第20話 俺のメインヒロインを返せっ! ジーク視点

【ジーク視点】


 王族寮の前——


「死ね……っ!」

「ぎゃっ!」


 ドサッ。


 近衛騎士の首に、俺は毒のナイフを突き刺した。 


 地面に、近衛騎士の死体が転がる。


「このままじゃ……俺のメインヒロインが取られる」


 普通なら「お茶会イベント」がない限り、王族寮に来ることはできない。


 しかし、俺には「原作知識」がある。


 王族寮へ通じる【迷宮障壁】を突破して、王族寮の敷地に侵入した。


「オリビィアは、俺のメインヒロイン……。アルフォンスを殺さなければ」


 お茶会イベントでは、オリビィアから王位争いに協力するよう持ちかけられて、魔除けの指輪をもらう。


 魔除けの指輪は、ジーク専用アイテムだ。


 これで迷宮障壁を無効にして、王族寮に簡単に入れるようになる。


「たぶんアルフォンスは、魔除けの指輪をゲットする。シナリオを修正するには……」


 アルフォンスから、魔除けの指輪を奪うしかない。


 原作なら、魔除けの指輪をジークから奪おうとするのは、アルフォンスだったはず。


「俺がモブ悪役になってるじゃねえかっ! 俺は主人公のはずなのに……っ!」


 俺は王族寮の門のそばにある、植え込みに隠れる。


「警備の近衛騎士は全員始末した。あとはここからヤツが出てきたところを——」


 (ライトニング・アローで、頭をぶち抜く……っ!)


 ライトニング・アローは、ジークの専用魔法。


 伝説の勇者と同じく、雷属性の魔法だ。


「雷属性こそ、真の勇者の証だ……」


 アルフォンスを殺せば、婚約者のレギーネも、ジークのサブヒロインに戻るだろう。


 息をひそめて、俺はアルフォンスが出てくるのをじっと待つが……


 門から、アルフォンスが出て来る。


「死ね……っ! ライトニング・アローっ!」


 俺は右手から、電撃の矢を放つ。


 だが——


「な……っ! 矢が吸収された……」


 正確にアルフォンスの後頭部を狙ったはずなのに、矢は消えてしまう。


 (しかも……気づいていないだと?)


 何事もなかったかのように、歩いていくアルフォンス。


「く、クソ……っ! 俺は主人公なのにぃ……っ!」

 

 

 ★


【アルフォンス視点】


「……雷属性の魔法か」


 お茶会の後、俺は一人で寮へ戻っていた。


 俺の後頭部に、ライトニング・アローを放った奴がいる。


 水魔法で作った、スライムヘルム。


 魔法攻撃を吸収する、透明な兜だ。


 オリビィアの部屋へ行くのだ。俺やレギーネを狙うヤツがいてもおかしくない。


 念のため、装備しておいてよかった。


 (もしかして、ジークの仕業か……?)


 いや、それはさすがにあり得ない。


 ジークはそういうキャラじゃないし、ジークの魔力なら、俺の脳天を貫くこともできるはず。


 勇者で主人公のジークが、アルフォンスのようなモブ悪役を狙うわけない……よな?

 

 俺が原作に加入してしまったせいで、世界に「歪み」が生じているのかも。



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