第11話 地獄のコラボ

【ミスプロオフコラボ】可愛い後輩魔女を料理の力で元気にするわ!【蛇ヶ崎かなで/狐守はくあ/サバンナ/円樹リリベル/黒星ステラ/ウィッチライブ】


 コラボ配信のタイトルは上の通り。

 開始は一時間ずれたものの、それ以外は予定通り行われることになった。


 ここでコラボに参加してくれるミスメン三人を、改めて紹介しておこうと思う。


【円樹リリベル】


 言うまでもなく、〈ウィッチライブ〉4番目の魔女。

 リスナーの間では『薬師』、または『研究者』、あるいは『マッドサイエンティスト』的な立場として親しまれている(恐れられている)先輩。

 愛称はリリねえ


 姉さんと付くとおり、他のメンバーと比べて、ガワは少し大人びた雰囲気。

 身長もリアルと同じで高めの170センチ。

 以降の情報にも当てはまるけど、〈ミスプロ〉のVTuberのガワとリアル、細かい違いはあるものの、大体同じだと思ってもらってもいい。


 髪の色は緑。

 長さは腰まで伸びた、ストレートロング(寝癖は一切なし!)。

 頭には花をモチーフとした冠。


 初期衣装は、やはり緑を基調としたレース付きのドレス。

 落ち着いた色の割に、体の二つの強調すべきところはきちんと出ていた。


 リアル、植物園(研究所)の副局長をしているだけあって、バーチャルは、自然を愛している魔女といった位置づけのキャラクター。

 オプションパーツとして、木をモチーフとした杖(先端はつぼみ、開くと花びら)を持っていることを私は知っている。


 もし戦いになったら、自然を使うのを得意とした風属性の魔法が得意かな。

 という妄想が捗る。

 実際に魔力から、風魔法が得意だと思うし……。


 チャンネル登録者数は22万人。

 配信傾向はゲーム、雑談、歌枠とメジャーどころは抑えつつも、他と違うのは料理配信をしているところかな。

 晩酌配信では、自分でおつまみを作ることでも有名。


 研究所勤めをしていることもあって、ミスメン内でのIQ値はかなり高い。

 頭を使うゲームでは、リリベル先輩の名前が真っ先に挙がることが多い。つまり頭脳ずのー


 その反面、アクションゲームはかなり苦手。適正がない。

 本人は否定してはいるものの、内心ではそれをしっかりと自覚。

 ショート動画をいくつも上げていた。つまり本人公認のネタの一つ。


 これは主に配信者、あるいはアイドルなどにも言えることだけど、ゲームの上手さが正義とは限らないのがこの業界の面白く、そして恐ろしいところでもある。

 ゲームが下手、それが目当てで観に来るリスナーも多い。

 むしろ、中途半端な上手さの方が埋もれる可能性すらある。


 教養もそう。

 漢字が書けない、計算ができない、配信だと笑いに変えられる可能性があった。

 この業界に必要なのは、人を引きつけるだけの何か。

 それが全て。


 リリベル先輩は頭脳キャラ。

 だけど、アクションはてんでダメなお姉さん。

 そういう立ち位置を確立している。


 何よりアリス先輩と同じく、メンバーに分け隔てなく優しい。

 箱推しからの信頼も高い。

 やっぱり、尊敬できる先輩の一人だった。


 さらに、リリベル先輩のことを掘り下げるなら、家庭的で料理はプロレベル。

 配信傾向からも分かる通り、これも本人の強みの一つ。

 外食企業とのコラボ以外にも、過去の〈ミスプロ〉のイベントでは、リリベル先輩監修の料理が出されたことがあったはず……。


 だから、今回のコラボは非常に楽しみ!

 前にも言ったけど、〈ミスプロ〉に入って叶えたかったことの一つ、私はリリベル先輩の手料理を食べることができるのだから。


 しかし、コラボには、私以外のミスメンも招集されている。

 コラボ内容を考えれば、二人はいらないはず……。

 私は未だに、その理由が分からずにいた。


 その二人も(一応)紹介。


 一人目は私の同期、【狐守はくあ】。


〈ミスプロ〉の最大派閥、〈サバンナ〉所属の白キツネ。

 配信で力を入れているのは歌枠。

 詳細は前に説明したので省略。同期なのでここはちょっと雑に。


 最新の情報としては、〈ミスプロ〉の初任給がやっと入り、新しいマイクを買うことができて、ちょっとご機嫌なぐらいかな?

 ちょこちょこと私の家に来て、嬉しいと報告をしてくる。

 近所の森に住んでいる、野良ネコ(キツネ)かな?

