第32話 クズフォンスはあたしのものだから

「動いたら殺すぞ……っ!」


 黒い狼の被り物つけた男たちが、店に押し入って来た。


「黒狼カルテルか……」


 黒狼カルテル襲撃イベント——


 黒狼カルテルは、王都に巣喰う犯罪組織。

 黒狼の被り物と、黒い尻尾が特徴だ。

 王都のスラムを拠点として、麻薬やら強盗やら、あらやる犯罪を取り仕切っている。


 一見、獣人族ぽっく見えるが、実は元冒険者たちが獣人族の犯行に見せかけるためのカモフラージュ。

 黒幕は、獣人族を差別する宰相のバッキンガムだったはず——そういう設定だ。


 原作では、ジーク、レギーネ、リーセリアで黒狼カルテルを撃退することになっていた。


 (店の中に人がたくさんいる。ここはひとまず、ヤツラの指示に従っておこう……)


 隙を伺うことにした。


「おい! 早くここを開けろ!」


 黒狼カルテルの男が、アンジェリカさんを怒鳴る。


「わ、わかりました……」


 一番高価な魔宝石のあるショーケースをピンポイントで狙っている。


 つまり、黒狼カルテルは、どこに高価な魔宝石があるか事前に知っている。


 (計画的な犯行だ……)


 黒幕のバッキンガム宰相は、亜人差別に反対するベンツ伯爵家の敵だ。

 亜人であるエルフの経営するこの店を、いつか襲うもりだったのだろう。


「オラァ! 早くしやがれっ!」


 黒狼カルテルの男が、剣を振り上げる。


 (マズイ……っ!)


「やれっ! プギーっ!」


 この店の床全体に、プギーを浸透させておいた。


 俺の命令があれば、プギーが動き出す。


 床から水色の手が出て来て、男の腕をつかむ。


「おわ……っ! な、なんだこれは……?」


 他のヤツラも、プギーが腕と足を拘束する。


【クソ! 動けねえ!】

【スライムが身体に……】

【は、離れない……っ!】


 全員、速やかに拘束完了だ。


「あたしたちの出番なかったわね……」

「そうね。アル様がすごすぎて……」


 レギーネは炎属性の魔法、リーセリアは風属性の魔法を使う。


 原作では、ジークと共に黒狼カルテルと戦う。


 黒狼カルテルは経験値がたくさんあるから、2人(レギーネ、リーセリア)は、レベルアップできるわけだが、


 (俺が全部経験値を取ってしまったな……)


「よし。衛兵を呼んでこよう」


 ★


【レギーネ視点】


 ——2人(アルフォンス、リーセリア)と別れた後、学園の寮の部屋。


 今日は散々な日だった……


 完璧な変装魔法をしたのに、クズフォンスに見破られるし、


 アムザックをたくさん食べさせられるし、


 アンジェリカ魔宝石店で強盗に襲われるし……


 (何かに取り憑かれてるのかしら……?)


 あの強盗事件の後、黒狼カルテルは衛兵に捕まった。


 何ヶ月も前から、アンジェリカ魔宝石店を狙っていたらしい。


 あえて店内に人がたくさんいる白昼を狙ったのは、お客さんの令嬢たちを人質にするつもりだったそう。


 それにしても——


「婚約指輪を用意してるなんて……外堀を埋めすぎよ」


 リーセリアは、アルフォンスとの婚約指輪をすでに用意していた。


 今の婚約者と、婚約破棄してアルフォンスと結ばれる気でいる。本気で。


「あとは、クズフォンスと既成事実を作るだけね……」


 貴族社会の慣習で、既成事実があれば即婚約破棄になる。


「もしかして、夜な夜なクズフォンスと……?」


 夜這いを仕掛けるつもり……?!


 想像すると、顔がすっごく熱くなる。


 (このままじゃ、クズフォンスはリーセリアのものに)


 あたしができることは、たった1つだけ。


 それは——リーセリアの婚約者を突き止めること。


「誰がリーセリアの婚約者か突き止めて、その人にクズフォンスのことを暴露すればいい……」


 リーセリアがクズフォンスにアプローチしていると婚約者が知れば、きっと阻止するに違いない。


「親友の恋路を邪魔するなんて……最低よね」


 でも、クズフォンスはあたしの婚約者だ。


 それに最低、クズフォンスは(ほんの少し)イケメンになったし、水の魔術師様にちょっとだけ似てる。


「ま、本物の水の魔術師様には及ばないけどね……」


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