第二章後編
第18話 大きなフリ
二月上旬。
〈ミスプロ〉は現在、炎上していた。
事の発端、それは省略する。
というか、何がきっかけで炎上したのか、私もいまいちよく分かっていない。
理由?
だって、私たちと種族が違うのだから。
〈天界〉VS〈魔界〉
種族間抗争による、今回の炎上騒ぎ。
何がお互いの逆鱗に触れてしまったのか。
メンバー同士が暴言を言い合うまでに、悪化の一途をたどっていた。
そして、これは『大きなフリ』でもある。
よくよく覚えていてほしい。
世間(ネット)でたまに噂になる、VTuber、あるいは配信者の不仲説。
話半分に聞いておいた方がいいと思う。
私も日頃から困っていることなんだけど、リスナーは小さな噂話に敏感に反応してしまうときがあった。
例えば、二人の配信者が全く言葉を交わさなかっただけで、不仲だと決めつける人がいる。
SNSでのやりとりなどもそう。
たまたま、かもしれないのに。
本当に不仲かどうかは、直接本人に聞いてみないと分からないのに。
もちろん、二人の裏でのやりとりは、リスナーやファンからは見えない。
配信者だからこそ、配信からでしか判断するしかない。
だから、この職業の宿命ではあるんだけどね。
もちろん、私も経験済み。
主にデビュー当時かな。
〈夜桜カレン〉と〈狐守はくあ〉が仲良くコラボを重ね、〈黒星ステラ〉は孤立。
実際は、おおむねその通りだったんだけど、その後仲良くなったら、案の定、運営からのテコ入れという憶測が流れた。
思い出してきただけで、いらいらしてきた。
だから、私としては、そんな根も葉もない噂なんて信じないで、本人が言っていることだけを信じてほしいかな。
それが、真実だから。
あと、こういった不仲説はアンチに利用されやすい。
対立煽りの助長にもなる。
なので、やっぱりスルーしてくれると助かるかな。
と、ここまで言っておいて、話を戻すと――。
〈天界〉陣営、グループの名前を【フェアリーテイル】。
〈魔界〉陣営、グループの名前を【アンダーグラウンド】。
この二つのグループは、世間では非常に仲が悪いと言われている。
でも、それは悪い噂である。
〈ミスプロ〉アンチの妄想。
みんなは信じていないよね?
『…………』
――ごめんなさい、本当です。
ガチで仲が悪い。
VTuberグループ、普通だとあり得ない話。
今回の炎上騒ぎも、それが理由の全て。
〈フェアリーテイル〉所属のメンバーと、〈アンダーグラウンド〉所属のメンバーが総出で、『聖戦』を行っていた。
まじで、何やっているの……。
だから、私たちのグループは、メンバー同士で仲良くやっている〈サバンナ〉に差を付けられるんだって……。
ちなみにだけど、私に直接の実害はなかった。
〈ウィッチライブ〉所属だしね。
ただ、板挟みになることは、たまにあった。
まず、渦中の〈アンダーグラウンド〉所属、同期の〈夜桜カレン〉について。
たまに、愚痴を聞くことがある。
それだけなら、まだいいんだけどね。
問題はその愚痴が長くて、かつ時間帯が深夜。
やめてほしい。
VTuberは非常に喉を使う。
人によってはライブのダンスで体も使う。
体が資本。配信者でも、規則正しい生活は大事。
ただでさえ、夜の配信で不規則な生活になりやすいのに、日が昇るまで愚痴を聞かされるのは困る。
確か、カレンちゃんって50年以上生きていた気がする。
(吸血鬼にしては若い方らしい)
年配のおじさんの愚痴を聞く若者。
パワハラは良くないと思う。
一方、〈サバンナ〉所属、同じく同期の〈狐守はくあ〉について。
直接、抗争とは関係がないんだけど、〈サバンナ〉は基本、〈フェアリーテイル〉の『盟友』である。
これは異世界の歴史が関係していた。
獣人は、元々は〈自然界〉に住んでいた、ただの動物。
大昔に〈天界〉の神々が、
以上のことから、獣人は〈天界〉を神聖化していることが多い。
俗に言う、【天界信仰】。
はくあちゃんや、かなでちゃんも例外ではなかった。
