第6話 先輩コラボ再び?

 今、私は、他人に裸を見られている。


 裸の付き合い――


 とは少し意味が違った……。

 リリベル先輩に上半身をひん剥かれ、下半身も布一枚にされ、体の至る所を、あらゆる角度から見られていた。


「傷が全くないのね。あと肌がきれい~。それに筋肉がほとんど付いていない。あれ~?」


 リリベル先輩は首をかしげていた。

 予想とは全く違った体つきを、私がしていたからだと思う。


 大体、予想はできる。


 心臓の辺りには大きな貫きの形跡があるはずだし、私は戦闘能力が高いと認識されているはずなので、身体には戦いの傷跡や、かつそれなりの筋肉があると思われていたらしい。


 答え合わせをすると、心臓の跡は、魔族に傷つけられた証を残すなんて絶対に嫌なので、無理矢理に消したし、体つきは【魔法障壁】+【強化魔法】を常時使っているので、自然体は普通の女の子とそんなに変わらないと思う。


 というか、魔族に傷付けられるほど、私はやわじゃない!


「リリベル先輩……? 何度見ても、何もないですよ! あとペタペタと触らないでください。恥ずかしいんですから……」

(ついでにくすぐったい……)

「あら、ごめんね。でも、もう少しだけ~」


 獣人のはくあちゃんの方が適度に筋肉があるし、すごく健康美なので、抱きしめるならそっちがおすすめですよ。


「あとは血液検査も。念のためだからね!」

「あ、はい……」


 さらに数十分後には、魔法版CT検査なるものも私は受けていた。

 過保護な気もするけど……、私は素直に従っていた。


 なんだかんだ言って今回、魔女の先輩方には、余計な迷惑をかけてしまった気がする。

 暁月アリス先輩には常に心配をされ、天上ホムラ先輩にはここへと案内され、円樹リリベル先輩には今、身体を看てもらっている。

 一人の後輩に対して、〈ウィッチライブ〉の先輩の大半が動いてくれている。

 さすがにこれ以上、断るのは失礼だと、この私でも分かる。


 きっとこれも〈ミスプロ〉の強さだ。


 VTuberは原則個人事業主だけど、一人の活動には限界がある。

 ましてや、誹謗中傷が絶えない世界。一人で戦い続けるのはとてもしんどい。

 私は、個人で活動している配信者は本当に尊敬している。


 そして、事務所やメンバーのサポートは、その箱の強さにもつながってくる。

 VTuberの引退、事務所の消滅と連動していることも少なくないし、トラブルも事務所が発端となっている場合もある。

 事務所と配信者、企業勢だったら、どちらが欠けても、長く活動は続けられない。


 きっと〈ミスプロ〉も、今まで数多の問題を抱えてきたはず。

 しかし、それを乗り越えてきている。

〈ミスプロ〉以外の事務所――。

 私が異世界人なのもあるけど、考えられないかな……。


「なに、ニヤついているの~? 注射が好きな人だったかしら?」

「いいえ! な、何でもないです!」


 今の私は裸でニヤニヤしている不審者だったらしい。


 ちなみに注射は大嫌いです!

 痛いのには耐性があるけど、子供の頃に蜂に刺されたトラウマが少しだけ……。


「次に空いている日、いつか教えてくれないかしら?」

「あっ、はい。最近は配信スケジュールを出さなくなったので、基本はいつでも空いています。案件やコラボも、入っていないので……」


 前までは、律儀に配信スケジュールを出していたんだけど、アリス先輩の件以降、すっかりとやめてしまっていた。


 一週間の配信スケジュールの提示は、リスナーにとってメリットしかない。

 しかし、配信者にとっては逆に負担が大きい。

 急なリスケ(※リスケジュール)がしにくくなるというデメリットがつきまとう。


 元々、配信予定だったのが中止に。

 プラスからマイナスへの変更は、そのまま評価へと表れる。

 だったら、初めからフラットにしておいて、プラスにした方が配信者、リスナー共に、満足感を得ることができる。


 私はもう、新人だと甘えていられない。

 配信スケジュールも含めて、自分なりの配信スタイルを確立していくフェイズに、私は突入しているのだった。


 それはそうとして、検査って今日だけで終わりじゃないの?

 結果が出るのに、時間がかかるものでもあるのかな?


