第48話 負けイベントに勝ってしまう

 「全員、死んでもらう……っ!」


 ファウスト将軍が、炎剣イフリートを抜く。

 深紅の刀身が鋭く光る。

 炎剣イフリートは、神装武器のひとつ。

 炎神の意思が宿る剣だ。

 原作の設定では、神剣デュランダルの次に強力な装備。


「焼き尽くしてやる……」


 ファウスト将軍は、炎剣イフリートを掲げる。

 炎剣イフリートが炎を纏って、


「煉・獄・斬――」


 俺に向かって、突進してきた……!

 この戦闘は、いわゆる「負けイベント」だ。

 どんなにこちらのレベルが高くても、ファウスト将軍に負ける。

 ファウスト将軍のステータスは異常に高く、原作のシナリオで主人公たちはボコられる。


 (見えるぞ……っ!)


 ファウスト将軍の動きはかなり早い。

 俊敏のステータスは、全キャラの中で最高の数値。

 クレハとの修行の成果だ。

 学園入学前に、剣聖と毎日のように手合わせした。

 クレハの剣速が俺の中で「標準速度」になっていたから、ファウスト将軍を目で追える。


 ——ガキンっ!


 俺は自分の剣で、炎剣イフリートを受け止める。


「なに……っ! わたしの剣を受け止めるだと……!」


 ファウスト将軍がかなり驚く。

 まあ無理もない。

 原作の設定では、絶対に防御できない攻撃だから。

 普通にストーリーを進めていけば、だいたいレベル20くらいになっている。

 この「負けイベント」の後に、ファウスト将軍と終盤で再戦することになる。

 再戦時のレベルは50くらいだ。

 

 (レベルをどうやら上げすぎたらしい……)


 学園に来る前にダンジョンでレベリングをしてきたから、俺のレベルは――


「貴様のレベルはいくつだ……ステータス表示っ!」


 ファウスト将軍が、魔法を使う。

 【ステータス表示】は、敵のステータスを見抜く魔法だ。


「……れ、レベルが……99!」


 (バレてしまったか……)


 俺のレベルは99だ。

 つまり、レベルは「カンスト」している状態。

 クリア後に行く隠しダンジョンでも、レベルはせいぜい60ぐらいだろう。


「いったいどこでその力を手に入れたのだ……?」


 (仕方ない。もう開き直るか……っ!)


「普通にレベリングしただけだ」

「レ、レベリングとは……?」

「ダンジョンで魔物の笛を吹いて、モンスターを呼び寄せる。それから全体攻撃魔法で、一掃する。それを繰り返して――」

「ちょっと待て。魔物の笛を持っているのか?」

「ああ。たまたまキング・オークがドロップして――」


 このゲームでは、モンスターがアイテムをドロップする。

 ただ……そのドロップ率はかなり低い。

 ドロップ率は、10008分の1だ。

 だからドロップアイテムは、この世界で超貴重なわけで……


「ファウスト将軍、ここは撤退して――」


 シャルロッテがファウスト将軍に言うが、


「いえ……わたしは負けるわけにはいかないのです」

「でも、アルくんのレベルは99です。とても今のわたしたちでは勝ち目がありません」

「し、しかし……わたしは負ける気がしないのです。【お前は勝つ】という声が聞こえるのです……っ!」


 (まあ原作だとファウスト将軍が勝つからな……)


 原作のシナリオが、キャラクターを拘束しているということだろうか……?


「俺も無用な争いは避けたいです。だから、ここは撤退してもらって――」


 俺はファウスト将軍に、撤退を促すが、


「ぐ、ぐ、ぐ……わたしは負けるにはいかないのだ……っ! ああああああっ!!」


 ファウスト将軍が、炎剣イフリートで斬りかかる。


「く……っ!」


 俺は剣で受け止める。


 (ヤバい……っ! 剣にヒビが……!!)


 俺の剣は、実家に置いてあった「鋼の剣」だ。

 つまり、ごく普通の剣なわけで。

 神装武具の炎剣イフリートの斬撃に耐えられない――


 (仕方ない……こうするしかない!)


 バリン……っ!!


「な……っ!」


 俺は拳で炎剣イフリートを叩き折った。


 (レベルが低いキャラは、動きが早すぎて見えないはずだ……っ!)


「あ、あり得ない……神装武具が破壊されるなど……」


 ファウスト将軍が、がくっと肩を落とす。


「あたしたちの負けね……。アルくん、強すぎよ」


 シャルロッテがつぶやく。


「いくらアルフォンスでも、強すぎますわ……」


 さすがのオリヴィアも、俺の強さに引いているようで。

 原作のシナリオでは、この戦闘は「負けイベント」だった。

 他のキャラたちも無意識に、負けることを察していたのだろう。


「……シャルロッテお姉さま。あなたの負けです。降参してください」


 オリヴィアは言うが、


「ふふ。アルトリアの英雄を倒すなんて……アルくんはすごいわ。でもまだ終わったわけじゃないわ。……またね。アルくん――」

「う……っ!」


 まぶしい光が放たれる。

 一瞬、目が見えなくなって――


「いなくなったのか……」


 シャルロッテとファウスト将軍は、消えた。


「アルフォンス、すごいわ! 神剣デュランダルを守ったのよ!」


 オリヴィアが、俺に抱きつく。


 (うお……っ! 胸が当たっている……!)


 勝てたのはよかったけど、また原作のシナリオを破壊してしまった。


 (……!)


 俺の背後から、嫌な気配がする……


「? アルフォンス? どうかしましたか?」

「いや……なんでもない」


 (誰かの殺気を感じたけど、気のせいだよな……)

 

 

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