第22話「本好きの下剋上」の女性の描き方が素晴らしい。
「なろう」系なのでこちらのサイトでほめるのは恐縮です。一部ネタバレを含みます。
本好きの下剋上という作品は、その世界観や設定の緻密さ、キャラの転生の意味や魅力、ちゃんと完結している、話の展開の面白さとブレのない一貫性で、異世界転生ものの中で出色の出来になっています。比類がない最高傑作と言っていいでしょう。30数巻ですが、あっという間に読んでしまいました。
その世界では、結婚観が貴族社会ということもあって、かなり今のフェミニズム、ポリコレ的流れから言えば受け入れがたいだろうなあ、というものになっています。
(いや、フェミニズムの真意から言えば本当は究極のフェミニズムの話なんですけどね)
家のために親が決めた相手と結婚する。基本子供を作るために結婚する。貴族・平民という階級のほかに、その中でかなり細かくランクが決まっている。そして「魔力」の量によって子供ができるかどうかが決まるのでそちらが優先になる、などです。
この構造が世界の維持のために必要であり、皆受け入れています。恋愛もありますが、それだけで結婚相手は決まらないと割り切っています。
その世界の中でどうやって自分の道を切り開いてゆくのかがヒロインを中心にして描かれます。
ここから先、ネタバレなので気を付けてください。
この中でヒロインは最強になってゆき最終的に自分の夢を実現するのですが、そのプロセスで皆から平民・神殿・貴族社会の不適合者として困りものとして遇されます。が、結果として自分の「やりたいこと」を貫くことで自己実現します。それは主人公だからともいえます。
が、登場するサブキャラたちが、この一見窮屈な世界の中で環境と自分の望みの折り合いをつけながら自分の生き方を決めてゆきます。結婚すること子供を作ること家のために生きることをローティーンのうちから自分で考えます。たとえ小さな子供であっても自分で犯した罪の責任を取らされます。
そして、その自己実現の方向性が家のため社会のためということを念頭に置いたうえで、自分のすべき役割というのをしっかりと自覚して行動しています。もちろん、状況にあらがえず泣いている女性もいますが、この作品の痛快さは、理不尽な制約の中で女性たちが主体的に活躍していることです。
自由とは「制約の中での選択」でしかありません。好き勝手にふるまい性欲の指向だけで行動を決めるのは、非常に自分勝手な自由であり、それは逆にゆがんだ欲望に支配されている不自由な状態と言えるでしょう。
生物であることからも、男女があることからも、家や社会からも逃れられません。そして、結婚出産というのは人間としての役割でしかありません。制約の中でやれることをやるしかないのです。
この作品は、痛快で緻密で壮大で、成り上がりって目標に近づく過程が単純に面白い、と捉えるのが正しい見方なのかもしれません。
ただ、ヒロインである主人公ローゼマインとメインの女性サブキャラ、エグランティーヌ、ハンネローレ、シャルロッテの3人は格別ですが、フィリーネ、アンゲリカ、ブリュンヒルデ、リーゼレータ、エルヴィーラ、トゥーリ…皆、結婚と職業選択の制約がある中で自分としての方向性を定め主体的に生きてゆきます。そこに着目すると、本当に今のフェミニズムが正しいのか?という視点を持てるのではないでしょうか。
社会に働きかけるのも大事かもしれませんが、ルールを変えたところで意識を変えないと同じことです。そして、社会に働きかけるマインドの中に「他責」がないかを省みる必要があるでしょう。
この作品ではむしろ古代から伝わる伝統の意味を再確認し、その意味を咀嚼するとこともまた大きな話の幹になっています。
作者は女性であり、また読者層も女性に人気なんだそうです。(「本好きの下剋上 読者層」で検索してください)
つまり、こういう世界観ですが、多くの女性には受け入れられる何かがある作品です。
現実社会の現行の結婚制度により経済的に働かないことが不利な立場になりやすいのは事実だと思いますので、現行に問題意識を持つのはいいと思いますが、どこに視点を置くかは考えるべきでしょう。
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