第19話 反乱分子
〈ミスプロ〉には〈魔族〉のメンバーがいる。
当然、私の然るべき対応は決まっていた。
即刻、排除をする。
――そんなわけはなく、こんな私でも、やってはいけないことはよく分かっていた。
だったらその答えは?
そんなの出会わないようにする、の一択だった。
これまで、私は細心の注意を払ってきた。
少しでも魔族の気配を感じたら、絶対に接触しないようにしてきた。
ミーティングなども、できるだけずらしてもらえるようにマネちゃんにお願いしてきた。
しかし、やはり限界がある。
それが、今日だった。
「あら、はじめまして」
あ、VTuberと姿が似ていて、すごく嫌い。
〈ミスプロ〉のメンバーに抱いていい感情ではないのは分かっているけど。
「あなたが噂の黒星ステラね。ずっと会いたかったわよっ!」
「
今回も私は接触を避けようとしていた。いつも通りに。
しかし、目の前の女の子、この魔族は、明らかに私との接触を望んでいる動きをしていた。
さすがに最悪が重なると、避けようがない。
「あら、先輩に対して、呼び捨ては失礼じゃないかしら?」
「あ……、アビス先輩、はじめまして……」
「うんうん!」
ああああ、ぶち(ピー)したい!
視界から、ガチで消し去りたい!
いや、私なら普通にできるんじゃないかな。
魔族の女の子、一人ぐらい。
適当に消して、行方不明と言うことに。
異世界人の死体なんて、この世界では見つからないことが多いし。
「アタシに対して、何か失礼なことを考えていない?」
「もちろん、考えていますよ。アビス先輩」
「ちょっと! そこはちゃんと否定しなさいよっ!」
「ふっ……」
大義名分を、〈ミスプロ〉でトラブルでも起こしたら、速攻で消そう。
それが、戦闘員の役目だと、自分に言い聞かせて。
とりあえず、不本意だけど、新しい〈ミスプロ〉のメンバーの紹介。
少し雑に……。
魔族のVTuber、【
私の一つ前にデビューした、とりあえずの先輩。
本名、アビゲイル・アルドリッチ。
年齢22。
その他、諸々の情報も把握。
相手が相手(種族)なだけあって、念のため、細かいプロフィールまで調査済みだった。
髪の色はピンク。Vも同様。
長さはロング。反対色のメッシュも入っていた。
これもVと同様(以下、同様により省略)。
魔族特有の、左右に手のひらサイズの黒い角があり。
しかし、片方だけ長さが違っていた。
戦闘による欠けではなく、ただの変形。
瞳はオッドアイ。赤青やはり反対色。
胸は程よい大きさ。……死ね。
服装は普通に、〈人間世界〉の物を着ていた。
かなり今どきでオシャレかな。
本人もファッションに気を遣っているみたいだし。
私が説明できる個人情報は、そんなところかな。
以下、集団での情報も記載。
〈ミスプロ〉で〈魔族〉は珍しく、〈魔宮アビス〉ただ一人だけ。
さすがに〈魔女〉が作った事務所だけあって、〈魔族〉の加入希望者は少ないみたいだった。
というか、一人でもいることが、おかしい気がする。
普通、入ろうと思わないんじゃないかな。
何でホムラ先輩は採用したんだろう。
それと、私の一つ前の先輩からも分かる通り、リリベル先輩とかなでちゃんの同期でもあった。
魔女のリリベル先輩は不幸としか言いようがない。
その色々と異端児の〈魔宮アビス〉の問題点を挙げるなら、ただ一つだけ。
協調性の欠如。
さらに具体的に言うと、魔女に対する対抗意識。
〈魔宮アビス〉はその種族から、どこのグループにも属していない。
だから、本人が勝手に作り、名乗っていた。
【ウィッチライブ レジスタンス】
と……。
まさに『反乱分子』。
ホムラ先輩が以前言っていたように、〈サバンナ〉より先に処す必要があるのには同意します。
ちなみに、私にも実害あり。
某ブロックのオープンワールドゲーム(箱庭ゲーム)で、作った建築物を爆破されました(怒)。
このように〈ウィッチライブ〉に対する、〈魔宮アビス〉の地道な工作活動は続いている。
まあ、可愛いものだし、本人も変に常識があるせいか、炎上にまで至るケースは少ない。
ファンから見ても微笑ましい範囲。
あるいは滑る範囲で済んでいた。
それに、上には上がいる。
『ふはは……、悪魔がゴミのようだっ!』
とか言いつつ、『天の火』あるいは『インドラの矢』を空から落として、〈アンダーグラウンド〉の建物を広範囲で壊した人物がいたりとか。
その報復として、天空に建てられた、〈フェアリーテイル〉の立派な宮殿を
その時、私も配信していたけど、すごくブロックが振ってきて焦ったし、負荷でパソコンが悲鳴を上げていたし。
鳩(※)も酷かったかな……。
(※鳩、同時刻の別の配信者に情報を伝えること。伝書鳩より。良い意味で使われることは少なめ)
○ステラちゃん、止めて!
って伝えられても、どうしようもないんですけど!!!
ちなみにだけど、配信者が作った建物の破壊は、よっぽどのことがない限り、やらない方がいいかな。
推しが頑張って作った建物が他人に破壊されることに、嫌悪感を抱くのも分からなくもないし。
まあ、〈ミスプロ〉はあの後、かなり燃えたし……。
そんな感じで、魔宮アビスについて、色々と文句を言ってきたけど、結局、私も人のことは言えなかった。
きっと、魔宮アビスも、魔女の私のことが同じように嫌いだと思う。
だから、私はできるだけ関わらないようにしていた。
それは、他の魔女の先輩も同じ。
温厚な暁月アリス先輩ですら、魔宮アビスには手を焼いていた。
〈魔法世界〉で戦争は終わった。
だけど、種族のわだかまりは残ったまま。
いや、もしかしたら、〈魔法世界〉でも、表面上だけなのかも。
いずれにしても、調子が狂う。
「ではアビス先輩、ごきげんよう」
私はさっさと、この事態から逃れようとする。
初めての出会いは数十秒だけ。
それ以降も同じ。
あるいは、未来永劫なしにしたかった。
しかし――。
「ちょっと待ちなさいよっ! 少しはアタシに付き合いなさいっ!」
「ええっ!?」
「先輩の言うことが聞けないっていうの!!!」
「はぁ……」
私は深いため息をついた。
こっちは別れたい。
だけど、相手は私に用事がある。
〈魔女〉と〈魔族〉、相容れない存在なのに……。
そして、私も丸くなっていた。
この世界に来てから、二度も魔族を見逃している。
私はしぶしぶ、パワハラにも等しい、魔宮アビスの背中に付いていくのだった。
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