第31話 主人公専用装備を入手してしまう

 俺たちはアムザックの店を出た。


 レギーネとリーセリアにめちゃくちゃ食わされて、腹がいっぱいだった。


 ブランド商会通りを3人(アルフォンス、レギーネ、リーセリア)で歩いていると、


「あ、魔宝石の店がある……っ!」


 リーセリアが指さした先には、


 アンジェリカ魔宝石店――


 王都一の魔宝石の店だ。


 アルトリア王家の御用達の店で、現アルトリア王妃も身に着けている。


 魔宝石は、ダンジョンでモンスターがドロップする魔力を帯びた鉱石――魔石の中でも、特に貴重な魔石を「魔宝石」と呼んでいる。


 ざっくり言えば、魔石の中でレアな石を「魔宝石」と呼んでいる感じだ。


「アル様、ちょっと見て行ってもいいですか?」

「うん。いいよ」


 俺は軽い気持ちで返事をしたのだが、


 店に入ると、


 カップルだらけだった……っ!


 (みんな、婚約指輪を探している……っ!)


「ふふふ! アル様、あたしたちみたいな人たちがいっぱいいますね!」


 リーセリアが、俺の右腕をぎゅうっと強くつかんで、


 柔らかい大きな胸が押し当たる……っ!


 (すげえ柔らかい。いい匂いがする……)


「ちょっと! リーセリアに触らないで!」


 俺の左腕をレギーネが引っ張る。


 (いや、リーセリアのほうから掴んできたのだが……)


 しかも、レギーネのまな板(失礼)を押しつけてくる。


【おい。あいつ、婚約者が2人いるのか?】

【どっちが正妻なのかしら……?】

【どっちもすげえかわいいじゃん】


 店内がざわつく。


「リーセリア様、いらっしゃいませ!」


 奥からエルフの女性が出てきた。


 金髪のきれいな、お姉さんのエルフだ。


「アンジェリカ、久しぶり」


 このお姉さんのエルフが、店主らしい。


「お待ちしておりました。あらあら。今日は将来の旦那様をついに連れてきたのですね?」

「はい! あたしの愛する婚約者の、アルフォンス様ですっ!」

「え……っ?」


 いきなり「婚約者」として、紹介されてしまった俺。


「かっこいいフィアンセですね。ぴったりの婚約指輪を選んで差し上げますわ」

「ふふ。アンジェリカ、お願いね!」

「あの……これはいったい?」


 いきなりのことに、混乱しまくる俺だが、


「当店はベンツ伯爵家のご支援を受けています。先々代から、ずっとベンツ伯爵家と懇意にしているのです。リーセリア様は幼い頃から、よく当店に遊びに来ていました」


 どうやらリーセリアの実家――ベンツ伯爵家は、アンジェリカ魔宝石店の「パトロン」らしい。

 この世界の貴族は、自分が気に入った商人や冒険者のパトロンになる。

 有力な貴族のパトロンになれば、商人や冒険者は様々な特権を得られるわけだ。


「ベンツ伯爵家のおかげで、質の良い魔宝石が手に入ります。リーセリア様のために、特別な品を用意しました」


 魔宝石は、ダンジョンにいる【宝石獣】と呼ばれるSランクモンスターがドロップする。

 宝石獣からのドロップしか手に入らないから、ランクの高い冒険者に討伐を依頼する必要がある。

 冒険者から身を立てたベンツ伯爵家に庇護があれば、冒険者ギルドに顔が利くようになるわけだ。


「……これが、リーセリア様とアルフォンス様のために用意した、魔宝石の指輪です」


 アンジェリカさんが奥から小さな木箱を持ってきた。


 木箱を開けると、指輪が2つ入っていた。

 サファイアのような青い魔宝石がついている。


「リヴァイアサンがドロップした、魔宝石で作りました。特別な加護があるようです」

 

 リヴァイアサンの指輪――リーセリア√でしか手に入らないアイテムだ。

 もちろん、主人公ジークの専用装備。

 装備すれば、なんと攻撃力が2倍になる。

 ステータスバフ系の装備では、最強だと言われている。


 (ジーク専用の装備だけど、俺は装備できるのかな……?)


 このゲームは【強くてニューゲームモード】があって、それぞれの攻略対象の√でしか入手できない√専用アイテムを持ち越したまま、次のヒロインを攻略できる。


 リーセリア√を攻略するプレイヤーは、リヴァイアサンの指輪が目当なわけで……


 (俺が勝手に手に入れても大丈夫かな……?)


「では、試着してみましょうか。指を出してください」


 俺が左手の薬指をアンジェリカさんに出すと、


「ま、待ちなさいよ……。アルフォンスの【本当の婚約者】を差し置いて、婚約指輪をつけるなんて……そんなの絶対、絶対、絶対、ダメよ!」


 さっきまで呆然としていたレギーネが、俺の左手を掴んだ。


「レギーネ……ただ試しに指輪をつけるだけよ。サイズが合わないといけないから」

「おかしいでしょ! それじゃまるで、もうアルフォンスと婚約したみたいじゃない……」

「まだ婚約はしてないわ。まだ婚約の予約をしているだけで」


 婚約とは、結婚の予約だ。


 その婚約の予約――うーん、よくわからない……。


「とにかくダメ! アルフォンスはあたしの婚約――」


 レギーネがそう言いかけた時、


「オラァ! お前ら全員、動くんじゃねえ!!」


 覆面をつけた男たちが、店に押し入ってきた。


 (強盗だ……っ!!)

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