第16話 なんでモブのほうが注目されているんだよ……っ!ジーク視点

【ジーク視点】


「なんでヴァリエ侯爵がAクラスに?」

「Cクラスじゃなかったのかよ?」

「イケメンがいるわ……っ!」


 平民のジークが、Aクラスに入る。


 貴族たちはざわついて、ジークにヘイトを向けてくる。


 だが、王女のオリビィアがジークに話かけてきて——


 そういう展開だったはずだ。


 それが【原作】だったはず。


 なのに。


「ヴァリエ侯爵って、キモデブ豚野郎じゃない?」

「実はすげえ魔力多いのか?」

「学園長にワイロを送ったとか?」


 序盤でボコられるはずのモブ悪役。


 アルフォンス・フォン・ヴァリエの話題ばかりだ。


 (俺の魔力は、900もあったんだぞ……っ!)


 だけど、すべて忘れられている……


「アルフォンス……そうか。あの時、ケアルガを使った奴だ」


 まだシナリオ序盤で、上級治癒魔法のハイヒールを使うなんておかしい。


 絶対に、何かある。


 (まさか、アルフォンスは俺と同じ——)


「転生者か……あるいは、それと同等の存在」


 シナリオに介入できるやつは、シナリオをすでに知っているやつだけだ。


「ヴァリエ侯爵、お話があります」


 オリビィアが、アルフォンスに話しかけてる。


 (おい。これって……ま、まさかっ!)


「貴殿を私のお茶会に招待します」


 お茶会。


 令嬢が気に入った令息を呼ぶ、学園の伝統。


 つまり、アルフォンスはオリビィアに気に入られたということだ。


 本当なら、ジークが誘われるはずなのに。


「王女殿下がヴァリエ侯爵を誘ったぞ」

「マジかよ。オリビィア様はヴァリエ侯爵のこと……」

「あたしのアル様が、寝取られますっ!」


 周りの貴族たちは、騒ぎまくる。


「オリビィア王女殿下、お誘い有難いのですが、生憎お茶会に行くことはできません」


 (なっ! こ、断るだと……っ!)


「あいつ、王女殿下の誘いを断るのかよ」

「あ、あり得ないわ……」

「人生終わるぞ」


 王族のお誘いを断ったりしたら、貴族社会では生きていけない。


 (バカなのかあいつは……)


「……そうですか。ちなみに、理由を聞いても?」

「私には、婚約者がいますので」

「なるほど……。でしたら、婚約者の方も同席されるのなら、問題はないでしょう?」

「そうですが……」


 オリビィアはふっと笑って、


「婚約者の方と一緒に来てくださいね」

「…………はい」


 渋々、承諾したアルフォンス。


 オリビィアのお茶会に誘われるのは、俺、つまり主人公のジークのはずなのに……


「アルフォンス様の婚約者ってどなたかしら?」

「羨ましいわ……」

「愛人になりたい」


 クラスの話題は、「アルフォンス」「アルフォンス」「アルフォンス」ばっかり……


 主人公はこの俺なのに……っ!



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