第27話 魔女の正体

 LOCATION

【〈人間世界〉 某日午後4時30分】


       * * *


『面倒なことになった……』


 簡単に終わると思われていた任務に障害が起き、私はその対応に迫られることになった。


『私も落ちぶれたものだ……』


 三年前まで戦場で武勇を誇っていた老兵は、今や雇われの身。

 いわば何でも屋として、生計を立てる日々。

 魔族の誇りはこの数年で地へと落ちていた。


 戦争終結で得をした者はごく僅か。

 こと魔族に関しては、魔法使いと関わりがある者、魔法の学がある者が台頭していた。

 戦うことしか能のない者に、平和は不要だった。

 だから本件みたいな、『魔神の護送』と言う名の、魔法使いの小娘のお守りを命じられる。


 あいにく稼ぎは良い。

 障害が起きても最小限だと聞いている。

 私もそれなりの実力者だ。

 たかが襲撃の一つ、焦ることなどない。


 相手は三名。うち〈魔法使い〉が一名。

 依頼主から、もし敵が現れれば、加減しなくてもいいとの許しも得ている。

 しかしだ、大人げないことをするつもりはない。

 軽くあしらって終わらせるとするか。


 あと少し経てば、ゲート開通の予定時刻か。

〈魔法世界〉からのアクセスで、両世界がつながるはずだ。


【デモンズコール】


 魔方陣を展開。そこから女型おんながたのスライムを三体召喚する。

 色は赤、緑、青。

 名のある〈魔女〉を食わせて、能力を模したスライム。

 まず、負けることはない。


「行け」


 指示を出し、あとは放置。

 事が終わるまでの間、一服をする。

 その辺の店で買った小さな葉巻(タバコと言うらしい)に魔法で火を付ける。


「うっ、ごほっ……、ごほっ……」


 異世界の見慣れぬ物を買うべきではなかった。

 この世界でよく吸われている葉巻だと聞き、コンビニという所で買ってみたのだが……。

 口に合わない。

 あるいは安物だからか。


 どの程度、進んだかな。

 私はスライムたちの首尾を確認する。

 相手を殺していなければ……、それでいい。


 しかし、嫌々ながらも吸っていた小さな葉巻を、私は口から落とすことになる。

 スライム達の気配が消えていた。

 たった今、目の前で、それも三体ともだ。


『そんな馬鹿なっ!!!』


 スライムたちに食わせていたのは、そんじょそこらの魔法使いではない。

 魔女と呼ばれている、実力者たちだぞ!

 それもとっておきのやつを食わせた。

 完全に能力を模倣できないまでも、実力に不足はないはず……。


 相手を完全に見くびっていた。

 たかが小娘のお守りだと思い、油断していた。

 紛れもなく今、私は敵に襲撃されている。

 それもかなりの実力者に……。


 私は襲撃者たちの戦力を分析するために、その姿を再度確認する。

 任務を絶対に成功させるために。

 そして、万が一にも、己が殺されないために。


 三人の中で同世界出身、いわば同類とも言える、黒髪の魔法使いが特に危険だ。

 スライム三体の内、二体を仕留めていた。

 あまりにも早すぎて、仕留める瞬間を確認できなかった。

 スライム二体が断末魔を上げる中、彼女は涼しい顔をしていた。


 相手は一体、何者だ!?

 位は間違いなく、〈魔女〉……。

 魔女を模したスライムが負けていることから、間違いない!

 なんでこんな化け物が、辺境の世界でのうのうと暮らしている!?


 黒いローブに黒い大きな杖。

 魔法で作り出したレプリカではあるが、機能は十分に備えている。

 その姿、その魔力……。

 どこかで覚えがある。


 私の視線に気づき、振り向いたその顔。

 停戦最後まで戦場にいた私は、一度だけ彼女とまみえたことがある……。


「そうか、……」


 体が興奮で震える。

 武者震い……。

 いや、これは……。

 スライムたちがやられた理由、やっと私は納得がいった。


 彼女は――、


〈魔法世界〉が唯一、捕らえることができなかった、『』なのだから。

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