第22話 VS魔宮アビス(Resistance)
LOCATION
疑似幻想領域・〈????〉
魔族領・アビスライブ会場(野外ステージ)
* * *
「これは、いったい何っ!?」
おそらく、領域系の魔術。
アタシたちの昔の敵、魔法使いの魔法。
しかもふざけたことに、アタシの、バーチャルの配信部屋をイメージして空間が構築されていた。
事務所のビルの屋上から見える景色が、全て一変。
〈魔法世界〉、その魔族領の自然の中に設営された、ライブ会場。
アタシの配信部屋――、その背景画像は、ライブ会場のDJブースをイメージして、イラストレーターに描いてもらっている。
それを現実に拡張しているなんて。
遠くには、魔族領でよく見る、暗くも美しい森が広がっていた。
さすがは同じ世界の住民。
背景画像以外の見えない所の再現度もばっちりだった。
しかし、褒めた当の本人の感想は――。
「なるほどね……。術者に影響受けて、【疑似幻想領域】の世界も変わるんだ……」
目の前のアタシ、〈黒星ステラ〉によって身体を乗っ取られた、〈魔宮アビス〉が呟く。
「空気が悪い。やっぱり好きになれないかな、魔族の世界は」
それはこっちの台詞よ!
薄暗闇が放つコントラスト。
あの眩しすぎない世界を好きになれないなんて信じられない!
アタシも魔法使いが見る景色、〈ウィッチライブ〉の魔女たちの配信部屋の感性が分からないわ。
魔法使いの世界は明るすぎる。眩しすぎる。
よく、あんな世界に住めたわね。
リリベルも含め、同じ配信者として理解できない。
夜に配信する者は、もっと暗い世界に住むべきよ。
「もう少し上手くやるべきでしたね、せんぱい!」
〈魔宮アビス〉のガワを被る悪魔は、嬉しそうに囁く。
「メッシュとオッドアイの魔族を見たら、味方に気をつけろ。【魔女】と呼ばれる者たちの常識ですよ」
「くっ……」
「【ディペンデル】の術者の特徴を、そのまま敵に見せるのはダメでしょ。カラコンとブリーチは最低限必要だと思いますよ」
返す言葉もないわ……。
確かに、アタシの一族の特徴を、そのままステラに見せたのは良くなかったかもしれない。
〈魔法世界〉での〈魔女〉とは、〈魔法使い〉に付けられる畏敬の呼び名。
〈魔族〉が一番に注意しないといけない相手。
安易すぎたわ……。
でも――。
「か、仮にそれをしたとして、アタシはあなたをだませる気が、今は全くしないんだけど!」
「そうですね」
魔女ステラは心底嫌そうに、
魔族嫌い、それは情報通り。
好きで身体を乗っ取るようなことはしないはずなのに。
ステラは淡々と語り出す。
「よりにもよって、対策を知っている私に使うだなんて……。まあ、アリス先輩やリリベル先輩に使われなかっただけ良かったかな……。ホムラ先輩には効かないかな……。あとは禁書庫の司書の――、あの先輩は確か前任の戦闘員だったはずだし……」
「あ、安心して……、〈ミスプロ〉の魔女に使ったのは、今回が初めてだから……」
「そう、それは良かったです!」
会話中にも、色々と試してはいるけど、やっぱり、術の解除は成功しなかった。
向こうは完全に、〈魔宮アビス〉の身体を自分のものとしている。
この空間、【疑似幻想領域】とか言っていた。
ここからも抜け出せる気がしない。
完全に捕まった。
これはもう、腹をくくって戦うしかない――。
「では始めましょう、アビス先輩。どこまで情報を知っているか分かりませんが、私の心臓は、すでに良くなっているので安心してください」
鏡に映った
「
「くっ」
アタシは、〈黒星ステラ〉の身体で杖を作りだして構える。
【ディペンデル】の魔術は身体を乗っ取るだけではない。
その対象の戦い方まで、真似ることができる。
完全にとはいかないものの、戦闘力が落ちることはあまりない。
多分、ステラの身体は普通に強い。
でも、それはアビスの身体も同じ。
何より――。
「いきますよ、先輩!」
両手を前に出し、闇属性の魔法を解き放つ。
【アビサルテネブライ・フレア】
バレーボールほどの暗黒の球が飛んでくる。
『魔力の密度がすでにやばいっ!』
アタシは跳躍をして、黒い球を避ける。
羽がなく、体が重たい……。
ステラの身体の記憶から、魔法の箒を生成して、アタシはさらに上空へと飛んだ。
そして、暗黒の球は、私のはるか後方で爆発。
すさまじい爆音と共に、発生した暴風が、空を飛んでいるアタシを襲った。
晴れる煙。
遠くの光景を見て、アタシは絶句する。
「う、うそでしょ……」
逆ドーム状のくりぬきと共に、魔族領の一部が焦土と化していた。
暗く幻想的な自然。
全てが無へと還っていた。
「そ、そんなっ……!? アタシの身体で、あそこまでの魔法を放つことはできないわ!」
ステラが使ったのは闇属性の上位魔法、【テネブライ】。
しかも、魔族の固有魔術、【アビサル】を使って。
ステラは、アビスの身体を、アタシ以上に使えるというの!?
