第13話 俺が主人公のはずなのに ジーク視点

 俺は主人公、ジーク・マインド。


 平民でありながら魔法の才能がある【特異者】で、


 剣の才能もある。


 その正体は、1000年前に魔王ゾロアークを封印した伝説の勇者、アルトリウスの生まれ変わりだ。


 しかも、見た目はイケメン。


 何度も鏡を見ても、自分の顔に惚れ惚れする。


 まさに主人公に、ふさわしいキャラ。


「やっと【主人公】になれたのに……」


 俺は学園のトイレで、さっきの【初イベント】のことを考えていた。


「いったい何者なんだ……?」


 ……俺は【ドミナント・タクティクス】の主人公、ジーク・マインドに転生した。


 トラックに轢かれた後、目覚めたら俺はジークになっていた。


「ガチで嬉しかったな」


 俺はこのゲームをやり込んでいた。


 全ヒロインのトゥルーエンドもバッドエンドも見た。

 

 もちろんエッチシーンもコンプリート。


 何度も何度も、俺はゲームをクリアした。


 寝る間も惜しんで。


 なぜか?


 このゲームが、完璧だからだ。


「グラフィックがいい」

「音楽がいい」

「声優がいい」


 人はそう言う。


 うん。たしかに最高だ。


 しかし……本当に最高なのは、


「ストーリーが素晴らしいんだ」


 エロゲと言えば、ただヌケければいいと思ってる奴もいるだろうが、俺は違う。


 何度プレイしても、俺はエンディングで泣いた。


 そう。

 

 ヌキゲーではなく、泣きゲーなのだ。


 これを否定する奴は、俺がぶっ殺す。


 原作は尊い。


 平民ゆえに学園で冷遇されていた主人公が、努力して成り上がる。


 最後には世界を救って、ヒロインと結ばれるのだ。


「あんなキャラはいなかったはずだ……」


 俺はこのゲームを知り尽くしている。


 一瞬しか出ないモブキャラでさえ、俺はしっかり覚えているはずだ。


 シナリオでは、アルフォンス・ファン・ヴァリエという悪役貴族がジークに絡んでくる。


 アルフォンスはエルフの少女を「汚れた血のゴミ」と罵って、殴ろうとする。


 エルフの少女を庇う姿を王女殿下——メインヒロインのオリビィア・ファン・アルトリアが見ている。


 主人公ジークの心優しさに触れて、オリビィアはジークに興味を持つ。


 そういう展開だったはずだ。


 なのに……


「あいつ、ハイヒールを使ってやがった」


 ハイヒールは、ラスボスの直前でようやく覚えられる上級治癒魔法。


 まだ序盤で、上級魔法を使えるキャラは出てこないのだが……


「しかも、妙にイケメンでムカつくわ」


 ジークをイジメるアルフォンスは、キモデブの豚野郎だったはず。


「何かがおかしい……」


 ジークである俺が、主人公のはずだ。

 

 なのに、颯爽と女の子を助けた奴のほうが主人公のようで——


「あり得ない、あり得ない、あり得ない……っ!」


 俺は便器をガンガン蹴る。


「正しい世界を取り戻さなければ……」

 

 主人公はこの俺、ジークだ。


 誰にも奪わせない。


 奴が【原作】を壊そうとするなら——


「殺すしかない」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る