第21話 モブ悪役、決闘を挑まれる

 次の日——


 Aクラスの講堂に向かうと、


「王女殿下に呼ばれた、ヴァリエ侯爵だ」

「いったい何者なんだよ……」

「オリビィア王女陣営か」


 やっぱりオリビィアとのことは、噂になってるな……


「……あんた。よくもあたしも巻き込んだわね」


 レギーネが、鬼の形相で俺のところへ来た。


 (めっちゃくちゃ怒ってる……)


 俺が一度、オリビィアの誘いを断ったせいで、婚約者のレギーネを連れて行くことになった。


 王位争いの話を聞いてしまった以上、レギーネも俺も、対立するユリウス陣営から「敵認定」される。


「すまん……」

「すまん、じゃ済まないわよ……っ!」

「レギーネ、お前はちゃんと俺が守るから」

「……っ! ま、守るってアンタが……?」


 突然、レギーネの顔が真っ赤になって。


 (ヤバい……。もっと怒らせてしまった……)


「ふ、ふんっ! クズ貴族のアンタが守るなんて……無理ありすぎよっ! それよりも——」


 レギーネはさらに顔を赤くして、


「も、もし、水の魔術師様を見つけたら……あたしも会わせて」

「……? 水の魔術師と会いたいのか?」

「ち、違うわよっ! 水の魔術師様が好きだとか、そんなんじゃないからね……っ!」

「水の魔術師を……好き?」

「何言ってんのよっ! 【水の魔術師様が大好きです。愛してます】なんて、誰も言ってないわよっ!」


 机をぶっ叩いて、キレまくるレギーネ。


「…………わかった。とにかくお前にも会わせるよ」


 (俺が水の魔術師だとわかったら、たぶん殺されるな……)


「そ、そうよ。本当に、めっちゃくちゃ楽しみにしてるだからね……っ!」


 レギーネは逃げるように席を戻った。


「おはよう! アルフォンス!」


 オリビィアが俺に挨拶してくる。


「お、おはよう。王女……いや、オリビィア」

「ふふっ! 昨日はありがと!」


 ぐいっと俺に、顔を近づけてくる。


 ふわっと甘い匂いがする……


「アイツ、王女殿下を呼び捨てにしたぞ……」

「王女殿下に名前で呼ばれるなんて!」

「どういう関係なんだ?」


 (めっちゃくちゃ目立ってしまった……)


 オリビィアには、もっと自分の影響力を考えてほしいというか……


「じゃ、またねっ! アルフォンス」


 笑顔で自分の席に戻っていくレギーネ。


 (やれやれ。変なことになってきたな……)


 ★


「みなさん、昨日、バルト神殿跡ダンジョンから、モンスターが出てました……」


 ロゼリア先生が、講堂に入って来た。


 開口一番、深刻な口調で話し始める。

 

 バルト神殿跡ダンジョン——王都の近くにある、古代のバルト神殿の跡地に出現した迷宮だ。


 (ダンジョン攻略イベントが来たか……!)


 シナリオでは、魔力の多い学園生が冒険者ギルドへ派遣されて、ダンジョンを攻略する。


 選ばれる学園生は、3人。


 ユリウス、レギーネ、そして、主人公のジーク


 ダンジョンの最深部に、主人公専用装備の【神剣デュランダル】がある。


 ゲームの中では最強武器で、魔王ゾロアークを倒すために必須だ。


 シナリオ攻略上、絶対に回収する必要がある。


「冒険者ギルドから、学園生の派遣が要請されました。モンスターから人々を守るのは、貴族の義務です。セプテリオン魔法学園からは、4人の学園生を派遣します」


 (4人……? 3人じゃないのか?)


 一瞬、ロゼリア先生が俺の顔を見た。


 嫌な予感がする……


「選ばれた学園生は……ユリウス王子殿下、オリビィア王女殿下、ジーク・マインドさん、そして——」


 (ま、まさか……?)


 心臓がバクバクして。


「アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵ですっ!」


 ロゼリア先生が、びしっと俺を指さす。


「おい。ヴァリエ侯爵は魔力50しかないはずだろ?」

「無能貴族のはずじゃ……?」

「やっぱりアル様は、実はすごい人なのね……っ!」


 クラスメイトたちがざわつく……


「はいはーいっ! 4人はこの後、私のところへ来て——」


 ロゼリア先生がそう言いかけた時、


「待ってくださいっ! どうしてヴァリエ侯爵が選ばれたのですかっ? ヴァリエ侯爵の魔力は平均の50しかないはずなのにっ!」


 ひとりの学園生が、声を上げる。


 ロゼリア先生に抗議したのは、ダスト・フォン・ガベイジ伯爵。


 ユリウス王子陣営の、ナンバー2だ。


 シナリオでは、平民であるジークが選ばれたことにキレて、ジークに決闘を申し込むのだが……


「……調べましたよ。ロゼリア先生は学園に来る前に、ヴァリエ侯爵の家庭教師をしていたそうですね。だから贔屓しているのでしょう?」

「いえ、決してそんなことは……」


 うろたえるロゼリア先生。


「今まで無能と言われていたヴァリエ侯爵が、いきなりギルド派遣に抜擢された。怪しすぎます」


 ダストの言うことも、一理ある。


 今まで「ゴミ」「無能」と呼ばれていた男が、突然Aクラスに来て、しかもギルド派遣にまで選ばれた。

 何かあると疑われても仕方ない。


「ヴァリエ侯爵には、実力を証明してもらいましょう。決闘を申し込みますっ!」


 ダストが俺に、手袋を投げた。


 貴族が決闘をする時は、相手に手袋を投げる。


 相手が手袋を拾えば、決闘の成立だ。  


「おい。どうした? ビビってるのか……?」


 ダストが俺をあざ笑う。


 (さて、どうしようか……?)


 原作では、ダストと決闘するのはジークだ。


 俺が手袋を拾えば、決闘が始まってしまう。


 そうなれば、たぶん実力がバレてしまう。


 (そうだ! 土下座しよう……!)


 土下座して決闘から逃げれば、俺は学園で「臆病者のゴミ」認定される。それで、アルフォンスはモブに戻れるわけだ。 


 (よし! 土下座するぞーっ!)


 俺が跪こうとすると——


「ガベイジ伯爵っ! あたしがアルフォンスの付添人を務めます。アルフォンスは絶対、あなたに勝つことでしょうっ!」


 オリビィアが、床に落ちた手袋を拾い上げた。

  

 (オリビィア……っ! 何をして……?!)


 決闘には付添人をつけることができる。


 決闘がフェアに行われているか、見守る役目だ。


「ならば、ガベイジ伯爵の付添人は、この私が務めよう」


 ユリウスが、オリビィアの前に立つ。


「「誓約魔法——オルコス」」


 2人は誓約魔法で、決闘の成立を誓い合った。


「……仕方ないですね。決闘が成立してしまいました。放課後、それぞれ訓練場へ来てください」


 決闘の成立を、ロゼリア先生が宣言した。


 (マジかよ……)



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