第17話 あたしがアルフォンスの婚約者なのに レギーネ視点

【レギーネ視点】


「アルフォンス様の婚約者って誰かな?」

「めっちゃ羨ましい」

「あたし、アル様と結婚したい」


 魔力測定で魔力80と出たあたしは、Aクラスに配属された。


 (クズフォンスの話ばっかりじゃない……っ!)


 王女殿下の誘いを(一度)断った男として、学園中でクズフォンスのことが話題に。


 ていうか、平均の魔力50しかなかったくせに、どうしてAクラスにいるのよ?


「ねえ。レギーネ、ヴァリエ侯爵の婚約者って誰なのかしら?」


 友達の伯爵令嬢、リーセリア・フォン・ベンツ。


 金髪のおさげ髪がかわいい。


 あたしと同じ、Aクラスの配属になった。


「さあ……? 誰かしらね……?」


 貴族社会の伝統として、学園卒業まで婚約者が誰かを明かさない。


 貴族にとって結婚は、政争の道具だ。


 誰が婚約者か知られると、時に暗殺の危険さえあるから……


 だから、あたしがクズフォンスの婚約者であることは、リーセリアにも黙っていた。


「アル様ってイケメンよね。婚約者の方が羨ましい」

「う、うん……。そうね……」


 アルフォンスの婚約者は、あたしなのだけど。


 リーセリアは昔からミーハーな子だったから、


 流行ってるものに目がない。


 今、このAクラス……いや、学園の「流行」はクズフォンスなわけで——


 (たしかに最近は痩せて、少しだけカッコよくなったと思うけど……)


「アル様の婚約者は、きっとすっごく可愛くて美人な令嬢で——」

「そうね。可愛くて美人なのは間違いない」

「……えっ? レギーネ、アル様の婚約者が誰か知ってるの?」

「あっ……いや、いやいやいや、あたしがアル様の婚約者を知るわけないじゃない。あはは……」


 あたしも学園の流行にやられたのか、ついついクズフォンスを「アル様」と呼んでしまった……


 (クズフォンスのくせに……っ!)


「でも、レギーネ。アル様と幼馴染なのよね? もしかして知っていたり——」

「本当に知らないわよ……。あんなキモブタクズのことなんて」

「き、キモブタクズ……?」


 (ヤバい。いつもの癖で言ってしまったわ……っ!)


 リーセリアが目を丸くしている。


「アル様は、すらっと背が高くて痩せているし、顔も整っているし、Aクラスに来たってことは、本当は魔力も多いのよ? なのにキモブタクズって……」


 すっかり「アル様」のファンになったリーセリアは、アル様の悪口にキレてるようで。


「えーと、幼馴染同士のジョークみたいなもので」

「ちょっと酷いよ。レギーネ……」


 友達にドン引きされてしまったあたし。


「レギーネ、人にそんなこと言ったら【めっ】だよ!」


 指をぴしっと立てて、あたしを叱るリーセリア。


 昔からリーセリアは、お姉さんぶるところがある。


 下に小さい兄弟がたくさんいるからだ。


「……うん。気をつける」


 (どうしてあたしが怒られないといけないのよ!)


 クズフォンスのせいで、王女殿下のお茶会にあたしまで行かないといけなくなった。


 しかもあのバカ、王女殿下のお誘いを(一度)断ったりなんかして……


 (どんだけバカなのよ……アイツはっ!)


 あたしまで王族に目をつけられたら、どうするのよ?


「あたしには、水の魔術師様がいるから……」


 と、ぽつりとつぶやくと、


「そうそう。水の魔術師様も素敵よねー!」

「誰でもいいのね。アンタは……」


 リーセリアは有名人なら誰でもいいらしく。


 ある意味、羨ましい性格をしている。

 

 (クズフォンスより、水の魔術師様のほうがずっと素敵だから)


 華麗な水魔法の使い手で、盗賊団をたった一人で壊滅させるほど強いお方。


 優しくてカッコよくて最高の男性。


 あたしにふさわしい人は、間違いなく水の魔術師様だ。


「また水の魔術師様に会いたいな……」



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