「なんで驚いているの? これぐらい、この身体なら普通に使えると思うんだけど……」
「上位魔法なんて使っていたら、すぐに魔力切れになるわよっ!!!」
「なら、
「うっ……」
ステラはアタシ以上に、【ディペンデル】の魔術を使いこなしている。
あるいは、格上だからか、本人以上に身体のスペックを引き出せるのかもしれない。
アタシにも本来、あれぐらいの力があるの?
そうしたら、どんなに楽に、計画が進んだのだろうか……。
ステラが自分の身体に戻るつもりがない。
その理由がやっと分かった。
さすが、天上ホムラが採用した5番目の魔女。
アタシはとんでもない魔女を相手に、喧嘩を売ってしまったようね……。
ステラは
見とれるほど美しく、やっぱり可愛い。
そして――。
『全く勝てる気がしないっ!』
【アビサルダーク・スタンドスピア】
その数は三十。
う、嘘でしょ!?
いつものアタシは、十が限界なんだけどっ!
「この、化け物っ……」
放たれた複数の槍を、箒で旋回しつつ、さらに魔法障壁も展開して、かろうじて回避をする。
威力、数、オリジナルの
本当に
絶対に何かのチートでも使っているわ!
「くっ、やられてたまるもんですか!」
地面に着地。
杖の先端を
【テネブライ・スピア】
黒い大きな槍を三本生成。射出する。
初速、弾速、誘導性能、申し分ないわ。
威力も完璧だった。
オリジナルの再現は、ほぼ出来ている。
しかし、魔法使いなのに、闇属性の魔法をここまで扱えるなんて、なんて身体を持っているの!?
こんなの敵にいたら、絶対にダメでしょ!?
撃っておいてあれだけど、普段のアタシだったら、間違いなく死んでいる攻撃なんですけど!?
だけど、自分の身体に向けての攻撃なのに、手加減が不要なことも分かっている。
その感覚、正しさを証明してくれるのは、皮肉にも、この〈黒星ステラ〉の身体に残る、記憶だった。
「いいね、悪くない! もっと私を楽しませてっ!!!」
しかし、アタシの攻撃は全く当たらない。
確実に軌道が読めているのか、
「あなた、性格が変わっていない!? 相手にしているのは、自分の身体でしょ!?」
「そこまで、やわにできていないよ」
いや、これが魔女ステラの本来の性格なの?
凶暴すぎるわ!?
「先輩、頑張らないと普通に死にますよ。あ、でも、私たちVTuberだから、そのまま身体が入れ替わっても問題ないかな。いや、ボイチェンは必須だった。やっぱり身体だけ保護して、魂は消滅させるしかないか……」
「ちょ、ちょっと待って、話せば分かるって!」
「魔族と話すことなんてないですよ」
アタシが戦いの時に使っている、マイクスタンド型の鎌を作りだし、こちらへと振るってくる。
【アビサルダーク・ギロチン】
無数の闇属性の斬撃。
鋭い! しかも数が多い!
何より、近接攻撃もオリジナルより上手く行っている。
普通にこの身体では――、てか、普通の魔族でも捌ききれないっ!?
こちらもステラの身体の戦闘記録を元に、杖で鎌を生成して対抗する。
しかし、全て受けきれるわけがなく、かろうじて自身の魔法障壁で、致命傷を受けずに済んでいるだけだった。
【アビサルダーク・クロウ】
アタシの身体から繰り出される、重たい斬撃。
後方へと、
さらに、
【アビサルダーク・ボイスフレア】
鎌の先端、スタンドに取り付けられたマイク。
そこから放たれる、無数の黒い、小さな闇属性の魔力球。
全てが爆発する危険な球。
アタシはすぐにバリアを展開する。
しかし、攻撃の威力はいつもアタシが使う魔法の数倍。
すぐさま、バリアが悲鳴を上げていた。
「む、無茶苦茶じゃないっ!? 何なのよこれ!?」
こ、こんなはずでは……。
「それに、アタシのライブ会場が無茶苦茶よっ!」
せっかく再現してくれた(?)、アタシ悲願のライブ会場。
しかし、そのステージ、客席、見るも無惨な姿。
ライブは中止。
この魔女、最悪っ!!!
