと思いついたっ!)


 授爵式をやり直したらいい。

 きっと何かの手違いがあったんだ。

 原作ではジークは爵位をもらえるんだから、単なるミスに違いない。


「さすがアルフォンス……っ! あたしの近衛騎士になってくださいっ!」


 オリヴィアがアルフォンスに抱き着いている……

 近衛騎士――王族を守る騎士の最高位だ。

 通常は、王国騎士団長を経験した者だけが任命される名誉ある職。

 それをアルフォンスが手に入れようとして……


 (そんなこと許せるか!!)


 俺はオリヴィアのところへ行く。


「オリヴィア王女殿下……お話があります」

「え? シークさん? 今、アルフォンスの昇格を祝っているのです。後にしていただけませんか……?」


 すごく不満げな表情をするオリヴィア。


 (しかもまた名前を「シーク」って間違えてるし……!)


 俺の名前は「ジーク」なのに!


「俺のお祝いは後でもいいから、ジークの話を聞いてあげなよ」


 アルフォンスが言う。


「ええ……っ! アルフォンスのお祝いが最優先事項ですよ!」

「いや、本当に後でいいから……ジークの話は緊急そうだし」

「……アルフォンスがそう言うなら、シークさんのお話を聞きましょう」


 渋々、オリヴィアは承諾する。

「……では、屋上で話をしましょう」

「はあ。早くしてくださいね。シークさん」


 (だから「シーク」じゃねえし……っ!)

 

 ★


「で、お話って何ですか? シークさん」

「さっきの授爵式のことだ」

「それがどうかしましたか?」

 きょとんした顔をするオリヴィア。


(まったく気づいていないみたいだな……)


「どうして俺は爵位をもらえないんだ?」

「え……? 授爵式でも言いましたけど、シークさんはダンジョン攻略に何も貢献していないからです」


 オリヴィアは呆れた顔をする。


「いや、俺は何もしなかったわけじゃない」

「えーと……シークさんは何をしましたか?」

「俺はダンジョンに着いて行った。危険なダンジョンにアルフォンスと一緒に潜ったんだ。だから俺にも、爵位が与えられてしかるべきだろ?」

「うーん……」


 頭に手を当てて、考え込むオリヴィア。


「そうですねえ……」


 (おっ! どうやらわかってくれそうだ……っ!)


 やっぱりオリヴィアはヒロインだ。

 ヒロインとは常に、主人公の味方。

 たとえアルフォンスというクソ野郎がいても、心の底ではジークを愛している。

 だからきっと――


「無理ですね」


 オリヴィアはきっぱりと言った。


「えっ……?」

「ダンジョンに一緒に行くことなら、誰でもできます。ジークさんは誰でもできることをしたにすぎません。爵位とは特別な功績を挙げた者だけに与えられるものです。だからジークさんに爵位はあげられません」


 まるで子どもを諭すかのように、優しく俺に言うオリヴィア。


「でも、俺だって――」


 俺は諦めず食い下がろうとするが、


「シークさん、めっ! ですよ! 功績がない人に爵位はあげません!」


 ピシッと、人差し指を立てるオリヴィア。


 (ぐっ……悔しいけどかわいい……)


「じゃあ、お話は終わりですね。あたしはアルフォンスのところに帰ります――」

「待ってくれ……! そんなにアルフォンスがいいのかよ?」

「はい。シークさんよりアルフォンスが大事ですから」


 オリヴィアは即答した。


「そ、そんな……!」


 (俺は主人公なのに――)


「では、また、教室で……シークさん」


 オリヴィアは急いで屋上から消えて行った。


 (最後まで俺の名前を間違えやがって……っ!!)



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