第46話 俺が神剣の所有者なのに……! ジーク視点

【ジーク視点】

 

 神剣デュランダルは、主人公専用武器――

 かつて世界を救った勇者の剣。

 もちろん、ゲーム内最強の武器だ。

 ラスボスの魔王【ゾロアーク】を倒すために必要なアイテムでもある。


 (アルフォンスに触られてたまるか……っ!)


 俺の剣を、モブ悪役に汚されたくない。


「アルフォンスが遠慮するなら……俺が引き抜きますよ」

 

 俺はアルフォンスを押しのける。

 神剣デュランダルは、お前みたいなモブ悪役が触っていいものじゃない。

 台座の上に、俺はゆっくりと登る。

 ゲームのキャラたちが、固唾を飲んで見守る。

 あのアルフォンスも、俺を見ている……

 たしかにここまでは、アルフォンスのせいで世界が狂っていた。


 だが・もう・違う。


 俺が神剣デュランダルを引き抜けば、それは「勇者」の証だ。

 つまり――まごうことなき「主人公」の証。


 (やっと主人公らしくできるぞ……っ!)


 俺は神剣デュランダルの柄を握りしめる。


「よし……っ! 引き抜くぞ~~……っ!」


 ぐいっと手に力を込めるが……


 (ぬ、抜けない……?!)


 嘘だろ。

 抜けないはずはない。

 原作の設定では、神剣デュランダルを台座から引き抜けるのはジークだけだ。


「ど、どうしてだ……? このおおおおおおおお~~……っ!!」


 力まかせに俺は神剣デュランダルを引っ張る。

 しかし、ビクともしない。


「……シークさん。たぶんシークさんでは抜けないみたいですから、今度はアルフォンスに――」


 台座の上で必死に神剣デュランダルを引っ張りまくる俺に、オリヴィアが呆れた顔して言う。


 (しかも名前を「シーク」と間違えているし……っ!)


「いえ……抜けるはずなんですよ。絶対に!」


 俺は思わず叫んでしまう。


「………あの、シークさん、無理しなくていいですよ。シークさんは神剣に選ばれていないのですから。だからアルフォンスに――」


 オリヴィアが憐みの目で俺を見ている。

 しかも、もうアルフォンスに代われと言っている。


 (絶対に嫌だ……っ! アルフォンスに代わりたくない……っ!)


「俺は絶対に抜ける! だって俺は主人――」


 ヤバい……

 つい焦りすぎて言うところだった。

 俺の本当の姿を――


「シークさん、もう降りてください。次はアルフォンスに引き抜いてもらいましょう」

「そうだ。さっさと降りろ。シーク!!」


 オリヴィアとユリウスが俺を降ろそうとする。


 (クソ……っ! 仕方ないか……っ!)


 俺は渋々、台座から降りた。

 ……おかしい。

 絶対におかしい……

 どうしてだ?

 俺は主人公ジーク・マインドのはずだ。

 俺以外に、神剣デュランダルを引き抜けるキャラはいない。

 この世界は、18禁エロゲの【ドミナント・タクティクス】だ。

 どんなにリアルに感じようとも、あくまで「ゲーム」の世界。


 (いったい何が起こっているんだ……?)


「今度はアルフォンスが剣を引き抜いてください。アルフォンスならきっとできます!」


 オリヴィアが目をキラキラさせながら、アルフォンスに期待をかけてる。


 (主人公は俺なのに……っ!)


 アルフォンスと俺で、オリヴィアの反応が全然違うことにイラつく。

 たぶんアルフォンスがオリヴィアを洗脳しているからだ。

 普通、メインヒロインがモブ悪役なんて気にしないはず。

 洗脳魔法を使って、ハーレムを作っているのだ……っ!


「わかった」


 アルフォンスが台座に登る。

 そしてアルフォンスは、俺の神剣デュランダルを握る。


 (クソ……っ! 汚い手で触りやがって……っ!!)


 俺は舌打ちする。

 アルフォンスが引き抜けるはずがない。

 ヤツはモブ悪役だ。

 本来、このイベントに存在していること自体がおかしい。

 とっくの昔に、跡形もなく消え去るキャラだ。

 だから、今、ここにいることが、すでに神聖な原作を冒涜している。

 許せない……!


 (今日、ここで必ず殺してやるからな……っ!)


 俺はそう思っていた。

 しかし、次の瞬間、

 信じられない光景が――


「…………抜けた」


 アルフォンスの手に、神剣デュランダルがあった。

 台座から引き抜かれている……!


「すごいわ! やっぱりアルフォンスが勇者の生まれ変わりだったのね!」


 オリヴィアは手を叩いて喜ぶ。


 (う、嘘だろ……)


 あり得ない・あり得ない・あり得ない。

 神剣デュランダルは、ジーク専用装備のはずなのに……


「さすが我が主人……すごいです!」

「アルフォンスくんは勇者だったのか……通りでな」


 後ろにいたクレハとガイウスも納得している。

 アルフォンスが、神剣デュランダルを手にしていることに。

 まるでそれが、「当たり前」のことみたいに。


 (アイツが勇者……?)


 勇者は俺のはずだろ……

 アルフォンスが台座から降りると、みんながアルフォンスを取り囲む。


 (どうしてなんだ……?)


 原作の設定とまったく違う。

 シナリオは完全に破壊された……


「おい! どけっ!」


 俺はアルフォンスの周りにいるキャラをかき分けて、神剣デュランダルを奪う。


「どうしたんだ、ジーク?」


 アルフォンスが驚くが、


「ぐ……っ! お、重い……っ!!」


 俺は神剣デュランダルを掴み続けるが、


 (お……! 軽くなった……!)


 ふっと、神剣デュランダルがすげえ軽くなる。

 やっと剣が俺を受け入れたんだ……っ!

 そう思った時だった。

 神剣デュランダルは、俺の手を離れて宙を舞い、

 アルフォンスの手の中へ――

 ずっしりと、すげえ重さが腕にきて――


 (な、なんだこれ……? 重すぎるだろ……)


「俺は離さないぞ~~……っ!」

「クソ……っ! よこせ!!」

「おい!」


 俺はアルフォンスから、神剣デュランダルを奪い取る。

 しかし――

 神剣デュランダルは俺の手を離れて、再びアルフォンスの手に戻る……


「これは神剣の意思ですね」


 オリヴィアが、神剣デュランダルを見ながら言う。


「し、神剣の意思……?」

「勇者の装備【神装武具】には、意思が宿ると言われています。神装武具が勇者であると認めた者にしか、自らを触れさせないのです。そして、勇者でない者が手からは離れると」


 そうだ。たしかそんな設定があった。

 今まで存在を忘れていた。

 主人公の俺には、どうでもいい設定だと思っていたから……


「そんな……」


 呆然としていた俺だが、


「その剣を渡すか、それとも死か……」


 ファウスト将軍が現れた――



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