第37話 完璧な原作シナリオを破壊する、アルフォンスは悪。

 俺たち4人(アルフォンス、オリヴィア、ユリウス、ジーク)は、迷宮都市ロンダルディアに到着した。


 王都とは違って、なんだか不穏な空気が漂っている。


 ロンダルディアで最強の冒険者ギルド【栄光の盾】へ向かう。


 原作のシナリオでは、栄光の盾にいる剣聖クレハ・ハウエルと主人公ジークが手合わせして、ジークがクレハに勝つ。

 貴族嫌いのクレハだったが、ジークの実力に感服する。

 ロンダルディアの中央にあるダンジョン【ギアナの大穴】からワイバーンが出てきて、街の女の子が襲われる。

 そのワイバーンをジークが討伐して、クレハはジークを好きになって――これが原作のクレハの登場シーンだ。


 だが、クレハはすでに俺の騎士になっているわけで……

 すでにロンダルディアでのシナリオも完全に破壊しているわけだ。


 だからここではどんな展開になるか……読めない。


 俺たち4人(アルフォンス、オリヴィア、ユリウス、ジーク)は、ロンダルディアの中央通りを歩く。


 横道に入れば危険なヤツラがいるが、この中央通りは衛兵がいて治安が保たれている。少なくとも昼間は。


「ヴァリエ侯爵。こないだの学園新聞の記事、読みましたよ」


 ジークが話しかけてきた。

 気さくな笑顔で。


「いやあ、ヴァリエ侯爵はすごい。黒狼カルテルをたった1人で倒すなんて」

「いや、たまたま運が良かったというか……」

「そんなことないです! 全部、ヴァリエ侯爵の実力ですよ」


 (妙に持ち上げてくるな……)


「ところで……ヴァリエ侯爵のその強さの秘密は、どこから来るのです? セプテリオン魔法学園に来る前に、何か特別な修行をしたのでは?」


 にっこり笑いながら、俺の顔を覗き込むジーク。

 まるで腹の中を探るような、含みのある言い方で。


「特に何も……してないです。普通に家庭教師についていただけで」


 もともと怠惰な性格のアルフォンス。

 放っておけば「クソ雑魚」のままだった。


 (こんなこと、主人公のジークに言えないが……)


「きっとヴァリエ侯爵の才能なのですね。才能ある者が努力したから、強い力を手に入れたのですね」

「いや、そんなことは……」


 黒狼カルテル襲撃イベントは、原作のシナリオならジークが活躍する。

 それを俺が奪ったわけだ。

 だが、ジークはあくまでドミナント・タクティクスのキャラクター。

 いくら主人公とは言え、ただのゲームのキャラ。

 要するに、自分が主人公であることを知らない。

 自分が主人公であることを知らない主人公――なんだか矛盾しているような気がするが、俺から見ればジークはそういう存在だ。


 (もしもジークが、俺と同じ転生者でなければ……の話だが)


 ジークも俺と同じ転生者なら、俺は主人公のイベントを奪ったヤツになるはず。


「これから一緒に戦う仲間なんです。ヴァリエ侯爵は、平民や亜人にもお優しい。もしよかったら、お互いに名前で呼び合いませんか?」

「もちろん。ジーク」

「ありがとう。アルフォンス」


 ジークは俺の肩に触れた。


 (ジークが転生者なわけないよな……?)