よって、〈夜桜カレン〉と〈狐守はくあ〉は、実は間接的に敵同士だったりする。
というか、これも思い出した。
過去のはくあちゃんと、カレンちゃんの対立、そもそもそれが原因。
はくあちゃんが身を置いていた、リアルの獣人のグループが、カレンちゃんを含む、吸血鬼の狩りを実行。
め、めんどくさい……。
だから私は、よく同期の二人に、〈フェアリーテイル〉と〈アンダーグラウンド〉、どっちが悪いか聞かれるんだけど……。
当然、言葉を濁すなどして、どっちつかずの態度を取っていた。
あと、定期的に勃発する、〈フェアリーテイル〉と〈アンダーグラウンド〉の抗争だけど、大体は〈フェアリーテイル〉の優勢で事が終わる。
だって、〈ミスプロ〉の最大勢力、〈サバンナ〉が味方に付くのだから。
なお、〈ウィッチライブ〉はその仲裁に入ることが多い。
主に〈暁月アリス〉と〈円樹リリベル〉が。
(先輩、いつもお疲れ様です……)
それが〈ミスティックプロジェクト〉の平和とは言いがたい日常の一部だった。
これは他の事務所とは違う、いや、かなり大きく違うところだと思う。
この事務所、いつか崩壊するんじゃないかな……?
何で社長は、天上ホムラはお互いを採用したんだろう。
〈ミスプロ〉の火薬庫にもほどがある。
『いや、違うのかも……』
もしかしたら私は今、浅はかな考えをしているのかもしれない。
〈フェアリーテイル〉と〈アンダーグラウンド〉の対立。
実は今の状態がベストなのかも。
今回は炎上まで発展したけど、日頃は小競り合い、あるいはプロレスという配信のネタで済んでいる。
これがリアルだったら、きっと殺し合い。
あるいは、それに近い何か。
最悪に制限がなく、見境なく事を起こすこともできた。
しかし、配信だと、さすがにそこまではいかない。
(――と、信じたい)
配信という、心許ないながらもセーフティネットが張られている。
少なくとも、何千人かに、毎回監視されている。
それに、〈ミスプロ〉の肩書きを与えている以上、ホムラ先輩は、よっぽどやばい人は採用していないと思う。
(むしろ、私が一番やばいまでもある……)
これは、配信を利用したガス抜き。
あるいは、グループを利用した代理戦争。
良くてプロレス、悪くても炎上。
そう考えると、実はこの展開、天上ホムラによって仕組まれたことなのでは……?
――なんてね!
私はここで考えるのをやめた。
これ以上、詮索なんてしません。
私は戦闘員なんで、上からの命令に忠実に従うまでですよ。
だって私は、今度は〈ウィッチライブ〉に、全てを捧げるつもりでいるのだから。
私の新しい居場所、もう失いたくはなかった。
そんなわけで長々と、〈ミスプロ〉の今回の炎上騒ぎについて説明してきたわけだけど。
私が始めに言ったことを覚えているだろうか?
実はここまでが、『大きなフリ』だったりする。
ごめん……。
ここまで、他のグループに散々文句を言ってきた私。
実は人のことが言えなかった。
争いとは無関係な、リアル魔女を集めたグループ、〈ウィッチライブ〉。
実は敵対勢力が〈ミスプロ〉内に存在していた。
いや、社長が魔女だから、事務所の『反乱分子』。
社長本人もそのように言っている。
〈ミスプロ〉に所属しているメンバー、そのキャラクター設定は――。
天使や悪魔、魔女に魔族……。
そう魔族!
以下の説明は省略するとして、〈ミスプロ〉には一人だけ、魔族の女の子が在籍していた。
だから〈ウィッチライブ〉は、今回の炎上騒動、完全に他人事とは言えない。
そして、私の恐れていた最悪の事態は、ちょうど炎上が沈静化しようとしていた日に起きた。
事務所からの呼び出し、ミーティング、その廊下で起きた出来事。
「あなたが噂の黒星ステラね。ずっと会いたかったわよっ!」
「
目の前にいる女の子は事務所の先輩。
しかし、その種族は『魔族』。
この世で一番、私が嫌いなもの。
仇敵。
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