第23話 決闘の最中に何者かに襲われる(だけど勝つ

 放課後——


 講堂の南にある、訓練場にAクラスの学園生は集まった。


「よく逃げなかったなっ! 無能のヴァリエ侯爵……っ!」


 ガベイジが、俺を煽ってくる。


 (俺は逃げたかったのだが……)


「アルフォンスは、あなたごときに負けません。あなたこそ、逃げたほうがよくてよ?」

「ぐ……っ! 王女殿下に守ってもらうとは……。どこまでクズなんだっ!」


 オリビィアに煽られて、イラつくガベイジ。


 ていうか、煽ってるのオリビィアなのに、なんで俺がディスられるんだよ……


「賭けのオッズはどうなってる?」

「1:9で、ガベイジ伯爵の優勢だ」

「俺もガベイジ伯爵に賭けよう」


 (おいおい。アイツら……。賭けてやがる……)

 

 しかも、俺は圧倒的に劣勢らしい。


 みんなアルフォンスが負けると思っている。


 それもそのはず。


 ガベイジは、貴族でありながらAランク冒険者だ。


 学園の入学前に、すでに難易度Aランクのンジョンを攻略している。

 深層にあるレア度Aランクの武器【神龍の剣】を持ち帰り、【攻略者勲章】を国王から賜った。

 ……たしか、そういう設定だったはず。

 

 一方、アルフォンスは(表向き)何の功績もない。


 原作の設定では、アルフォンスの戦闘力はクソ。


 最速プレイなら、レベル3のジークで倒される雑魚だ。


 だからまともな頭のヤツなら、アルフォンスに賭けることはあり得ない。


 ていうか、


 (俺に賭けたヤツって、いったい誰だろう……?)


 もしかして、オリビィアか?


 いやいや、王族のオリビィアが賭け事なんて下品なことはしないだろう。


 (うーん……。誰なのかわからんな……)


「……てめえっ! 聞いてんのかっ!」

「すまん。ついつい」


 ガベイジがキレてくる。


 右手には、龍神剣を握って。


「……では、女神アルテの名の下に、神聖なる決闘を行います。ルールは、どちらかが降参するか、死ぬまで戦うことです」


 ロゼリア先生が、右手を振り上げて、


「決闘——開始!」


 と、ロゼリア先生が宣言した瞬間。


「おらあああっ!」


 龍神剣を振り上げて、俺に突撃してくる。


 (本気を出すと、実力がバレれてしまうな……)


「ぐっ……? な、なんだこれ?」


 ガベイジの足元に、水色の液体が絡みつく。


「スライムだよ」


 水属性第七階梯魔法、スライム生成——


 ヴァリエ侯爵家の血統魔法だ。


 血統魔法は、特定の家系の人間しか使えない固有の魔法。


 ヴァリエ侯爵家の書庫にあった魔導書を読んで、俺なりのアレンジを加えた創成魔法の一種だ。


「足動かない! 卑怯だぞ!」

「おいおい。ヴァリエ侯爵家に伝わる、由緒正しい魔法だ」

「クソがっ! ……我が業火で焼き尽くせ。ファイア!」


 ガベイジが右手から、炎を放とうするが、

 

「ぶぎーっ!」


 俺のスライム——プギーの身体が伸びて、ガベイジの腕を締め上げる。


「ぐぐぐ……っ!」


 ギリギリと、徐々にガベイジの全身を締めつける。


「もう降参しろ」

「モンスターに頼るとは……クズ野郎がぁ!」


 降参する気はないらしい。


 もうちょっと強く締めないとダメか……


 と、思った時。


 背後から魔力を感じて、


 (雷魔法……っ!)


「ぷぎいいいいいっ!」  


 ——バチっ!


 プギーはガベイジから離れて、俺の背中を守った。


 (いったい誰だ……?)


 何者かが、俺の背中にライトニング・アローを放ったようだ。


 しかも、不可視の偽装魔法を付けて。


 プギーの魔法探知機能のおかげで、なんとか直撃を避けられた……


「はははっ! 今だぁ!」


 ガベイジは龍神剣を大きく振りかぶって、


 俺に襲いかかってきたが、


「……ここにもプギーはいるんだよ」


 俺は左手の袖から、もう一匹のプギーを放つ。


 そう。スライムは分割して使役できる。


「ぐわあああああああああっ!」


 ガベイジの顔に、プギーがへばりつく。


「早く降参しろ。窒息するぞ?」

「く、苦しい……っ! こ、こ、こ、こうさ……ブクブク……」


 ガベイジはプギーを剥がそうと必死だ。


 (今、たぶん「降参」って言ったよな?)


「ロゼリア先生、ガベイジ伯爵は降参するそうです」


 俺はロゼリア先生に告げる。


「そのようですね。……決闘の勝者は、アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵です!」

 

 


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