「なら三日後に、またここに来てちょうだい。そして、オフコラボもしましょうね!」

「はい、分かりました。……ってコラボっ!?」

「ええ、そうよ~。一度、ステラちゃんとコラボしてみたいと思っていたの! 料理で腕を振るっちゃおうかしら~」

「は、はあ……」


 リリベル先輩は料理が上手いことでも有名だ。

 どっかの外食企業とのコラボ(つまりは案件)もしていたかな。

 餌付けされているみたいで恥ずかしいけど、〈ミスプロ〉に入ったら、一度リリベル先輩の手料理は食べてみたかった。

 断る理由は特にない……。


「ステラちゃん、最近はゲームが上手いって、有名になっているそうじゃない?」

「あはは、そんなことないですよ」

「ゲームコラボも悪くないわね~」

「いえ、料理コラボの方がいいです!!!」

「そう?」


 二人で協力するゲームのコラボも鉄板だけど……、ここはやっぱり、リリベル先輩の料理一択でしょ!


「それにステラちゃんは、リアルもとんでもなくやばいって、ミスメン内でも噂になっているわよ」

「うっ、なんで……」


 ゲームの方は一般公開情報だから分かるけど、リアルの方はどこから漏れているんだろう……。

 気になる……。


「三日後、わたしの料理を是非食べにきてちょうだいね。コラボ中はわたしが全力でフォローするし、大船に乗ったつもりでいいわよ!」

「あ、はい、分かりました……。手料理楽しみにしています!」

「うふふ」


 うーん?

 最後に意味深な笑いをしたのは、気のせいだろうか……。


〈植物研究所デルタ〉での、円樹リリベル先輩との出会い。

 オフコラボの約束。

 私のアウトドアな一日は、夜の個人配信を除いて終わりを告げた。


       * * *


 1月中旬。

 あれから三日後のコラボの当日。

 山の手線内のとある建物の近くで、私は研究所の職員のことを待っていた。


 集合場所に指定されたのは、前回と同じ場所。

 つまり、今回も地下にある、〈植物研究所デルタ〉への入場が許可されている。

 そこには、リリベル先輩の配信部屋もあるからだ。


 リリベル先輩の配信は研究室で行われている。

 それはリスナーも周知の事実。

 もちろん、異世界関連のことは伏せられて。


 前に話題になっていたのは、リリベル先輩のパソコンのスペック。

 私は機械に疎いので上手く説明できないんだけど、箱庭ゲームをやっている際に表示されたパソコンのスペックが、かなり異次元だったらしい。

 スパコン(?)まではいかないけど、グラフィックボードの型番が明らかに一般向けじゃなく、しかもそれを搭載したパソコンが市販のゲーミングパソコンに比べて、お値段が一桁違っていたらしい。

 ネットのニュースに載るほど、かなり話題になっていた。


 そこからリリベル先輩の職業が判明。

 半ば釈明に追われていた。


 ちなみに、場所が場所だけに、寝泊まりも当然、研究室。

 改めて見ると、リリベル先輩はやっぱり異色の配信者だと言えた。


 というわけで、今回のオフコラボも研究室。

(正確には、その近くの調理室だと聞いている)

 私はそこに料理を食べにいくだけ。


 安心材料としては、アリス先輩の時みたいに、プロレスとか、無茶振りさせられる心配があまりないことかな。

 あるいはデビューから数ヶ月が経ち、少し配信者としての余裕も出てきたのかもしれない。


 そんなこんなで、料理に胸を弾ませ、集合場所でそわそわと待っていると――。


「あっ、やっと見つけたっ! ステラさん、こっちこっち!」

「え!?」


 私に近づく、一般人。

 個体数は2、種族は両者とも

 その内の一人は、私の顔見知りで、事務所の同期。


「はくあちゃん!? 何でこんな所に? それに隣の人は……」

「ステラさん、聞いていなかったの? 今日のコラボは私たち四人でするんだよ!」

「あ、ああ、そうだったんだ……」


 初耳です……。

 私宛のメッセージには、何も書いていませんでした。

 ただ、リリベル先輩が今朝立てた配信枠、その概要欄から、すでにリスナーの間ではメンバーが判明していたらしい。

 私も念入りにエゴサしていれば、ここまで驚かなかったかもしれない。


 そして、もう一人の方、私は初対面の先輩がいた。

 先ほど説明した通り、彼女は獣人だった。

 はくあちゃんと仲良く並んでいることから、〈サバンナ〉繋がりで、少なからず交流があるらしい。


 見た目から、どの先輩かも分かる。

〈ミスプロ〉のメンバーは、バーチャルとリアルが一致していることが多い。


 私より背が低めの、袖の先が垂れ下がった、サイズの合っていない制服を着た女の子が、丁寧に自己紹介をする。


「初めまして、黒星さん。蛇ヶ崎じゃがさきかなでと言います」


 私が直接交流をする獣人。

 その二人目は、ヘビがモデルのVTuber、【蛇ヶ崎かなで】ちゃんだった。

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