 とても可愛いと思う。


 そして、もう一人は先輩なので、きちんと紹介。


 同じく〈サバンナ〉所属、【蛇ヶ崎かなで】先輩。


 動物のモデルは名前からも分かる通りヘビ。

 VTuberのキャラクター設定だと、少しマイナーな動物(生物)かもしれない。

 愛称は普通に『かなでちゃん』。

 たまに、『カナヘビちゃん』と呼ばれたりもしていたかな。


 髪の色はベージュ。長さはショート。軽くウェーブがかかっている。

 落ち着いた性格のリアルを反映した、派手ではない容姿。


 しかし、それは首から上、容貌のみ!

 衣装はギャルっぽい感じで意外と肌色が多く、おへそもチラ見せ。

 アクセントに宝石っぽい鱗がちりばめられている。

 なぜか肌にも付いている……。


 ヘビは――、というか獣人は、元の世界ではあまり服を着ていないから、露出の高さはデフォルトなのか。

 それともリアルとは違って、バーチャルだと羽目を外したいのか。

 あるいは、露出度を高くして、小悪魔的にした方が、受けが良いと運営(あるいは本人?)が判断したのか。

 理由は聞いてみないと分からないけど、私はすごく魅力的な姿だと思っていた。


 チャンネル登録者数は27万人。

 配信傾向はゲーム、雑談。

 特にゲーム配信は長時間、そして、やりこみ要素が得意。

〈魔界〉出身のメンバー、いわゆる〈アンダーグラウンド〉ほどではないけれど、深夜にゲーム配信をしているのをよく見かけるかな。


 あと、メジャーどころではなく、マイナーなゲームをやっている印象。

 配信でも口数は少なめ。良い意味でダウナー系。

〈ミスプロ〉では珍しい方かも。


 落ち着いた声が好きな人には、刺さりまくっているのかも。

 作業のお供に最適とも。世間からの需要は高い。


 そうそう、毒は持っているけど、毒舌キャラではない。

 少し辛辣な部分もあったかもだけど、常識の範囲内。

(そういうのは白い人の担当)


 というわけで、主要人物の紹介も終わり。

 コラボの時間になったので、私はスマホのカメラを準備して、配信に備える。


 リリベル先輩は別の研究者用のノートパソコンで配信。

 もちろん、研究に使っている物なのでハイスペック。

 私の方は、先輩のすぐそばからスマホで参加。

 アバターの動きはネットを介して、先輩の方に送られるようになっていた。


『というかあれ!?』


 はくあちゃんとかなでちゃんは、初めは参加しないんだ……。


「ジリリリリン(※SE)、〈ウィッチライブ〉所属、薬師、または研究者の円樹リリベルよ!」


 ちなみにSEの部分、たまに恥ずかしながら、自分で言うこともある……。


「今晩は素敵なゲストをお呼びしています!」


 疑問のモヤモヤが残ったまま、コラボ配信開始。

 メッキの剥がれまくっている清楚なステラが、ファンの前に姿を現す。


「こんステラ~、〈ウィッチライブ〉所属、清楚担当の黒星ステラだよ~!」


○清楚?

○嘘付くな!

○こんステラ。清楚ははくあちゃんやろ!


 自分でも知っているわ、そんなこと!


「リリベル先輩、今日はご招待ありがとうございます!」


 初めはぼちぼち、お互いのなれそめの話。

 リスナーの前では初対面だからね。


 ある程度、場が暖まったら、早々にリリベル先輩の手料理のお披露目。

 今回は事前に作ってくれているパターン。

 私は期待に胸を膨らませていた。


 そして、私たちの前にリリベル先輩お手製の料理が運ばれてくる。

 お盆に載った料理を運んできたのは、なんと獣人の二人、狐守はくあちゃんと蛇ヶ崎かなで先輩だった。


「うわー、すごっ……、って、ええっー!?」


 配信なので、芸人みたいにリアクションは大きい方がいい。

 しかし、その心配は全くいらなかった……。


 二人が両手に持った四つのお盆の上には、なんと山盛りの料理が積まれている。

 特に肉系が多い。というか色彩的に野菜がかなり少ない。


「え……、先輩、これすごく量が多い……。肉しかない……」


 私の声のトーンはかなり低くなっている。

 絶句しつつも、最低限(?)の食レポは忘れないように、配信者として頑張っている。


 重量的にかなりハード。

 というか獣人じゃないと、お盆一つを片手で持てないぐらい。

 え、え、どうするのこの量!?


