第47話 あたしの陣営に来れば、アルくんを国王にします

「大人しく神剣デュランダルを渡せ……っ!」


 ファウスト将軍――長い金髪を後ろで結んだじいさんのはずだが……

 大柄で威厳があり、とても老人には見えない。

 しかし、歴戦の戦士の風格がある。

 腰には炎剣イフリートを下げている。

 そして、ファウスト将軍の隣にいるのが――

 シャルロッテ・フォン・アルトリア第1王女殿下。

 深い黒髪に、優しげな瞳。

ドレスから豊かな胸が覗けて……


「わが妹、オリヴィア。神剣デュランダルを渡してください。あたしは争いたくありません。ユリウス兄さまと一緒に、わたしの陣営に下ってください」


 シャルロッテが澄ました顔で言う。


「……お姉さま。神剣デュランダルは渡せません。なぜなら……神剣デュランダルの所有者は、このアルフォンスだからです」

「なるほど……この方が神剣デュランダルに選ばれし者ですか……」


 俺をじっと見つめるシャルロッテ。

 実は……シャルロッテも攻略対象だ。

 原作の設定では、シャルロッテは主人公より3歳年上のお姉さんキャラだ。

 大人の余裕と色気があって、そこが人気で。


「アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵令息……聞いていた評判とはずいぶん違いますね。キモブタクズ貴族という噂でしたのに。なんというか……すごくイケメン」


 (やっぱりひどい評判だな……)


「シャルロッテお姉さま……っ! アルフォンスはあたしの陣営にいますっ! あたしのアルフォンスを取らないでください!!」


 オリヴィアが俺の腕を掴む。


「あたしのアルフォンスって……。アルくんはオリヴィアの【物】じゃないでしょう? 誰の陣営に来るかは、アルくんが決めることじゃない?」

「あ、アルくんって……っ! いきなりそんなふうに呼ぶなんて! 馴れ馴れしいです!」

「あらあら。顔を真っ赤にしちゃって。オリヴィアはアルくんが大好きなのね」

「あ、あたしがアルフォンスを好き……?!」


 顔が赤くなって、動揺しまくるオリヴィア。

 目がグルグル回っている。


 (シャルロッテは、原作の性格と同じだな……)


 原作のシナリオでも、シャルロッテはジークのことを「ジクくん」と呼んでいたが、


「コホン……っ! 真面目に言いますと、アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵令息に我が陣営に来てほしいのです。もしわたしの陣営に来てくれたら、ヴァリエ侯爵令息にアルトリア国王の座をお約束します」

「俺を国王に……?」

「ええ。アルくんのことはわたしの諜報部隊がこっそり調査していました。アルくんの実力ならアルトリア国王にふさわしいです」


 (これも原作の展開の同じだ……)


 シャルロッテは主人公のジークを「アルトリア国王」にすると言ってスカウトする。

 しかし、ジークは断る。

 そして戦闘開始となるのだが――


「ま、待ってください。アルフォンスをアルトリア国王にするということは、シャルロッテお姉さまとアルフォンスは――」


 オリヴィアがまた顔を赤くする。


「そうよ。あたしはアルくんと結婚するの」

「ええっ?! シャルロッテお姉さまとアルフォンスが結婚?!」


 叫び声を上げるオリヴィア。


「アルトリア国王は、最も有能な人物がなるべき。だから、アルくんが国王に一番ふさわしいと思って」

「だ、だからって……アルフォンスとシャルロッテお姉さまが結婚して……夜にあんなことやこんなことを……!!」


 オリヴィアの顔はもっと赤くなって、頭から湯気が出ている。


「オリヴィアは相変わらず、ムッツリさんね。そういうこと可愛い」


 ふふふと、シャルロッテが笑う。


「か、からかわないでください……っ!」


 ぷんぷん怒るオリヴィア。


「アルくん以外にもほしい人材がいるわ。クレハさんやガイウスさんも、我が陣営に高待遇で迎えましょう。どんなギルドよりも高い報酬を支払いますし、爵位も与えましょう」


 (爵位で釣る気か……)


 クレハもガイウスも、Sランク冒険者だ。

 だからダンジョン攻略で金はいくらでも稼げる。

 だが、爵位は別だ。

 どんなに冒険者として実力があっても、平民は爵位を得られない。

 貴族至上主義のアルトリア王国で、平民に爵位が与えられることはなかった。


「アルフォンスさまのお側が、あたしの居場所です」


 クレハはシャルロッテに答える。


「俺も、アルフォンスくんに着いていくよ」


 ガイウスさんがニヤリと笑う。


「なるほど……すべてはアルくん次第ということですね。アルくん。どうしますか? もし断れば、どうなるかわかりますね?」


 ファウスト将軍が炎剣イフリートに手をかける。


「あの……俺は……?」


 ジークが俺の後ろから、シャルロッテに言う。


「えーと……あなたは……どなたかしら?」


 シャルロッテは首をかしげる。


「な、なに……っ! 俺を知らないだと?! 俺は、ジーク・マインドだっ!」

「ジーク・マインド……? ファウスト将軍、知っていますか?」


 シャルロッテは、ファウスト将軍に尋ねるが、


「いいえ。まったく知りません。王位争いの重要人物は、諜報部隊が調査しております。諜報部隊の報告にないということは、どうでもよい人物なのかと……」

「わかりました。……ジーク・マインドさん、あなたは我が陣営に要りません。オリヴィアのところでも、ユリウス兄さまのところでも、どこへ行っても構いません」

「俺はジークなんぞ要らん!」


 ユリウスが憤慨する。


「あたしは……ジークさんはいてもいなくてどちらでもいいです……」


 オリヴィアがため息をつく。


「く……っ!」


 ジークの顔が歪むが、


「ジークさんのことはともかく、アルくん、どうしますか? あたしの陣営に来て、あたしと結婚しますか? もちろん初夜では、あたしを好きにしてくれて構いません」


 (今、さらっとヤバいこと言わなかったか……?)


「……断る。俺はオリヴィア王女殿下の陣営にいる」

「アルフォンス……っ! ありがとう……っ!」


 オリヴィアが俺の腕を掴んで喜ぶ。

 だが、俺はオリヴィアを喜ばせるために断ったわけじゃない。

 シャルロッテの背後には、黒幕のバッキンガム公爵がいる。

 バッキンガム公爵は魔王ゾロアークと通じているのだから、シャルロッテ陣営を勝たせてしまえば、この世界は崩壊してしまう。

 だから、シャルロッテ陣営に味方するわけにはいかなかった。


「わかりました……アルくんがあたしの陣営に来ないのなら、仕方ないですね……」


 シャルロッテは、神剣デュランダルを指さすと、


「封印魔法、マジャスティス……っ!」

「く……っ! やっぱりか……!」


 マジャスティスは、魔族が使う闇魔法だ。

 あらゆる魔道具の効果を封じることができる。

 神装武具も例外じゃなかった。


 (勇者の武器だから封印魔法も無効でいいと思うけど、エロゲだからそこらへんは設定がガバガバというか……)


 とにかく……神剣デュランダルの効果は無効化されてしまう。


「……では、ファウスト将軍。お願いします。ボッコボッコにしちゃってください!!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る