フェミニズムとポリコレをめぐる論争はなぜ醜いのか？

第33話 都知事選全裸ポスターとゴダイヴァ夫人

　東京都の都知事選の選挙ポスターでほぼ全裸のポスターを張った候補者がいたそうです。これが批判され、警察からも注意があったそうです。

　さて、批判はまあ主観というか世論、一般常識という点でわからなくはないですが、純粋にこれは何かの犯罪なのか？という点は興味があります。

　公然わいせつ物陳列罪にあたるかどうか？ですね。ひょっとしたら条例など別の法規・法令での注意だったかもしれませんが、ちょっと公然わいせつ物と選挙ポスターという視点で思考してみましょう。

　そうですね。わいせつ物の定義です。一応、現物の写真を不鮮明ながら確認したところ、乳首と性器のみ隠された画像でした。

　この写真そのものは、今の感覚から言えばわいせつ性はないと考えられます。マイクロビキニを着たグラビアと隠している面積的にはそう変わらないです。あるいは本屋に行けば少なくとも胸は見せている写真などいくらでもあるでしょう。

　そういったものが許されるのに、なぜ選挙ポスターだと許されないか？というのは考える必要があります。

　なお、直接的な画像でなくても小説やマンガなどの文脈でいたずらに劣情をかきたてるようなものであれば、それもわいせつ物です。

　ここが難しいところです。美術館の裸婦・裸像あるいは写真展の裸婦では検挙されることはないでしょう。芸術性があるからです。医学誌や性教育の本にも裸は乗っています。時に性器まで丸見えです。

　で、この選挙ポスターの場合、表現の自由という政治的メッセージが入っています。これを警察が注意するというのは、公権力による選挙活動の妨害にあたらないか？ですね。

　いや、今回の場合は悪ノリだったから、売名行為だから気にしなくていいよ…というのはわかります。それは脇に置いておきましょう。もし、選挙活動で裸の写真のポスターに意味がある場合、裸体をさらすことに政治的メッセージが入っている場合、それを即座にわいせつ物としていいか？ですね。

　有名なゴディバチョコのロゴですが、あの裸の女性が馬に乗っている絵はイギリスで圧制に反対するために全裸で馬にのったゴダイヴァ夫人をモデルにしているそうです。史実かどうかはわかりません。どうも物語だというのが通説です。夫人は実在しますけど。そして政治的なメッセージというより税金の軽減の条件だという話も聞きます。

　何が言いたいのかといえば、女性の裸は宗教的にいっても文化的にいっても、文脈によっては強烈なメッセージになります。この事件が物語にしても絵画やロゴになって残っているわけです。そして、実際の事件だとしても、彼女は英雄でしょう。彼女を公然わいせつ物陳列罪じゃん、という人はいません。裸＝わいせつでは決してありません。

　そして実際に「ヌードプロテスト」という裸になるデモは結構行われているようです。検索すればいくらでも事例はでます。ジョンレノンとヨーコオノの裸のメッセージとか、チッチョリーナさんの政治メッセージ含む性的行為を表現した芸術作品もあります。

　裸というのは羞恥心という点で強烈です。宗教や文化によっては死に等しいものでしょう。だからこそ自分の裸をさらすということには、命がけのメッセージが入ることがあります。それがわいせつかどうかって誰が判断するんでしょう？

　重ねて言います。今回の東京都のポスターを擁護するわけではないです。正直下品すぎて話にならないという意見はわかります。わかりますが、言論の自由・表現の自由…しかも、選挙活動における政治的メッセージを規制するというのは想像以上に民主主義にとっては重いことです。

　常識という名のもとで、当たり前とか、あいつらは馬鹿だから、で済ませていいのかです。簡単に批判している人は多いですが、この視点は忘れないようにしてほしいなあ。

　以前選挙妨害で大声で騒いでいた候補者が逮捕された事件と表裏ですけど、暴力的で直接的な選挙妨害は事後対応なのに、わいせつ物かどうかの判断を警察がするというのはどうなんでしょう？

　なお、公然とは不特定多数の人が閲覧できる状態らしいです。たとえばネット上で閲覧できる状態でハードディスクのサーバにわいせつ物を保存した場合も公然にあたります。

　もちろん、選挙ポスターは誰でも見れますから、公然性は疑う余地はありません。その点で、わいせつ性は少し厳しめに判断したというのはわからなくはないです。

　まあ、私自身は普通の裸の写真くらいなら陳列してもよくないのかなあ？という考えですので、それは私の考えですので常識とはずれるでしょう。

追記　調べたら東京都迷惑条例違反だそうです。多分下の条文だと思うのですが、ビラじゃあないしなあ…該当するんでしょうか？選挙ポスターが？

（ピンクビラ等配布行為等の禁止）

第７条の２ 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

(１) 公共の場所において、次のいずれかに該当する写真若しくは絵又は文言を掲載し、かつ、電話番号等の連絡先を記載したビラ、パンフレットその他の物品（以下「ピンクビラ等」という。）を配布すること。

イ 性的好奇心をそそる、衣服を脱いだ人の姿態の写真又は絵

ロ 性的好奇心をそそる、人の水着姿等の写真又は絵であつて、人の性的好奇心に応じて人に接する役務の提供を表すもの

ハ 人の性的好奇心に応じて人に接する役務の提供を表す文言

(２) 公衆電話ボックス内、公衆便所内その他公衆の用に供する建築物内、公衆の見やすい屋外の場所又は公衆が出入りすることができる屋内の場所であつて公衆の用に供する屋外の場所から容易に見える場所に、ピンクビラ等をはり付けその他の方法により掲示し、又は配置すること。