「はい! ステラちゃんは普段、全然食べないみたいだから、今回は力を付けてもらうために、肉料理中心にしました!」


 リリベル先輩のマウスを動かす音が聞こえたあと、私が別のノートパソコンで観ている配信画面には、調理室で写真を撮ったと思われる、目の前と同じ料理の画像が張られていた。

 リスナーの反応は私と同じ。その量に圧倒されている。

 あるいはメンバーシップの『草』のスタンプ。


○草草草

○おおすぎるわw

○これ何人分なんだ?


「私、こんなに食べられない……」

「ちなみに、事前に測ったステラちゃんの体重は42キロ。体脂肪率は5%未満。お姉さん、すごく心配な数字です」

「ぎゃぁぁぁ!? なにばらしているんですか!!!!!」


○いやいやいやいやいや

○痩せ過ぎw

○ステラちゃんもっと食べて!

○これは胸がないな


「おい! 今、胸なしとか言ったリスナー、魔法ぶち込むぞ! これでも少しはあるわ!!!」


 リリベル先輩のところのリスナーではない、非メンバーシップ加入者。

 というか、名前に見覚えがある。

 私のところの黒猫くん(※ファンネーム)……。


『覚えたからね、その名前!!!』


 少し取り乱してしまったけど、リスナーの反応的には、かなり良くない数値らしい。

 この世界の男性は痩せている女性が好きって聞いていたけど、やっぱり健康的な体の方が好きなんだね。


「というわけで、ステラちゃん食べなさい!」

「あ、いや……」


 リスナーのコメントに気を取られているうちに、私はかなでちゃんに背後から脇へと腕を回され、身動きが取れない形になる。

 その間に、すごく大きなスプーンを持ったはくあちゃんが、私の口に料理を放り込もうとしていた。

(スプーンの大きさ、私の口と同じくらいなんですけど……っ!!!)


「ステラさん、はい、あーん♡」

「あー、あー」


 悲鳴を上げている口へと、料理が雑に入れられる。


 ジタバタと悶える私。

 カメラは私の動きを捉え、アバターにも不審者的な動きとして反映されている。

 果たしてこの光景、きちんとリスナーに伝わっているのだろうか?

 3Dで配信したら、面白い絵面が撮れそう。早くほしい……。


 ――いや、公表されていないだけで、私は持っていたわ……。

 はくあちゃん、お先にごめん……。

(ちなみに、先輩二人は実装済み)


「むー、むー」


 そして休みなく、次々と口に放り込まれる料理。

 喉を通る量と、口に入れられる量が一致していない。

 ダメ、これ以上、入らない!

 胃も限界だって!


「ふとっぷ! ふとっぷ!!!」(※ストップ)

「え? ステラさん、まだ全然食べていないよ」

「少な過ぎ」


 獣人二人とも、私が食べた量に不満があるらしい。


「かなで先輩、私たちだったら、すぐになくなりますよね?」

「うん」


 ええっ……(ドン引き)。


 画像を通して、料理の量を共有しているリスナーとは、多分、私と同じことを思ったはず。

 二人とも食べ過ぎだろうと……。

 獣人はどうやら、すごく食べる種族らしい。


 最初、料理の量を見たとき、四人で全部食べきれるのかな?

 残したりしたら叩かれないかな、と心配していたけど、どうやら問題ないらしい。

 本当に、この後スタッフ(ミスメン)が美味しくいただきました。

 よくよく考えれば、二人のファンはその点も把握しているかもしれないから、炎上することもなかった。


 やっと止まる、はくあちゃんの給仕。

 もう、お腹一杯。

 一応、美味しかったけど……、真っ先に頭に浮かぶ感想が別。

 いつかゆっくりと、少量だけ、リリベル先輩の料理が食べたいな……。


「ステラさん、次はこれです」

「え、まだあるの……? え……、何これ……」


(※絶句)


 この世界では、まだ見たことがない料理。

 微妙にグロテスクな色(灰色)。

 何かの肉がスープに浮かんでいる。


「ヘビの煮込みです」


 かなでちゃんがぼそっと呟く。


「いや、食べたくな……。今回、私は遠慮しておこうかな……」


 微妙に手遅れだったかも

 ヘビ本人の前でその台詞はアウトです。


「ちなみに隠し味として、え……、か、かなで先輩の体の一部やエキスが入っているみたいです……。す、ステラさん、頑張って……!」

「え!?」


 リリベル先輩が作った、手書きの説明を読むはくあちゃん。

 それを聞いた私、多分、少し青ざめている。

 読んでいるはくあちゃんも、リアクションが消滅している。

 一方で当の本人、かなでちゃんは、少し顔を赤らめていた。


○かなで水が入っているの!?


 とか、リスナーは冗談半分でコメントしているけど、本人の反応を見るにマジっぽいんだよね……。


 というか体の一部って何?