 ジークの笑顔を見ると、とても「嘘」には見えない。

 原作の設定では、ジークはいわゆる「いいヤツ」だ。

 弱い者に優しくて、誰にでも親切。

 努力家で常に謙虚な性格。

 非の打ち所がない人柄だ。


「ぼくたちはこれで友達ですね。アルフォンス」

「ああ。ジーク」


 モブ悪役と主人公が「友達」になる。

 そういう展開も悪くないかもしれない。

 レギーネみたいに原作より変なキャラもいたけど、ジーク原作通りの「いいヤツ」ぽっく見える。


 しかし……ガベイジ伯爵との決闘で、俺に放たれたライトニング・アローが気になる。

 もしかしたら、ジークも俺と同じ「転生者」かもしれない。

 その可能性は、やっぱりあるかもしれない……



 ★


【ジーク視点】


 ――ロンダルディアへ向かう馬車の中。

 俺は腹の底からムカついた。

 アルフォンスと(俺の)オリヴィアが、イチャイチャイチャイチャしている。

 俺のヒロインと、目の前で乳繰り合っていやがる。

 腹わたが煮えくりかえるとは、こうこう感じなのか。

 俺の推しヒロインは、オリヴィアだ。

 普段はアルトリア王国の王女として気丈に振舞っているが、ジークの前ではデレデレ甘える。


 そして何より、エロい。

 そう――この世界は「エロゲ」なのだ。

 エロゲは、俺の青春だった。

 ヌコヌコ動画でエロゲ実況を投稿していた大学時代。

 声と絵と文章が一体となって、ヒロインたちのエロスを味わう……

 これぞ、至福なり。

 オリヴィアのえっちシーンで俺は100回は抜いた。

 豊満なたわわに実った乳房で、ジークのモノを――

 包み込むように、優しく、癒してくれるのだ……

 オリヴィアのおっぱいは、ジークだけのもの。


 なのに、


 なのに、


 なのに、


 俺の目の前で、乳繰り合っていやがった。

 許さない、許さない、許さない。


 しかも、アルフォンスが俺から奪ったのはオリヴィアだけじゃない。

 レギーネとリーセリアも、俺から奪いやがった。

 レギーネはおっぱいが小さい。

 だが、ケツが大きい。

 実はレギーネのコンプレックスは、貧乳でケツがデカいこと。

 だが、俺は貧乳も好きだ。


 ……いや、もちろん巨乳のほうがいい。


 レギーネの場合は、普段は強気でツンツンツンツンしているが、主人公ジークの前で裸になると、急に弱くなる。

 自分の身体に自信がないからだ。

 えっちの時は、レギーネはかなりドM。

 ジークに責められるのが大好き。

 いろいろジークに開発してもらって、奴隷になりたいと思っている。

 あのデカいケツをいろいろ愉しめることに期待していた。


 ――しかし、レギーネはまだ、アルフォンスと婚約破棄していない。

 原作のシナリオでは、アルフォンスは序盤でレギーネに婚約破棄を言い渡されている。

 レギーネはアルフォンスの婚約者のままだ。

 つまり、レギーネはアルフォンスのものになっている。


 リーセリアは、実は一番正統派のヒロインだ。

 オリヴィアやレギーネみたいに、実は「変態」「痴女」というわけじゃない。

 性格は優しくて母性があって少しお姉さんぶる。

 だけどえっちの時は、少し甘えん坊。

 レギーネみたいにドMじゃない。

 ジークをリードしてくれることもある。

 普通にデートして仲を深めて、普通の優しいえっちをする。

 だが、エロゲ廃人の俺からすると少し物足りない。


 だから、俺の推しヒロインランキングは、1位がオリヴィア、2位がレギーネ、3位がリーセリアだ。

 1位、2位、3位まで、すべてのヒロインがアルフォンスに取られている。

 この状況を打開して、ヒロインたちを救い出す方法は、たった1つ。


 それは――アルフォンスを殺すことだ。


 アイツは、この世界にいちゃいけない。

 存在自体が許されない。

 このゲーム、この世界の「理」を破壊する危険人物。

 殺すしかない。

 アイツを殺して、存在自体を消し去るしかない。

 正しい世界を取り戻すのだ。

 これは……正義。

 完璧な原作シナリオを破壊する、アルフォンスは悪。

 完全な、純粋な悪。

 俺は正義、アルフォンスは悪。

 ヒーローには、悪役をやっつける義務がある。

 アルフォンスは、本来「悪役」だ。

 しかもモブ。

 だから主人公たる俺が、負けるわけない。

 絶対に勝てる。


 俺は主人公、俺はジーク、俺は世界最強……


 (絶対に殺してやるからな……)


 俺にオリヴィアとのイチャイチャするアルフォンスを見て、俺は心に「殺」を誓うのだった。


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