第44話 レギーネちゃんは俺を好きなはずなのに…… ジーク視点

【ジーク視点】


 古代バルト神殿跡ダンジョン、中層――


 中層に来て、パーティーメンバーたちは休憩していた。

 他のヤツらは寝ている。

 俺は番をしていた。

 モンスターが来たら、他のヤツらを起こすことになっていた。


「さあて、俺のレギーネちゃんの様子を見るか……」


 (いつものやるぞ……)


「メニュー画面、オープン!」


【メニュー画面を開きました】


 どこからともなく機械的な声がすると、俺の目の前にメニュー画面が出てくる。


「アイテムボックスを選択……と」


 画面に、俺の所持しているアイテムが表示される。


 (はははっ! やっぱり俺が主人公だ)


「水晶玉を選択」


 俺はアイテムボックスから水晶玉を取り出す。

 手の中に、水晶玉が出てきた。


 (このアイテムボックスは奪われなかった……)


 クソアルフォンスに、イベントもヒロインも奪われたが……

 アイテムボックスだけは、俺のものだ。


「……さて、俺のレギーネちゃんの様子を見るか」


 こっそり好きな女の子を見るのは最高に幸せだ。

 俺がやっているのは、盗撮じゃない。

 俺はレギーネちゃんを愛しているから、見守っているだけだ。

 前世じゃ、俺の愛を理解しない女ばっかりだった……

 しかし、ここはいわゆる「エロゲ」の世界。

 男の夢を実現した世界。

 そして、俺は「エロゲ」の主人公だ。

 ヒロインたちは、潜在的に俺に抱かれたがっているはず……


「よし。水晶玉、スイッチオン!」


 (おっ! レギーネちゃんとリーセリアがいる!)


 リーセリアも、アルフォンスに汚されたヒロインだ。


「俺が助けてあげないといけないな……」


 ヒロインを救出するのは、主人公の使命だ。


 (アルフォンスをぶっ殺した後に、必ず助け出してやるからな……っ!)


「きっとレギーネちゃんは、親友のリーセリアに恋愛相談をしたんだろう。それとも、俺からラブレターもらったことを自慢したのかな~~っ!」


俺はワクワクしながら、水晶玉を通してレギーネちゃんとリーセリアの映像を見た――


 (な、なんだ。これは……)


 愛するレギーネちゃんが、俺のことを「キモジーク」だと……


「お、俺がキモい……?」


 レギーネちゃんは、俺のことを、


「キモい」

「キモい」

「キモい」


 と、連呼している。


(聞き違いだろうか……? そうだよな……)


 俺は水晶玉の映像を巻き戻す。


 しかし――


「キモジーク」

「キモジーク」

「キモジーク」


 レギーネちゃんは、たしかに俺を「キモジーク」と呼んでいる。

 しかも、吐き捨てるような口調で。

 まるで汚物を見るような目で。

 信じられなかった。

 これは嘘だ。

 嘘だ。

 噓だ、噓だ、嘘だ。

 あり得ない……!


「俺はこのゲームの主人公だぞ……っ!」


 リーセリアまで、俺を「気持ち悪い」と言ってやがる。

 クソ……! 

 (俺的)負けヒロインのくせに……


「…………」


 俺は息が止まりそうになる。

 俺はレギーネちゃんを、真剣に愛していた。

 オリヴィアのような巨乳ではないが、ケツが良くて好きだった……

 ツンデレな性格も「かわいい」と思っていた。

 だが……レギーネちゃんは、俺を、ジークを、主人公を、拒絶している。


「まるで前世の【三次元の女】と同じだ……」


 三次元の女たちは、俺に冷たかった。

 イケメンには全力で媚まくるくせに、俺は無視されて……


 (俺はこんなに愛しているのに……っ!)


 俺は前世のクソ女どもを思い出して、歯ぎしりしてしまう。


「エロゲのヒロインたちは……アイツらと違うはずなのに」


 これじゃエロゲじゃない。

 これは……現実?


 (も、もしかして……俺は主人公じゃない……?)


 いや、そんなことはない。

 俺は主人公、ジーク・マインド。

 エロゲハーレムの主人公だ。

 俺は岩の間にある、水たまりを見る。

 水面に、俺の顔が映る。

 黒髪、黒目の、ジークの容姿。

 間違いなく、ゲームの主人公のキャラデザだ。


「俺は主人公であって、主人公ではない……?」


 水面に映る顔が、ぐるぐると回って見えてくる。


 (俺は主人公のはずなのに……っ!)


 いや、俺は主人公だ。

 寝ているアルフォンスを見る。


(このまま呪い殺してやりたい……っ!)


 そう思った時、俺は気づいてしまった。

 まさに「ひらめき」「天啓」が来たのだ。


「そうか……アルフォンスの仕業か」


 たぶん、こういうことだろう――

 アルフォンスは、レギーネちゃんを監視していた。

 そのおかげで、俺がレギーネちゃんにラブレターを渡したことを知った。

 それでアルフォンスは、俺を絶望の淵に叩き込むために、レギーネちゃんを洗脳して……

 たしかにレギーネちゃんは、少しお口が悪い。

 だが、それは「ツンデレキャラ」だからだ。

 すごく恥ずかしがり屋で、素直にジークへの「好き」を伝えられないだけだ。

 実際、えっちシーンでは、「ツン」が消えて「デレ」まくる。

 ジークの前だけで、特別に「ツン」を消す女の子なのだ。

 そんな奥ゆかしい公爵令嬢――


「アルフォンスが……俺のレギーネちゃんを汚した……」


 絶対にそうに違いない……っ!

 アルフォンスが【洗脳魔法】を使って、俺の愛するレギーネちゃんを操っているのだ。


 (なんて卑劣なクソ野郎なんだ……っ!)


 本当は「ジークを愛している」レギーネちゃんが、「キモジーク」なんて言うはずない。

 レギーネちゃんは、そんな酷いことを言う女の子じゃない……っ!


「なんてかわいそうな女の子なんだ……」


 アルフォンスに操られて、レギーネちゃんは苦しんでいる。

 愛する主人公に向かって「キモい」と言わされるとは……!


(アルフォンス……貴様は外道だ!)


 俺がレギーネちゃんを解放してやらないといけない。


「このダンジョン攻略が終わったら、必ず俺が助けに行くからね……」


 俺は英雄らしく、ヒロインを救出する決意を固めた。


「さて……」


 レギーネちゃんのお風呂シーンを見よう!

 俺は水晶玉をタッチ操作する。

 前世のスマホみたいに、保存した映像をファイルして再生できる。

 ――しゅるしゅる……

 ブラウス、スカート、下着……と、一枚一枚、服を脱いでいき。


「…………おおおおおおっ! 発展途上の未成熟な胸がががが……っ!」


 ヤバい。

 思わず、叫び出しそうになる。


 (はははっ! 羨ましいだろ! アルフォンス! レギーネちゃんの裸を見たのは俺が先だぞ!)


 アルフォンスに勝った……っ!


「はあ、はあ、はあ~……っ! レギーネちゃんの【全部】が見えて……!!」


 コソコソ……

 俺は一人、レギーネちゃんと結ばれる。


「アルフォンス、ざまあみろ~~っ!」



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