 エキスって何?


 戦闘中に見た、脱皮した鱗の粉末とか?

 あるいはもっとやばいやつ?

 いらない妄想がどんどん膨らんでいく……。


 確かにヘビは滋養強壮に良いって聞く。

 私の世界でもそうだった。

 魔法使いとも関連性がある。

 でも、食べるのはちょっと……。


 私の脳裏に、リリベル先輩のある台詞が浮かんでいた。


 『コラボ中は絶対にわたしの言うことを聞くこと!』


 リリベル先輩の顔を見る。

 にこやかに笑いながら、


 『!』


 と目が言っていた。


 ここまでくれば、もう分かる。

 これは配信という舞台を利用して、私に体に良い色々な物を食べさせようとしている。

 獣人二人はそのための要員。

 力が強く、拘束されれば、私はひとたまりもない。


 仮に拘束から抜け出せたとしても、これが配信の場である以上、逃げ出すことは許されない。

 盛大なフリ。

 私は必ず一口は食べて、何かリアクションをしなければならない。


 毛穴から吹き出す汗。

 全身に広がる鳥肌。

 配信では全く伝わっていないので、割に合っていない。


 かなでちゃんは、しっかりと私の体を抱きしめ、そのままはくあちゃんの手で、ヘビの料理が口の中へと放り込まれた。

(だから一口が多いんだってっ!!! はくあちゃんは加減を知らないのっ!!?)


「うっ……、うっ……、うっ!?!?」


 正直、味は覚えていない。

 本場のヘビ料理はとても美味しいらしいんだけど、そんなの関係ない!


 口に入れた直後、数十秒の記憶が、私の頭の中から消えていた。

 よほど刺激的だったのだろう。

 脳が黒歴史と判断して、記憶メモリーから消し去ったのだ。


 しかし、皮肉にも配信アーカイブには残っている。

 念のため、あとで配信を見直すと、なんか言語化できないあえぎ声をずっと挙げ、私のアバターがプルプルと震えていた。

 まるで拷問を受けているようだった……。


 さらに最悪なのは、そこで悪夢が覚めなかったこと。

 戻った記憶の先、私の目の前のテーブルには、ミキサーの中に入った、濃い緑色のスムージーが置かれていた。


「ちょっと、それなに? なんなの?」

「デザート。わたし特製の薬用スムージーよ!」


 制作者本人、リリベル先輩が自信たっぷりに答える。


「な、何を入れたんですか……?」

「それは内緒!」


 まるで大量のイモムシを潰したかのようなグロさ。

 しかも、なぜか泡が立っている。

 ポコポコと気泡も浮かんでいる。

 私が恐怖を抱く中、ミキサーの蓋が開けられた。


「うえっ!?」


 匂いがすでにやばい!!!

 蓋を開けた瞬間から、この空間の全てが、目の前のスムージーによって汚染されている。


 明らかにこの世界で使われることのない植物が含まれている。

 主に〈魔法世界〉の薬草。

 しかもこれ、結構やばいやつでは……?


 私は知っている。

 重症者に使われるやつ。

 副作用もきついやつ。


 リリベル先輩以外、鼻をつまんでいる。

 というか、リリベル先輩も嗅覚をカットする魔法(瘴気対策でよく使われるやつ)を自分にかけている。

 テレビとか、映像があれば、面白い絵面。

 なんで一切伝わらない、VTuberの配信でやるの!?


 前回、前々回と同じく、はくあちゃんが緑の薬用スムージーをスプーンに乗せ、私の口へと放り込もうとする。

 当然、私はスムージーの侵入を拒んだ。

 しかし、その抵抗はむなしい。


「大丈夫、ステラさん。私も一緒に飲むから……」

「は、はくあちゃん!? ちょっと待って! なんで自分の口に含んでいるの!? まさか、そのまま口移しするつもりじゃ……」


 はくあちゃんは、スムージーを口に含んだまま、こくこくと顔を上下に振った。


「い、いやぁ、やめ……。私の初めてのキス、こんな味で記憶したくない……」


 逃げようとする私。

 絡みつくように抑えるかなでちゃん。

 私のファーストキスをこんな形で……。

 しかも、全国のリスナーの前でしたくはなかった……。


「んむ……、ん……? んんんんんっっっ!!?!!」


 唇が重なり、無理矢理ねじ込まれる、薬用スムージーと軟体生物を模した舌。

 私はジタバタと、もがくことしかできなかった。


 このキスから十分後、この配信は無事(?)に終わりを告げた。

 同接はうなぎ登りで、最終的に5万人を突破。


 それと引き換えに、私の尊厳と貞操は失われたのだった。

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