第7話 サバンナの刺客

〈サバンナ〉所属のVTuber、【蛇ヶ崎じゃがさきかなで】ちゃん。

 いや――、先輩。


 私の印象だと、礼儀正しく、はくあちゃんよりもさらに口数が少ない。

 配信でも、大きな声で叫ぶイメージは持っていない。

(ただし、ホラーは除く)

 それはリアルも同じだった。


 というか、最近主流のVTuberはアニメのキャラとは違って、誰かを演じているわけではないので、バーチャルと変わっている方が珍しいのかも。

 あと、猫を被っていても、いずれメッキは剥がれる。

 デビュー当時は清楚(?)で売っていたはずなのに、

 今ではゲームのモンスター、あるいは魔物に対して、


ーーー!!!」


 と叫び散らかしている、私のように……。


 見た目、第一印象で目を引くのは、やっぱりサイズの合っていない制服。

 コスプレとかではなく、本当に実在する、都内の私立高校の制服らしい。

 つまりは現役高校生(JK)。学年は二年。

 これは、あとで非公式のウィキを見て調べました。


 髪は薄い茶色(ベージュ)のショート。

 目はぱっちりしてるも、全体は少し幼さの残る童顔。

 並んでいるはくあちゃんと比べると、やっぱり少し子供っぽいかなーと感じる。


 口数が少ないコンビで、はくあちゃんがお姉ちゃんだとしたら、かなでちゃんは妹ちゃん。

 実際にファンの人からも、妹キャラとして愛されている。


 どこにでもいる可愛い女子高生。

 都会では、そうとしか見えない。

 しかし、真の姿、自分を偽っていないVTuberの姿はエグい。


 チャンネル登録者数は27万人。

 私とはくあちゃんの一つ前にデビューした先輩。

 ついでに、円樹リリベル先輩の同期。

 しっかりとファンを獲得しているし、口数が少ないながらも、〈ミスプロ〉の中で強い存在感を放っている。


〈サバンナ〉の配信、しっかり観ているわけではないんだけど、大人数コラボの時、先輩に厳しい突っ込みを入れていた気がする。

 実際には、私やはくあちゃんよりもベテラン。

 だから、かなで呼びなんて失礼かもしれない。


 VTuber業界、年下でも先輩。

 当たり前にあり得る話だった。


「かなで先輩が、どうしてこんなところに?」

「それは、今回リリベルさんのお手伝いで呼ばれました」

「そうだったんだ……」


 先の説明の通り、かなで先輩はリリベル先輩の同期。

 私たちと同じで三人同時にデビュー。その中の二人。

 所属グループ、種族は違うけど、意外な組み合わせでもない。


「それと黒星さん、私のことは呼び捨てでも大丈夫です。まだ、未成年ですし」

「そう言われても」


 う……、言ったそばから……。


「なんかむずがゆいんです。リアルで先輩呼びされるの。お願いします」

「なら、蛇ヶ崎かなでちゃん、でいいかな?」

「はい」


 一度だけど、しっかりと顔を上下に動かした。


 振り出しに戻った。普通に『かなでちゃん』呼びで固定かな。

 なお、こっちも『黒星さん』って呼ばれるの、やや違和感を覚えるんだけどね。

 呼び捨てでいいんだよ。私なんて。


 年の離れた人(3つだけど)と気楽に話すことができるのも、ネット社会のメリットだね。

 そして、〈ミスプロ〉では種族の違う人とも。

 獣人と何度も話すようになるなんて、数年前の私には想像ができなかっただろうね。


 そのまま、私、狐守はくあ、蛇ヶ崎かなで(先輩)の三人は研究所の職員と合流。

 前回と同じく、とある建物を経由して、エレベーターで地下へと潜っていく。

 はくあちゃんは初めて。

 かなでちゃんはリリベル先輩と同期だから、何度も来たことがあるらしい。


 徒歩、エレベーター、その移動の間の会話で、二人がここに来た理由、そして、コラボの詳細も判明した。


 今回のコラボは、リリベル先輩が私に料理を振る舞ってくれるわけだけど、かなでちゃんはそのお手伝い要員。

 かなでちゃんも実は料理上手。

 高校生にもかかわらず一人暮らし。自炊はお手の物とのこと。

(と非公式ウィキに載っていました)


 はくあちゃんは私と同じく実食側。

 向こうがペアを組むなら、こっちにもペアがいた方がいいということで、かなでちゃん経由でお呼びがかかったらしい。

 はくあちゃん、教えてくれたら良かったのに……。

 知らなかった。


 ということで、先輩たちが後輩をもてなしてくれる今回のコラボ。

 面白い配信、お笑いの配信、にはならないかもしれないけど、こういったのほほんとした企画も悪くないと思う。

 取れ高も大事だけど、私は推しがのんびり楽しんでいる配信の方が好きかな。

 アリス先輩のなんでもない雑談が、私は特に好きだったんだよね。


「黒星さんって、すごくゲームが上手いですよね」

「そ、そうかな?」


 地下に潜る、エレベーターの中での会話。

 植物園が見えるまでの真っ暗なコンクリートは、見所が全くない。


「切り抜きを見て感動しました。アドバイスをいただきたいです」

「私、上手く教えられるかな……。あはは……」


 ショート動画を出したかいもあり、ゲーム上手の認知度は意外と広まっているらしい。

 無駄になってなくて本当に良かった。

 そして、後輩オーラ全開のキャラ。

 それは人気が出るよね……。


『先輩って、ゲームが上手いですね!』


 なんて、こんな声も見た目も可愛い年下の女の子に褒められたり、あるいは頼られたりしたら、私が男性ならコロッと落ちちゃう気がするな。


 ちなみに、はくあちゃんが嫉妬しているのが、視界の片隅に見えた。

 はくあちゃんに頼られても……。

 それに私の一つ上(21)、お姉さんだし……。


 平和な日常。ミスメンとのオフの時間。

 日常でも配信でも、何も起こらないと思っていた。


 しかし――。


 エレベーターは黒いコンクリートの壁を抜け、透明な強化ガラスの筒へと切り替わった直後だった。



 大きな爆発音。


「え!?」


 同時に強い衝撃。

 ガラス越しでも分かる、猛烈な強風。

 その風によって、魔力にも似た異世界の力の根源が流れ込んでくる。


「な、なんですか」


 かなでちゃんと職員が慌てる中、私は杖を、はくあちゃんは刀を取り出し、爆風が来た、黒い煙が立ち上る方角へと構える。


「ステラさん!」

「はくあちゃん!」


 何者かの襲撃。

 人工太陽が赤く点滅を繰り返し、研究所内には警報が鳴り響いていた。

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