第49話 なんで負けイベントに勝つんだよ……! ジーク視点

【ジーク視点】


「なんで負けイベントに勝つんだよ……!」


 俺は(聞こえないように)舌打ちした。

 バルト神殿跡ダンジョンを攻略後の帰り道。


「ファウスト将軍を倒すなんて……さすがアルフォンスっ!」


 オリヴィアがアルフォンスを大絶賛している。


 (いったい何度目だよ……っ!)


 かれこれすでに10回は、オリヴィアがアルフォンスを褒めている。


「うむ……。今回のヴァリエ侯爵令息はよくやったな。いや、俺はヴァリエ侯爵令息を褒めているわけじゃないからなっ! か、勘違いするなよ……っ!」


 ユリウスがアルフォンスに言う。


 (ツンデレの美少女かよ……お前はっ!)


 俺も恥ずかしくなるほどのツンデレぶりだ。

 あの唯我独尊のユリウスが人を褒めるなんてあり得ない。

 完全に原作のキャラ設定が崩壊している……


「さすがアルフォンス様だ。アルフォンス様の騎士として、誇りに思う」

「うむうむ。さすがアルフォンスくんだ。ぜひS級冒険者として我がギルドに迎えたい!」


 クレハとガイウスも、アルフォンスを褒めまくる。


 「さすがアルフォンス」

 「さすがアルフォンス」

 「さすがアルフォンス」


  S・S・A――SaSuga Alfons!(さすがアルフォンス!)


 (ふざけんじゃねえ……っ!)


 アルフォンスは「負けイベント」に勝った。

 原作のシナリオでは、ジークたちは、バルト神殿跡ダンジョンでファウスト将軍とシャルロッテに襲われる。

 ファウスト将軍の圧倒的な強さを前に、ジークたちは敗北し、神剣デュランダルを奪われることになる。

 原作のシナリオを破壊した、大悪党だ。

 しかし――


「神剣デュランダルがあれば、魔王ゾロアークを倒せますね……っ! アルフォンスのおかげです!」


 オリヴィアはさっきから、アルフォンスを褒めちぎっている。

 しかも。


「……アルフォンス。寒いから手をつなぎましょう」


 アルフォンスと手を繋いだり、


「アルフォンス……あたし、足をくじいてしまったようです。おんぶしてくれませんか?」


 (おいおいおいおい。スキンシップ過剰すぎないか……っ!)


 オリヴィアをおんぶするアルフォンス。

アルフォンスの背中に、オリヴィアの大きな胸が――


 (クソクソクソ……っ! あのおっぱいは俺のモノなのに!!)


 あ、そうだった……

 ここは「エロゲ」の世界。

 ヒロインたちは、えっちなんだ。

 好感度が上がれば、いろいろ積極的になるわけで――

 違う。

 そうじゃない。

 ヒロインたちが積極的になるのは、【主人公】に対してだけだ。

 つまり、俺ジーク・マインドにだけ、ヒロインたちはデレるはず。

 なのに――


「ふふ……アルフォンスの背中は大きくて広くてあったかい……」


 アルフォンスの背中に顔を埋めるオリヴィア。

 オリヴィア√に入れば、ジークがオリヴィアをおんぶする。

 これが原作のシナリオの流れだ。

 だから本当なら、俺の背中でオリヴィアのおっぱいを感じていたはず……


 (でも、まあいい……)


 俺には、レギーネちゃんがいる。

 オリヴィアは、アルフォンスにくれてやろう。

 ビッチのリーセリアもくれてやる。

 だが、レギーネちゃんだけは渡せない……!

 何があっても、俺はレギーネちゃんを守る。

 あのクソ野郎からな。


「今夜は祝宴を開こう。我々の勝利にな! ははは……っ!」


 ユリウスが笑う。


「お兄さま。それは間違っています。我々の勝利ではなく、アルフォンスの勝利です。戦ったのは、アルフォンスです。お兄さまはただ見ていただけでしょう?」

「ぐ……っ! そうだが……」


 たしかにユリウスは、ファウスト将軍にビビって陰に隠れていた。


 (第一王子のくせに、情けないヤツだ……)


 それに、他人の功績を自分のものにしようするとは……

 卑しいクズ野郎――これがユリウスのキャラだ。

 原作でもユリウスは、主人公の能力に嫉妬して、ことあるごとに絡んでくる。


 (嫉妬深い設定は原作と同じか……)


「我が妹よ。俺も戦おうとしていたのだ。だがな、俺が出る前にヴァリエ侯爵令息がファウスト将軍を倒してしまった。だから、功績を横取りしたのはヴァリエ侯爵令息で――」


 (おいおい。何を言ってんだ……ユリウス)


「はあ? お兄さまは、岩陰でブルブル子犬みたいに震えてましたよね? 都合良すぎる妄想はおやめください」

「オリヴィア、ちょっと言い過ぎだぞ? 低層の雑魚はユリウス殿下が倒してくれたじゃないか。いてくれて助かったよ」


 アルフォンスは、オリビィアを諌める。


 (クソ……! モブのくせに、いい格好しやがって!)


「ヴァリエ侯爵令息……! キミはなんていい人なんだっ! 王都に帰ったら俺の近衛騎士に推薦しよう」

「ありがとうございます。光栄です……」

「もおっ! アルフォンスはお兄さまを甘やかしすぎです!」


 たしか原作では、ジークが神剣デュランダルを取り返した後、爵位を得る。

 この世界で爵位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵の7つある。

 それぞれの爵位には、対応する【位階】がある。


 公爵:上1位、下1位

 侯爵:上2位、下2位

 伯爵:上3位、下3位

 子爵:上4位、下4位

 男爵:上5位、下5位

 準男爵:上6位、下6位

 騎士爵:上7位、下7位


 ジークは平民だから、一番下の騎士爵の下7位になる。

 だが、準男爵と騎士爵は、一代限りの貴族だ。だから「本物の貴族」としては認められていない。

 最後に魔王ゾロアークを倒したら、一気に伯爵にまで成り上がることに。

 オリヴィア√に入っていたら、オリヴィアと結婚するから公爵の上1位になる。


 (よし。これで騎士爵ゲットだ……っ!)


 原作のシナリオ通りに行けば、神剣デュランダルを取り返したことになるから。俺は爵位をもらえるはず……だよな?

 まさかアルフォンスだけ位階が上がる……なんてことないよな?


「今回の功績は、アルフォンスのおかげです。あたしがお父さまに、位階を上げてもらうよう掛け合いますっ!」

「いいよ……位階なんて。俺も一応、侯爵だし」

「ダメですよ! ちゃんと功績のある人が出世しないといけません! 絶対にアルフォンスの位階を上げてみせます! 王都に帰ったら【授爵式】をしますから」


 授爵式――爵位を授かる儀式のことだ。

 俺は主人公のジーク・マインドだ。

 原作のシナリオは、俺の味方のはず。

 だから授爵式で、俺も騎士爵をもらえるだろう……

 うん。絶対にそうだ!


 (騎士爵になったら、レギーネちゃんに求婚しよう!)


 俺はひとり心の中で、喜びを噛み締めていた。


 ……待っていてくれ。レギーネちゃん!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る