第50話 あたしが霞んでしまうじゃない! レギーネ視点

【レギーネ視点】


「ふう……ここが【栄光の盾】のギルドハウスね」


 あたしとリーセリアは、迷宮都市ロンバルディアに到着した。

 クズフォンスを追ってきたのだ。


「アルフォンスっ! 幼馴染のあたしが来てやったわよ!」

 バンっと、あたしはギルドハウスのドアを開けた。


 チラチラチラチラ「…………」


 ギルドハウスの中にいた冒険者たちは、黙ってあたしとリーセリアを見ている。


「誰だ、あいつら……?」

「どっかの令嬢だろ」

「俺らに何の用だ?」


 ヒソヒソと話すことが聞こえる。


 (貴族の令嬢が訪ねてきたのに、出迎えもない……。失礼な平民たちね)


 アルトリア王国は、貴族至上主義の国。

 平民は貴族に絶対服従が当たり前なのに……


「あんたたち、あたしはレギーネ・フォン・オルセン侯爵令嬢よ。さっさとアルフォンスを呼んで来なさい」

「ちょっとレギーネ……冒険者さんたちに失礼よ」

「いいのよ。平民どもを甘やかしたらつけ上げるから」


 ガタっ……っ!


 奥に座っていた大男が、立ち上がった。

 ゴッツイ鎧と背中に斧を背負っている。


「お嬢ちゃん、ひでえじゃねえか……俺たち平民を見下して」


 あたしに近づいてくる。


「な、なによ……アンタ。貴族のほうが偉いんだから当然でしょ!」

「なんだと……テメエ」


 ずいっとあたしに顔を近づけてくる。

 男の息が、あたしの顔にかかって。


 (酒クッサイわね……っ!)


 昼間から、酔ってるみたいね。


 (これだから冒険者って嫌いなのよ……っ!)


「……ねえ、レギーネ。冒険者さんに謝ろうよ」

「なんでこんな汚いオッサンに謝らないといけないのよっ! しかも平民なのに!」


 平民が貴族に何かすれば、死罪だ。

 だからどうせオッサンは何もできやしない。


 (平民が貴族に逆らうなんて愚かね……)


「お嬢ちゃん……冒険者の怖さをわからせてやるよ」


 オッサンが、背負っていた斧を握る。


 (えっ……ウソでしょ……?)


 薄笑いを浮かべるオッサン。


「な、なにする気よ……」

「へっへっへ、俺がわからせてやるぜ」


 オッサンが斧を振り上げる。


「え、ちょ、待って――」


 あたしは膝がガクガク震えて、


「死ねええええええっ! オラァァァ……っ!!」


 斧の刃があたしの頭上に。


 (た、助けて……っ! 水の魔術師様……っ!)


 あたしは目をぎゅっと閉じた――


「やめろ……っ!」


 (えっ? この声は……?)


「――スライム・ガード!」


 あたしの頭にスライムが出現して、

 斧を、受け止めた――


「な、なんだ……これは……」


 スライム・ガードは、水属性の防御魔法だ。

 そして、聞き覚えるある声。


 (もしかして……水の魔術師様が助けに来てくれたの……?)


「アル様……っ!」


 リーセリアが叫ぶ。


 (アルフォンスが助けてくれた……?)


「スライムが俺の斧に……う、動かねえ……っ!」


 スライムはすっぽり斧を包みこんでいた。

 一生懸命オッサンが斧を動かそうとするが、まったく動かない。


 ギルドハウスの入口に、すごく人相の悪いオッサンと、アルフォンス、オリヴィア殿下、ユリウス殿下、クレハがいた。

 それに、キモジークもいるわ……


「ノーマン……武器を収めてくれ」

「ぐ……っ! ガイウスさん、このメスガキは俺たち冒険者をコケにしたんですよ?」


 人相の悪いオッサンは、ガイウスと言うらしい。


「その2人はアルフォンスくんの友人だ。許してやってくれ」

「いや、俺は絶対に許さねえ……」


 ノーマンがあたしを睨みつける。


「幼馴染のレギーネが、失礼なことしてすみません……。なんとか収めてもらえませんか?」


 アルフォンスが、ノーマンに頭を下げる。


「えっ? アルフォンスが謝ることないのに……っ!」


 オリヴィア殿下が驚く。


「そうです! 悪いのはレギーネです! アルくんが謝ることありませんっ!」


 リーセリアが叫んだ。


 (な、なによ! まるであたしが、悪者みたいじゃない……っ!)


「……わかった。アルフォンスさんに頭を下げられたら仕方ない」


 ノーマンは斧を下げた。


「ありがとうございます」


 アルフォンスがお礼を言う。


「アルフォンスさんの頼みだからな。おい、メスガキ令嬢! 口には気をつけろよ!」

「はあ? アンタ、なに言って――」


 あたしの発言を無視して、ノーマンは外に出て行った。


「レギーネ、本当に口に気をつけろよ……」


 クズフォンスが呆れた顔で言う。


「な、なによ! アルフォンスのくせに! あたしが悪いって言うわけ?」

「うん。お前が悪い」


 クズフォンスが即答する。


 (クズフォンスのくせに何様のつもりよ……!)


