第17話 不協和音

 コラボ終了から約三時間後の午後11時過ぎ。

 全ての事が終わり、私は研究所内で一息ついていた。


 この施設で私にできることは、もう何もない。

 私は回復魔法が苦手、というか使えないので、負傷者の手当もできない。

 あと、施設の地理が分からないので、手伝えることを探しに行ったところで、足手まといか迷子になるのが目に見えていた。


 だから、犯人の身柄を引き渡して私の仕事は終わり。

 ちなみに、殺していないよ。きちんと生け捕り。

 かなでちゃんをやられた恨みはあるけど、それとこれとは別。

 彼女の処遇を決めるのは政府。私ではない。


「あ、黒星さん」


 ほどよい高さの所に座り、そこら辺にあった大破した自販機から盗んできたジュースを飲んでいると、先輩の蛇ヶ崎かなでちゃんが嬉しそうに駆け寄ってくる。


 あの後、医務室で本格的な治療を受け、毒は完全に消滅。

 大きな外傷はなかったので、もうすっかりと元気らしい。

 まあ、獣人の回復能力は高い。

 普通の人間と同じ尺度で考えてはいけない。


「探しました。先ほどは本当にありがとうございました」

「当然のことをしただけです」

「すごく、すごく、格好よかったです」


 先輩に褒められるのって、悪い気がしないね。


「それで、その、黒星さんって毒が平気なんですか……?」

「あー、耐性があるというか、まあ、大丈夫だね」

「そ、そうなんだ……」

「ん?」


 かなでちゃんは少しうつむき、ぼそぼそと小声で何かを言っている。


「毒が大丈夫……、この人は大丈夫なんだ……」


 何か変なスイッチを踏んだかもしれない。

 急にかなでちゃんが、よそよそしくなった気がする。

 かと思えば、スススっとゆっくりと近づいてきて、体を寄せて来た。

 この感覚、別の獣人で経験したことがある。


『もしかして、……?』


 少しでも油断したら、腕を絡みつかれそうな勢い。


 あと私の腕を、首を、そして唇を……。

 なんかパクッと咥えたそうに、チロチロと見るのはやめてください。

 いや、毒に耐性があるから噛まれても大丈夫だけど、こっちも準備というか、女の子同士だからね?


「黒星……」

「か、かなでちゃん!?」


 先輩呼び!?

 き、聞き間違いじゃないよね?

 私はかなでちゃんより年上だけど、〈ミスプロ〉だと、先輩じゃないからね!


 多分、言い間違い。

 次の日には、呼び名は元に戻っているはず……。


 私がキツネ以上にペットの扱いに困っていると、二人の別の人物が姿を見せる。

 円樹リリベル先輩と狐守はくあちゃん!


『はくあちゃん、よく助けに来た。さすが私の使い魔!』


 私は助け船だと思って、すぐに二人の元へと駆け寄った。

 ちなみに、私たちを見るはくあちゃんの目が怖かったのは、気付かなかったことにしておきます。


「リリベル先輩、大丈夫でしたか?」

「ええ、おかげ様で。今回は何もかも、ステラちゃんに頼ってばかりだったわね」

「いえいえ、お役に立てて、本当に良かったです」


 同期の方にも、私は声をかける。


「はくあちゃんもありがとね!」

「ううん、ステラさんのためなら……」

「頼りになる同期を持って、私は幸せ者だよ」

「ステラさん……」


 はくあちゃん、チョロい。

 まあ、頼りになるのは事実だけどね。

 雑魚を引き受けてくれたおかげで、かなでちゃんの救出に間に合った訳だし。


「ステラちゃん、少しいいかしら?」

「はい、何でしょう?」


 魔女は魔女同士。私とリリベル先輩は、ここから少しだけ離れた場所に移動して、二人っきりになる。

 獣人は獣人同士。若干、私への思想が怪しい二人は、一緒に隔離(?)、あるいは抱き合わせておくことにする。


「今回は本当にありがとね。研究室の副局長として、改めてお礼を言うわ」

「こちらこそ、リリベル先輩のおかげで色々と気付かされました。それに身体が良くなったおかげで、戦えたところもあります」

「それは良かったわ。そうそう、これは数日分のお薬。きちんと飲んで、心臓をいたわってね」

「はい!」


 渡された魔法薬。心臓の完全回復は近い。


「あと、アリス先輩のところにも顔を出すこと!」

「わ、分かりました……」


 うっ、そっちは気が重い。

 今は上下関係があって、昔みたいに話をするのが気まずいんだよね……。


「あと、ステラちゃんの同期、夜桜カレンさんにもよろしく伝えてもらえると助かるわ」

「分かりました」


 そっちにも感謝だね。

 カレンちゃんなしでは、今回の作戦、上手く行かなかった。

 先輩、同期、やっぱり大切だね……。


「それにしても……」


 リリベル先輩は浮かない表情をして、少し離れた場所で話をしている、かなでちゃんとはくあちゃんを見つめる。


「ステラちゃんは同期と仲が良くて、羨ましいわ……」

「あっ……」


 私は言葉に詰まる。


「わたしも、できればいいんだけどね……」


 リリベル先輩も、同期と仲が良いと言えば、良いと言えるだろう。

〈円樹リリベル〉と〈蛇ヶ崎かなで〉、この二人は今回のコラボでも事件でも、協力関係にあった。

 それを私は間近で見ている。


 しかし、〈ミスプロ〉から、リリベル先輩と同時期にデビューしたのは、彼女も含めて三人。

 つまり、かなでちゃんの他に、同期は〈〉いる!


 悲しい顔をするリリベル先輩に、


『先輩なら、もう一人とも仲良くできますよ!』


 とでも、言うべきだったのだろうか?


 いや、とてもじゃないけど、それは言えない。

 明らかなだったから。

 私がそれを言ったところで、リリベル先輩は全く信用してくれないと分かっていたから。


 理由、だって――。


 リリベル先輩と同じだから。


 私も〈〉と、仲良くできる気が全くしなかったから――。



 ウィッチ・ライブ 第二章前編 完

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