第36話 リーセリアのメイドを脅迫する レギーネ視点

【レギーネ視点】


 ——アルフォンスたちが冒険者ギルドに向かっていた一方その頃。


「誰がリーセリアの婚約者か、言いなさい」

「ぐ……っ!」


 あたしはベンツ伯爵家のメイド——クリスティアを尋問している。

 クリスティアは、リーセリア専属のメイドだ。


 取り巻きの令嬢たちを使って、あたしの部屋に連れて来たのだ。

 親友のリーセリアのことで相談がある……と言って誘い出した。


 クリスティアを椅子に座られて、拘束魔法で腕を縛った。


「それは決して言えません……っ! もし言えば、リーセリアお嬢様への裏切りになってしまいます!」

「へえ……。これでも言えないのかしら?」


 あたしはテーブルに、皮袋を置く。


 皮袋の中には、レギオン金貨がたくさん。  


 ざっと100枚は入れておいた。


 平民は一生手に入らない金額。平民は金貨1枚さえ普通は手に入らない。

 クリスティアは、喉から手が出るほどほしいに違いない。


 (魔法で偽造した金貨なんだけどね……)


 バカな平民は気づかないから大丈夫だけどw


「う……っ。それは……」

「アンタ、お金に困ってるんでしょ? 故郷の妹が重い病だって言うじゃない。このお金があれば、治療できるわよ」


 病や呪いを治療するには、アテナ教会にお布施が必要だ。

 治癒する病が重ければ重いほど、たくさんのお布施が求められる。

 魔法が使えない平民は、アテナ教会にお布施するしかなかった。


「しかし……お嬢様を裏切るわけには——」

「大丈夫よ。もしベンツ伯爵家をクビになったら、あたしがメイドとして雇ってあげるから」

「本当ですか?」

「ええ。本当よ。嘘はつかないわ……」


 もちろん「嘘」だ。


 ベンツ伯爵家を裏切ったメイドをあたしの家(オルセン侯爵家)で雇えば、確実にベンツ伯爵家と関係が悪くなる。

 ベンツ伯爵家は、かつて世界を救った勇者の血族と言われている家柄だ。

 だから表立って対立するわけにはいかない。


 (クビになったら、全部アンタが裏切ったせいよ)


「さあ、誰が婚約者か言いなさい……っ!」

「リーセリアお嬢様の婚約者は——」

「婚約者は?」

「ユリウス王子殿下……」

「な……っ!」


 まさかユリウス王子殿下が、リーセリアの婚約者だったなんて!

 

 あたしは一瞬、驚いてしまうが、


 (まあ、あり得ないことじゃないわね……)


 ベンツ伯爵家は勇者の血を引く家柄。


 王族が勇者の血族を欲しがるのは自然なこと。


「ふーん。ありがとね……」

「では、これはいただいても——」


 クリスティアはレギオン金貨に手を伸ばすが、


「ダメよ!」


 ピシャリと、あたしはクリスティアの手を叩く。


「な、なぜですか? ちゃんと話しましたよ?」

「アンタはあたしのスパイになりなさい。リーセリアの動きをすべてあたしに報告するの」

「そ、そんなことできません……!」

「あら、いいのかしら? リーセリアに全部バラすけど?」

「それは……」


 クリスティアの表情は絶望している。


 そう。あたしはこのメイドを罠にかけたのだ。


 もしあたしを裏切れば、リーセリアに捨てられる。


 これでクリスティアは逃げられない。


 あたしは、都合よく動く駒を手に入れたのだ。


 (あはは! 哀れなメイドだこと……!)


 思わずほくそ笑んでしまうあたし。


「後はユリウス殿下にバラすだけね……!」

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る