「っ!? 相手はどこ? どこに行ったの?」
爆発の衝撃で、姿を見失った。
すぐに魔力感知で相手の位置を特定する。
「ま、真上っ!?」
いつの間に!?
「ふふっ、ふはははっ……」
魔族の翼で、
「こ、このっ……!」
【テネブライ・アロー】
杖から魔法を放つけど、相手の軌道が読めなくて、全く当たる気がしない。
【アビサルダーク・フレアボール】
代わりに残骸が散らばる客席に飛んでくるのは、コールアンドレスポンスと言わんばかりの闇属性の魔力球。
防戦一方。
圧倒的強者。
〈黒星ステラ〉
天上ホムラが用意した、〈ウィッチライブ〉の新しい
満月の夜に照らされた
魔法使いに恐怖を与えるのに十分だった。
「あっ……、これが本当のアタシなんだ……っ!!」
もう正常な思考が出来ていなかった。
月面に映った、アタシではないアタシ。
堂々と翼を広げ、武器のスタンドとマイクを持った姿。
それは、まさにトップアイドル!!!
【アビサルダーク・デスフレア】
それを確認して、アタシはすぐに心を取り戻し、周囲にバリアを展開する。
しかし、とてもじゃないけど、この威力と範囲、避けきれないっ!
天から降ってきた暴力は、アタシのバリアに着弾する。
「っ!? いや……、きゃあぁぁぁぁ……」
結果は分かっていた。
受けきれるはずがないわ。
爆発は直撃。
『か、勝てないっ……!』
こ、こんな得体の知れない化け物、勝てるはずがないじゃないっ!!!
地面へと着地して、ゆっくりこちらへと歩いてくる、別人格の
あっ、もうダメ……。
何をどうすれば良いのか、全く思いつかなかった。
「や、やめて……。お願い、来ないで……。降参、降参だからっ……!!!」
「身体を奪っておいて、降参はないんじゃないかな?」
「ほ、ほら、同じ事務所だし……、さすがに命を取るまでは、し、しなくてもいいんじゃないかな……?」
「それ、本気で言っている?」
「ごめん、ごめんなさいっ! 今度、何でもしますからっ! こ、コラボでも良いわよ! 先輩とのコラボ、嬉しいわよねっ……!」
魔女ステラの地雷を踏んだ音がした。
「魔族とのコラボなんて、死んでもやりたくないわっ!!!」
「ひぃ、ひぃいいい……」
分かる。アタシは知っている。
笑顔で、何食わぬ顔で、今まで何人も魔族を殺してきた。
ステラの身体にしっかりと刻まれている!
始まりと同様に、ステラは
い、息がっ……。
「とりあえず、十分に楽しめたかな……」
「えっ!?」
も、もしかして、ここから入れる保険でもあるのっ……!?
「返すね、この身体。ありがと!」
【ディペンデル】
「え……、はっ!?」
気が付くと、一瞬で身体の感覚、質量諸々が入れ替わっていた。
アタシの視界に映るのは、ボロボロの姿になった〈黒星ステラ〉。
この身体の感覚、間違いなく、普段アタシが使っているもの。
やっと戻って来られたわ。
〈魔宮アビス〉の身体!
不自由のない、いやむしろ、そこら辺の魔族よりも強い魔女の身体。
しかし、抜け出せない以上、それは魂の牢獄だった。
そこから、アタシはやっと抜け出せたっ。
いや――。
強制的に放り出された――!?
『っ!?』
全ての状況が理解できた時、すでに遅かった。
じゃあ今、さっきまでアタシが使っていた魔女ステラの身体にいるのは誰?
そう、元の持ち主、魔女ステラ自身。
いつの間にか、互いの立場は逆転していた。
アタシの首にはすでにステラの手がかけられ、そのまま勢いよく、地面へと押しつけられる。
「ぐはっ……」
強い衝撃。
魔法障壁の展開が遅れた。
いや、もうこの身体に魔力が残されていないっ!?
こいつ……、入れ替わる前に、魔力を全て使い切ってから、アタシの身体を放棄しているっ!?
「あ……、あっ……」
おでこに突きつけられる、魔女の杖。
「〈魔宮アビス〉――、〈ウィッチライブ〉に楯突いた、愚かな魔族……」
「話せば、分かるわ! 魔女と魔族、分かり合えるって!」
「先輩、さようなら」
「や、やめ……」
ごめんなさい、パパ。
アタシ、異世界で死にました……。
目をつぶったアタシの身体に、魔力のビームが解き放たれた。
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