「で、何しに来たんだよ? レギーネ」

「それは……」


 と、あたしが言いかけた時だった。


「アル様っ!」


 リーセリアがクズフォンスの胸に飛び込んだ。


「うわあっ!」


 クズフォンスが後ろに倒れる。


「アル様が無事に帰還するか心配で……学園を休んで来てしまいました……」


 クズフォンスの胸で泣き出すリーセリア。


「そ、そうだったんだ……」

「そうよ! わざわざ幼馴染が来てやったのよ! 感謝しなさいよねっ!」

「ありがとう。リーセリア」

「ちょっと! あたしにも感謝しなさいよっ!」


 (まったくムカつくヤツだわ……)


 ★


「ちょっと……何なのよ。このハーレムは……?」


 神剣デュランダルを手に入れたお祝いに、パーティーが開かれた。


 (ファウスト将軍を撃退するなんて……クズフォンスにしてはやるじゃない)


 と、せっかく(少しだけ)褒めてやったのに、


「なによ……デレデレしちゃってっ!」


 クズフォンスの周りには、オリヴィア殿下、リーセリア、クレハがいる。


「アルフォンス、あーんしなさい。これは王女命令です」

「オリヴィア殿下、ずるいです! アル様、あーんしてくださいっ!」

「わたしはアルフォンス様の騎士です。騎士たる者、主人の口に食事を運ぶもの。あーんしてください」


 し、信じられないわ……

 美少女3人が、競ってクズフォンスに「あーん」しようとしているわけで。


(あ、あたしが霞んでしまうじゃない……婚約者なのに~~っ!)


 チラチラチラチラ「…………」


 背後から誰かの視線を感じる。

 あたしが振り返ると、後ろには――


「レギーネさん。お久しぶりです……」


 キモジークが立っていた。

 ニコニコしているけど、目が笑っていない……!


「あ、あ、あ…………」


 怖すぎて、あたしは声が出ない。

 キモジークは、あたしがボロクソ言ったことを知っている。


 (ヤバい……逃げなくちゃ……!)


 あたしは(不本意ながら)クズフォンスのテーブルへ行く。

 ファウスト将軍を倒したクズフォンスの近くにいれば、安全だと思ったからだ。

 クズフォンスに目配せして、あたしは助けを求める。


(これじゃまるで、クズフォンスのハーレムに入りたいみたいじゃないの!)


「どーした? レギーネ」


 クズフォンスがそう言うと、3人(オリヴィア、リーセリア、クレハ)があたしを睨む。


(新しいライバルだと勘違いされているわね……)


「……なによ。あたしがアンタの近くにいちゃ、悪いわけ?」

「別にいいけど……なんだか顔色悪いぞ。なにかあったのか?」

「ふん! アンタに関係ないから!」

「そうか……ならいいけど」


 一応まだ婚約者だから、あたしを気にかけているつもりなのかも……

 でも、クズフォンスの周りには、


「アルフォンス……パーティーが終わったら、あたしの部屋に来て。これは王女命令です」

「王女命令はズルいです! アル様はあたしと一緒に寝るんです!」

「ね、寝るだなんて……。なんと不埒なことを! 騎士として、アルフォンス様をお守りしなればなりませんっ!」


 美少女たちが常にいるわけで……

 しかも、王女殿下と金持ち伯爵令嬢と剣聖だ。

 みんなハイスペック――


 (婚約者のあたしを差し置いて……ひどすぎる!)


 あたしは大いに不機嫌になりながら、ワインをがぶ飲みした。

 

 ★


【アルフォンス視点】


「ふう……今日は疲れた」


 深夜――

 俺はギルドが用意してくれた部屋に、やっと帰ってきた。

 バタンと、ベッドに倒れ込む。

 結局、オリヴィアたちに付き合って、遅くまで飲んでしまった。


「明日、王都へ帰るのか……」


 俺は椅子に立てかけた、神剣ディランダルを見ている。

 原作のシナリオだと、神剣ディランダルはシャルロッテに奪われたはずだが……


「完全にシナリオをぶっ壊してしまったな」


 どんな影響がこの世界にあるかわからない。

 今からでもシナリオ修正して、ジークを主人公に戻さないとな……


「次は授爵式イベントか……」


 原作のシナリオでは、平民のジークが爵位を授かることになる。


 (ジークも騎士爵の下7位をもらえればいいが……)


 万が一、ジークが爵位をもらえなかったら、俺がオリヴィアに掛け合おう。


「そろそろ寝るか」


 俺がランプの灯を消そうとした時、


 ガタっ……っ!


 部屋のドアが開いた。


「誰だ……?」

「アルフォンス、あたしよ……」


 部屋に入ってきたのは――


「…………レギーネ?」



————————————————————————

★1章完結しました!


ここまでお読みいただきありがとうございますっ!


この切りのいいタイミングで、読者のみなさまにお願いがあります!


現在、この作品は異世界ファンタジーランキング12位っ!


ランキングに大きく表示される10位まで、あと少しです……っ!


何とか今日中に10位を取りたいっ! が、ここからの伸びが本当に難しいんです……っ。


この下にある【★で称える】から、1人★3つまで応援することができます……っ。★3つは、冗談抜きで本当に大きいです……っ!


どうかお願いします。


少しでも


『面白いかも!』


『続きが読みたい!』


『次の話も応援してるよ!』


と思われた方は、下の【★で称える】を3回押して、応援していただけると嬉しいです!


レビューもいただけると最高に嬉しいです!


今後も『毎日更新』を続けていく『大きな励み』になりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします……っ。


明日も頑張って更新します……!

(今も死ぬ気で書いてます……っ!)


こちらもよろしくです!


クラスごと異世界に召喚されて死の迷宮に放り込まれたけど、俺は前回の攻略者です。死にたくないクラスメイトが泣きついてくるが、お前ら俺のことイジメてたよな?

https://kakuyomu.jp/works/16817330667711891299

  


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る