第二章前編

第1話 ステラリベンジ

 季節は冬、1月。


 私は【黒星くろぼしステラ】。

【ウィッチライブ】。

 あるいはグループ全体だと、

【ミスティックプロジェクト】所属のVTuber。


 配信の傾向は雑談、ゲーム実況、まれに歌枠。

 メジャーな所を抑えていると言えば聞こえはいいかもしれない。

 しかし、悪く言うと器用貧乏、ありきたりな配信者とも言えた。


 そんな特徴があまりないと思っていた私だけど、最近やや注目を浴び始めている。

 世間から見たら、どうやら私はゲームが上手いらしい。


『本当に!?』


 私、〈魔法世界〉からここ〈人間世界〉へとやって来て、まだ三年と少ししか経っていないんだけど。

 まあ道具、キーボードやゲームパッド(コントローラー)の使い方さえ覚えれば、滞在歴なんてハンデにはならないけど。

 ともかく、私は配信者という大きな括りの中でゲームが上手かった。


 この大きな特徴を利用しないわけにはいかない。

 すぐにVTuber、黒星ステラの初任給(最近やっと振り込まれた)を全て投入。

 事務所経由で動画編集者にショート動画を依頼。

 出来上がったものを、すぐに私のチャンネルに投稿。


 さらに、配信の内容もゲーム実況の割合を増やした。

 ここ最近は連日、ゲーム実況ばかり。


 少し前までは、歌枠とか、気が向いたら行っていたけど……。

 まあ、私の歌なんてファン以外、あまり興味ないよね……。

 同期の方がはるかに上手で有名だし……。


 それらの活動が実を結ぶかどうかは分からない。

 確実に実を結ぶのなら、今頃、みんな有名配信者になっている。

 だけど、やらないよりマシ。種は蒔かないと実らない。

 あとはどこかでバズってくれれば……。やっぱり厳しいかな?


 私は結果を焦っているところがあった。

 理由は色々とあるけど、一番はいつまで経っても新人ではいられない、というのが大きい。

 私は【ミスプロ】(※ミスティックプロジェクトの通称)に入って、約3ヶ月が過ぎようとしていた。


 デビューは去年の10月。

 色々とあって同期をボコしたのが、一ヶ月後の11月。

 憧れの先輩の問題を解決したのが12月。

 今はさらにそこから、一ヶ月後の新年に入っての1月である。


 次の〈ミスプロ〉のメンバー、後輩が入ってくるまで、私は新人でいられるのかもしれない。

 だけど、〈ミスプロ〉の中で、早く自分の立ち位置を確保したいというのが、現在の心境だった。


 先輩たちは、もれなく独自の立ち位置を確保している。

〈ミスプロ〉の中で歌が上手いとか、アクションゲーム、あるいはレトロゲームが得意とか。

 企画を主催するのは――、MCが上手いのは――、一つの問いに一人じゃなくても別にいい。

 何かの分野について話題に上がったとき、真っ先に名前の挙がる人物。


 同期も強い……。

狐守こもりはくあ】(白キツネ)は歌上手勢に入選しているし、【夜桜よざくらカレン】(吸血鬼)は深夜配信者として有名になっている。

 ほしいのだ私は、そういったチヤホヤ(?)される特徴を。

 私がどんな配信者であろうと、地道に頑張るしかない。

 結論はそこに帰着していた。


 幸運にも所属している箱(事務所)はでかい。

 業界大手の一角。メンバーが強すぎることを除いて、環境は最高に近かった。


 そこで活動を続けて、チャンネル登録者数を増やす。

 そして、いつか3Dの体を手に入れる。それが今の私の夢。

 3Dお披露目の時に先輩を――、【暁月あかつきアリス】先輩を誘って一緒に歌うんだ。

 そのために、私は少しでも立ち止まるわけにはいかなかった。


 黒星ステラの戦いはこれからだ!!!


       * * *


 固い決意から数時間後、私はグループの事務所に呼び出されていた。

 そして、とある偉い人物から、サプライズなプレゼントを私はもらっていた。


 「これがキミの新しい体だ!」

 「ええ……」


 私のでかいため息。

 目の前に置かれた、ノートパソコンの画面に映っていたのは、

 黒星ステラの『』。


 今、私が一番ほしい物、それはいきなり転がり込んでくるのだった。

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