第29話 なぜかレギーネも一緒に

「えっ? あの子……本当にレギーネなの?」


 リーセリアが目を丸くして俺に尋ねる。


「ああ。変装魔法で姿を変えているんだよ。なぜか知らないけど……」


 レギーネの髪は薄桃色で、瞳は鳶色。


 だが今は、髪も瞳は黒だ。


「あ……あははは。レギーネって誰かしら? あたしは通りすがりの令嬢で……」


 全力で白を切るレギーネ。


 (どうして正体を偽るんだ……?)


「たしかに……よく見るとレギーネに似てるわね……」


 リーセリアは、じーっとレギーネの顔を覗き込む。


「い、いや……っ! やめて! は、恥ずかしいから……っ!」


 レギーネは顔を両手で隠す。


 高い声……完全にレギーネの声だ。


 変装魔法で声まで変えるのは難しい。


「ねえ、レギーネ。ここで何してるの?」


 怪訝な顔をして、リーセリアが聞くが、


「た、たまたまよ! あたしも買い物したくて……」

「何を買いに来たの?」

「え、えーと、えーと、えーと…………あははは……」


 レギーネは手ぶらで何も持っていない。


 目がキョロキョロ、泳ぎまくっている。


「そ、そうだっ! あたしもアムザック食べたいのよ! だから食べに来たの!」


 めちゃくちゃ焦りながら言うレギーネ。


 (まるで今、思いついたみたいだな……)


「アムザック好きだったけ?」


 レギーネは、肉をあまり好きじゃなかったはずだが、


「好きよ! あたしはアムザック大大大好きだものっ! あたしがアムザック好きだった悪いわけ?」

「いや、悪くはないけどさ……」

「ふふんっ! あたしは生まれた頃からアムザック好きだったからねっ! これで文句ないでしょ! ふははははっ!」


 謎の高笑いをするレギーネ。


 (どこの悪役令嬢だよ……?)


「で、アルフォンス、どうするわけ……?」

「どうするって……?」


 (なんだかすげえ嫌な予感がする……)


「言わなきゃわかんないわけ? はあ、やれやれ……本当にアルフォンスはダメね。あたしがアムザック好きだって言っているわけよ? そして、目の前に、美味しそうなアムザックのお店がある。だから――」

「だから……?」

「もうっ! なんでわかんないのよっ? バカっ!」


 俺の胸をポカポカ叩いてくる。


 (地味に痛いのだが……)


「ほら、あたしを誘いなさいよ! 【レギーネちゃんと一緒にアムザック食べたい】って言いなさいよ……っ!」

「ああ……そういうことか……」


 (誘ってほしい、ってことなのか……)


 やたら怒りまくっているから、よくわからなかった。


「……レギーネも、一緒に食べる?」

「いいわよ。アルフォンスと一緒に食べてあげるわ」


 ふんっと、鼻を鳴らすレギーネ。


 (なんでこんなに偉そうなんだよ……?)


「レギーネも……一緒に?」


 リーセリアが泣きそうな表情をしている。


 俺の腕をぎゅうと掴んで、


「こらっ! アルフォンスっ! リーセリアを触るんじゃないわよ!」

「えっ?」


 (リーセリアほうから俺を掴んだのに……?)


「アル様は悪くない。あたしからアル様に触ったから」

「……?!」


 リーセリアは澄ました顔で言うが、レギーネは顔を真っ赤にして、


「……リーセリアがアルフォンスに襲われたらと思って」

「アル様はそんなことしない。アル様はとっても紳士だから」

「ぐ……っ」


 黙り込むレギーネ。


【令嬢が男を取り合っているぞ】

【2人ともかわいいじゃん】

【クソ、めちゃくちゃ羨ましい……】


 アムザック店の前で、ずっと言い合いをしていたら、


 だんだん目立って来てしまったようで。


 (これはマズイな……)


「2人とも、早く店に入ろう……ここだと目立つから」

「そうね。あたし、アムザック大好きだから。早く早く早く食べたいっ!」

「もお。あたしがアル様を誘ったのに……」


 妙にテンション高いレギーネと、不満げなリーセリア。


 正反対の2人を連れて、俺は店へ入った。


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