1章

第12話 主人公と出会うが何か違う

「見てください〜っ! アルフォンス様、すごくカッコいいですっ!」

「うむ。さすがは我が主。素晴らしい剣さばきだ!」


 セプテリオン魔法学園への道中。


 馬車の中で、リコとクレハが写し絵を見ていた。


 先日、ヴァリエ侯爵領に侵入した盗賊団を俺が捕まえた時の映像。


 誰かに隠し撮りされたわけだが、


「アルフォンス様、やっぱり自分が【水の魔術師】だって名乗り出たほうがいいのでは……?」

「リコの言う通りです。我が主の剣才を、もっと世間に知ってもらうべきだ」

「俺は魔法学園で勉強に打ち込みたいんだよ。変に目立ってギルドの依頼とかやりたくないし」


 それは表向きの理由で、目立つことで主人公サイドに俺の存在を知られるとマズイ。


 主人公たちとはなるべく離れていたい。


 盗賊団を倒したのは単に経験値がほしかっただけだ。


 実際、変装魔法で顔を少し変えておいた。


「確かに顔の感じが違いますね。顎が大きくて、目が小さくなっています」

「変装魔法はとても高度な魔法と聞くが……我が主の魔法の才は凄まじいな……」


 ★


「ここが王都なんですね! すごく大きいです……」

「人がたくさんいるな」


 王都グランシオン。


 アルトリア王国の首都だ。


 魔族からの侵略に備えて、四方を高い城壁で囲まれている。

 アルトリア国王の城を中心に、冒険者ギルドやら商会やら亜人の移住区やら、なんでもある。


 俺たちは馬車を降りて、セプテリオン魔法学園へ向かう。


 (いよいよ本編が始まりだ……)


 王城の南に、セプテリオン魔法学園がある。


 城のようにデカい校舎と学生寮。学園自体がひとつの「地区」を成すほど、広大なキャンパスだ。


 俺たちは学園の門の前に来たが、


 (ここでイベントが発生する……!)


 学園の門の前で、エルフの女の子がこける。


 それて額にパックリ傷ができてしまい、主人公が治癒魔法で額を治す。


 エルフは亜人だ。


 魔族と人間との間の存在。


 アルトリア王国では、亜人は差別されている。


 そして、亜人を助ける主人公をアルフォンスが罵倒する流れで——


 アルフォンスに罵倒されつつも、エルフの女の子を治癒するジークを王女殿下が見ていて、入学式の後に王女殿下が話しかけてくる。


 (お。あれがジークだ……)


 主人公の名前は、ジーク・マインド。


 黒髪の黒目で、日本人に近い見た目。


 性格は真面目で努力家。弱者を放っておけない優しい心の持ち主。


 平民でありながら魔法が使える【特異者】だ。


 (ゲームよりも人相が悪いような……?)


「うわあああああんっ!」


 学園の門の前で、エルフの女の子が泣いてる。


 額に、パックリと大きな傷が。


 亜人を差別するアルトリア人は、見て見ぬフリだ。


「大丈夫だよ。今、俺が治癒してあげるから」


 ジークがエルフの女の子に近寄って、治癒魔法を使っている。


 (原作通りの展開だ)


「うえええん……」


 額の傷は少しずつ塞がっていくが、


 思ったより時間がかかっているようで。

 

 いくら主人公ジークでも、まだレベル1だ。


 だから治癒魔法の効果も、かなり弱い。


 転び方が悪かったのか、額の傷は深いようだ。


「アルフォンス様、あの子かわいそうですね。額に傷が残ってしまうかもしれません……」


 リコが横から俺に言う。


 ジークの弱い治癒魔法じゃ、傷は塞げても跡が残ってしまう。


 女の子の顔に、傷が残るのは忍びない。


「アルフォンス様なら、きっとキレイに治せますよね」

「そうだな……」


 ジークと関わりたくないが、エルフの女の子を助ける程度なら別にいいだろう。


 ジークとは会話せずに、立ち去ればいい。


 俺は黙ってエルフの女の子に近づいて、


「あなたは……?」


 割り込んできた俺に、ジークは驚くが、


「——治癒魔法、ハイヒール」


 傷を完璧に治すために、上級治癒魔法【ハイヒール】を使う。


 ジークの使った下級治癒魔法【ヒール】より、回復力は数百倍ある。


 ゲームでは、レベル50に到達して使える魔法だ。


 一瞬で額の傷は塞がり、跡形もなくキレイに治る。


「……もう痛くない。お兄ちゃん、ありがとう」


 エルフの女の子がお礼を言うが、


「…………」


 俺は軽く会釈して、何も言わず離れる。


「さすがアルフォンス様っ!」


 リコが俺を褒めてくれるが、


「さっさと行こう。目立ちたくないから」


 なるべく印象に残らないようにしたいから、俺はそそくさと門へ向かうが、


「…………チっ!」


 (今、ジークが舌打ちしたような?)


 いや、そんなわけないか。



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