第45話 真の勇者がモブなわけないよね?

「ここが最深部か……」


 俺はつぶやいた。


 古代バルト神殿跡ダンジョンの最深部に、俺たち(アルフォンス、オリヴィア、ユリウス、ジーク、クレハ、ガイウス)はたどり着いた。

 広くて白い、大きな部屋だ。

 中央にある台座に、剣が突き刺してある。


「あれが神剣デュランダル……?」


 ユリウスが指をさす。


「そうですね。神剣デュランダルです」


 俺がそう言うと、


「……ヴァリエ侯爵。まるで見たことがあるかのような口ぶりだな?」

「いえ、俺も見るのは初めてですよ」


 (やばかった……)


 俺はゲームで神剣デュランダルを見たから、すでにどんな剣か知っている。

 長い刀身に、柄に龍の紋章が刻まれている。

 ゲームでは、最強の攻撃力を誇る武器。


 攻撃した時に追加効果がある。斬撃に加えて、雷属性上級魔法【ライトニング・ボルテックス】を発動する。 

 この追加効果で、物理防御力が高い敵を相手にしても、ライトニング・ボルテックスでダメージを与えられる。

 つまり、神剣デュランダルを使えば、敵に対して確実なダメージ源になる。


 さらに、天に向かって剣をかざせば、補助魔法【攻撃力倍化】を発動できる。

 しかも、味方全員に攻撃力倍化をかけられる。


 完全にゲームバランスを破壊する装備だ……

 だが、ゲームの設定上当然だけど、神剣デュランダルは世界に一本しか存在しない。

 そしてジーク専用装備だ。他のキャラクターは装備できない。


 俺たちは、神剣デュランダルに近づいた。


 (画面で見るよりも、迫力があるな……)


 さすがゲーム内「最強装備」の風格があるというか。


「あれ……ここに何か書いてあるな?」


 ジークが石の台座に書かれた碑文に気づく。


【世界を救う真の勇者、この剣を引き抜かん】


 碑文には、そう書かれていた。


「……つまり、【真の勇者】と呼ばれる人間だけが、この剣を抜けるというわけですね」


 オリヴィアはしゃがんで、碑文をじっくり見ていた。

 真の勇者――もちろんジークのことだ。

 ジークだけが、神剣デュランダルを台座から引く抜くことができる。

 たしかそういう設定だったはずだ……


「よし……わたしが引き抜くぞ! わたしこそ【真の勇者】に違いない……っ!」


 ユリウスが、神剣デュランダルを柄に握る。

 もちろんユリウスは……神剣デュランダルを引き抜けない。

 原作のシナリオでは、ユリウスが必死に神剣デュランダルを引き抜こうとするが、全然ビクともしない。

 オリヴィアも引き抜くことができず、最後にジークが引く抜く番になる。

 そして、平民で最も「勇者」から遠い存在だと思われていたジークが、あっさりと神剣デュランダルを引き抜いてしまうわけだ。

 それで周囲のキャラたちはすげえ驚く。この世界の貴族は、かつて魔王を討伐した勇者の血を引いているとされる。

 だから、貴族ではないジークが勇者の武器である神剣デュランダルを引く抜くことは、あり得ないことなのだ。


「……クソっ! まったく抜けない……っ! 俺は王子だぞ! クソクソクソ!」

「お兄さま……もう諦めましょう。お兄さまが【真の勇者】なわけないですもの」


 やれやれと、オリヴィアが呆れた顔で言う。


「次はあたしが引き抜いてみますね」


 ユリウスと入れ替わりで、オリヴィアが台座に登る。


「うんしょ……っ! ……うーん、あたしには引き抜けないみたいです」


 オリヴィアは神剣デュランダルを握りながら、苦笑いした。


 (ここまでは原作のシナリオ通りだな……)


「次は……アルフォンスが試してみて?」


 台座から降りたオリヴィアが、俺に言った。


「いや……俺はいいよ。俺が【真の勇者】なわけないし」


 俺は断ろうとするが、


「ダメです! もしかしたらアルフォンスが【真の勇者】かもないじゃない! 試してみないとわからないし!」


 オリヴィアが俺の肩を掴む。


 (やけにグイグイ来るな……)


 だが、この世界で俺は、ただの「モブ悪役」にすぎない。

 絶対に神剣デュランダルを引く抜くことはできないはず……


「ヴァリエ侯爵が遠慮するなら、俺が先に試してみますね」


 横からジークが台座に登る。


 (よかった。原作のシナリオ通り、ジークが引き抜いてくれる……)


 これで原作の展開に戻ることができる。

 ジークは、神剣デュランダルを引き抜こうとした――


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