第24話 深夜の攻防
アビス先輩を追い返して、数時間後。
私は少しばかり、戸惑っていた。
この世界に来て、やっぱり、私は変わってしまっていた。
魔族のあしらい方としては、多分、以前の私のスタンスを貫き通していると思う。
その点、私は何も変わってはいない。
だけど、それがこの世界でいけないことも分かっているつもり。
私は事務所の先輩に対して……、
少し強く当たりすぎたのかもしれない。
そもそもの話、この世界で魔族との接し方なんて分からない。
分からないからこそ、もう少し相手を理解しようと試みるべきなのでは?
と、戦争アニメ(主にロボット系)の、正義感が強い主人公みたいなことを言ってみる。
もちろんアンチのように、絶対にわかり合えない人がいるのも分かってはいるけどね。
もしかしたら、リリベル先輩も同じようなことで悩んでいたのかもしれない。
少なくとも、同期にアビス先輩みたいな人がいたら、私は頭を抱えていただろう。
つまり、その……、何が言いたいかというと、私はすごく後悔をしていた。
消臭剤とか、ベッドでの物言いとかも、冷静に考えるとひどいよね……。
あー、やっぱりだめ……。
何であんなこと言ったんだろう……。
戦争は終わっているのに。
前いた世界とは違うのに。
いつかアビス先輩のことで、私は炎上しそう。
このままでは、何かトラブルを起こすのが目に見えていた。
それに先輩とのわだかまりを残したまま、〈ミスプロ〉での活動を続けたくはない。
精神的にも辛い。
良い感じの落とし所まで持っていって、かといって今まで通り、魔族と仲良くしない選択肢を取りたい。
できれば、以前のように不干渉を貫きたい。
先ほど先輩に付けてしまった傷を埋めておきたいのだ。
だから、私は自宅から数十キロ離れたマンションのチャイムを鳴らした。
『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』
早く出てきてほしいので、連打。
家にいるのは気配から分かっている。
目的の人物がドアを開けて姿を見せる。
【レジスタンス】(非公式)所属、〈魔宮アビス〉。
まさか私が謝るために、魔族に対して追跡魔法を使う日が来るなんて、考えたことがあっただろうか?
やっぱり、私は変わってしまっていた。
「あっ、ステラ……様、ごめんなさい……」
「ちょ、ちょっと待って!」
やばい!? 〈隷属の首輪〉の効力。
私を見た途端に、アビス先輩は、すぐに私の前から姿を消そうとしている。
これが悪化すると、最悪自害に陥る。
奴隷は何が何でも、主人の言うことを実行しようとする。
「ああ、もう!」
【ダーク・スピア】
非戦闘時に杖の代わりにしている、魔法石の指輪をはめた右手を首輪へと向けて、私は魔法を放つ。
「あっ……」
赤のハートが付いた〈隷属の首輪〉はすぐに壊れた。
アビス先輩は、私がファンと最近同時視聴した、異世界アニメの奴隷から解放されたヒロインのような表情をする。
命令を上書きすることもできた。
しかし、別に私は魔族の奴隷がほしいわけではない。
魔女の先輩に被害が及ばなければいいだけ。
「なんで……」
驚くアビス先輩をよそに、私は目的を淡々と済ませる。
「これ、菓子折りです」
真夜中なので、売っている場所を探すのに苦労しました。
普通に都内の駅中で買えて良かったです。
この世界のルール、紙袋から出して渡す。
中身はお菓子。
外れてはいないと思うけど、先輩が甘い物を嫌いじゃないことを祈りたい。
「アビス先輩、先ほどは少し言い過ぎました。ごめんなさい」
「ちょっ、ちょっと……。頭を下げるなんて、あなたらしくないじゃない!?」
戸惑うアビス先輩。
私はその反応にもかかわらず、そのまま言葉を続ける。
「これからも〈ミスプロ〉のメンバーとして、私と仲良くしてください」
目的達成。
アビス先輩がどう思おうとも、私はもう、深く関わることはない。
「おやすみなさい」
もう一度、アビス先輩に深く頭を下げると、私は背中を向けて、この場から立ち去ろうとする。
しかし――。
「ちょっと、言うだけ言って、ま、待ちなさいよっ!」
腕をつかまれ、私の行動を阻止。
そして。
「もう遅いから、泊まっていきなさいよっ!」
「えっ……!?」
時刻は深夜の十二時。
断り切れる雰囲気ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます