第33話 アル様と既成事実を作らないと リーセリア視点

【リーセリア視点】


 ——アルフォンスとのデートの後、学園の寮。


「レギーネはアル様を絶対好きよね……」


 アル様を「クズフォンス」と言っているけど、それは気持ちを誤魔化しているだけ。


「自分の気持ちに、きっと気づいてないのね」


 レギーネらしいと言えば、レギーネらしい。


 あたしとレギーネは、令嬢学校でずっと一緒だった。


 令嬢学校は、貴族の令嬢としての教養や礼儀作法を学ぶ学校。

 魔法学園に入る前に、令嬢たちが学ぶ場所。

 授業はすこぶる退屈だったけど、レギーネと一緒なら楽しかった。


「いつまでも親友でいようって、約束したのに」


 あの頃からレギーネは、幼馴染のアル様を悪く言っていた。


【アルフォンスはキモい】

【アルフォンスは無能】

【アルフォンスは臭い】


 「キモブタ」「キモブタ」とよく言っていた。


 親友のレギーネがそこまで悪く言うのだから、すごく酷い人だと思っていた。


 だけど、実際にアル様に会ってみたら——


「すっごくカッコいい人だった……」


 ガベイジ伯爵との決闘の時。


 アル様はみんなに笑われながらも、1年生で1番強いガベイジ伯爵を倒した。


 魔力が多くても謙虚だし、魔法だけでなく剣の才能もある。


 亜人の女の子を助けたことも聞いた。


「あんな貴族は見たことない……」


 魔力の多い貴族は、ほとんど傲慢になる。


 ユリウス王子殿下みたいに。


 王族と言えば……


「アル様はオリビィア王女殿下のお茶会に誘われていたっけ……」


 幼馴染のレギーネもライバルだけど、オリビィア王女殿下はもっと強いライバルだ。


「オリビィア王女殿下も、アル様を好きよね……」


 オリビィア王女殿下の目を見ればわかる。


 あの目は、恋する乙女の瞳。


 何より、アル様とは「呼び捨て」で呼び合う仲だ。


「はあ……アル様の周りは可愛い女の子だらけ」


 オリビィア王女殿下はもちろんすごく可愛い。


 令嬢の中でもファンがたくさんいるくらいだ。


 レギーネは……まあ性格はともかく、見た目は可愛いと思う。


 (昔はあんな子じゃなかったのに……)


 アル様の悪口は昔から言っていたけど、あたしや他の子たちには優しかった。

 でも、今は人の悪口ばっかり言っている。  

 

 なんだかイライラしているというか……


「レギーネとオリビィア王女殿下よりも先に、アル様と【既成事実】を作らないと……」


 まず、アル様のいる男子寮に忍び込む。


 それから、アル様の部屋に入る。


 寝ているアル様のベッドの中に……


「メイドと騎士が部屋にいるから、催眠草を焚いて眠ってもらいましょう」


 街で買っておいた催眠草を使う。


 催眠草を燃やして出る煙を吸えば、朝まで起きない。


「朝まで何回できるかしら……?」


 既成事実を証明するためには、血のついたシーツが必要。


 ちゃんとアル様を楽しませるために、あたしも準備しておかないといけない。


 令嬢学校では、初夜の心得まで教えてくれなかった。

  

「まさかお母様に聞くわけにいかないし……」


 あたしはベンツ伯爵家の長女だから、上にお姉様もいない。


「誰に聞けばいいのかしら……?」


 もちろん、レギーネにも聞けない。


「もしかして……レギーネもオリビィア王女殿下も、同じこと考えているかも」


 レギーネもオリビィア王女殿下も、アル様を手に入れるためには、既成事実を作らないといけない。

 

 先に既成事実を作られたら、もうあたしはアル様と一緒になれない。


「あ、冒険者ギルド派遣があった……」


 オリビィア王女殿下は、冒険者ギルド派遣でアル様と一緒だ。


 そこなら、誰にも邪魔されずにアル様と「事」をなせる。


「どうしよう……アル様がオリビィア王女殿下に取られてしまう」

 

 アル様の「初めて」をいただくのはあたしなのに……っ!


「なんとしても、あたしも潜り込まないと!」



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