第26話 決戦

〈厄災の魔神〉の移送。

 それが目的のゲートの開通は、本日行われる。

 奇しくもそれは、私がこの世界に来た日と同じクリスマス。

 ちょうど、三年前の出来事であった。


 今回の異世界への接続は極秘裏に行われる。

〈魔法世界〉にとっては最重要案件。

 絶対に失敗は許されない。

 この世界の人々がうつつを抜かしている間に、ひっそりと行われようとしていた。


 場所は、都心のビル、屋上のヘリポート。

 接続予定時刻は日の入りの午後4時半過ぎ。

 今から私たちはそこへ、殴り込みをかける。


 もちろん策はある。

 止める手段も今日までに用意した。


 私ならきっとやれる……。

 いや、絶対に成功させる。

 こっちも失敗は許されないのだから……。


 念入りに支度を調え、外へと出ると、二人の人物に出迎えられた。

 同期の夜桜カレンと狐守はくあ。

 二人ともアリス先輩の引退を止めたくて、同行することになった。


 あるいは私一人では心配らしい。

 何度も付き添いは不要だと言ったのに……。

 夜桜カレンにとっては、完全に労働時間外。

 私の前で隠してはいるが、少し眠たそうにしていた。


「二人とも、足手まといにはならないでね」


 私の台詞を聞いた二人は、呆れた様子で頷いて見せた。


 何だろうこの敗北感……。

 実力的には私が一番上のはずなのに、最大の不安要素みたいな顔をされている。

 くそー……。


「それじゃ、行くよ!」


 私たち三人は決戦の地へと赴く。


       * * *


 数十分後、現地へと到着。

 ゲートの準備は、ほぼ完了していた。

 日の入りを待てば、じきに開通するだろう。


 ヘリポートの着陸地点、ちょうどHマークの横線と重なるように、一時的な小さな門が作られていた。

 数人が通れるだけの門。規模としては十分だ。

 それに、大きな門はその規模と比例して、不安定さが増す。

 今回の相手の任務を考えれば、理にかなった大きさだった。


 また、そういった理屈を抜きにしても、すごく安定していた。

 これがなゲート。

 通常だと、このような形で異世界への接続が行われる。


 同期二人はもちろん経験済み。

 私だけが、安定したゲートを通過したことがなかった。


 その小さくて安定したゲート。〈人間世界〉側はすでに準備が完了しているからか、近くに管理者はいなかった。

 まあ、遠くから見られてはいるが、こちらが作戦を実行に移せば、手出しはできないようにするので問題はない。

 だから、〈人間世界〉側の人物から、大きな邪魔はされないとみてよかった。


 邪魔をしてくるのはこっちの――、〈魔法世界〉側の人物。

 護送役はたったの一人。

〉の老人の男性だけだった。


 貴族階級を思わせる、上質そうな茶色のコート。

 頭の左右には、魔族特有の黒い角。

 その角は、所々が傷つき欠けている。


 目つきは一見、優しそうで気さくな雰囲気。

 ……だけど、だまされてはいけない。

 戦いになれば、容赦なく牙をむくだろう。

 私の第一印象は、かなり手練れのおじさんだった。


 魔族は、私が三年前まで戦っていた種族。

 姿、あるいは気配を感じただけで殺気を放ってしまうのは、私の昔からの悪い癖。

 ただ、邪魔者ではあるが、倒すべき人物ではない。

 今回は……、不本意ながら、交渉の相手の一人だった。


 以上のことを踏まえると、ゲートのそばいるのは二人。

 アリス先輩と魔族の老人。

 実質、敵は一人。対するこちらは三人。

 私たちはゲートに近づき、アリス先輩と魔族の老人はこちらを振り向いた。


 正確には、魔族の老人には、少し前から気付かれていた。

 私たちはアリス先輩の見送り。

 あるいは、向こうの任務の障害として認識されていた。


「ステラちゃん!? それに同期の二人も!?」

「アリス先輩……、助けに来ました」

「そんな……っ!?」


 先輩は言葉を失っていた。

 私たちがここにやって来るなんて、一ミリも思っていなかっただろう。


〈魔神〉の返還、それを止めるのは限りなく不可能に近い。

 私も、無謀なことをしようとしているのは、十分に承知している。


 でも、私はここに来た!

 どんな手を使ってでも、先輩の引退を止めると決めたのだから。


「先輩に何と言われたとしても……、たとえ嫌われたとしても……」


 これは私の本当の気持ち。

 心に迷いは一切なかった。


「絶対に、私は先輩のことを助けて見せます!!!」


 行くよ、ステラ

 きっと私ならできるから。


「アリス先輩、私を信じて、少しだけ待っていてください!」


 先輩のそばにいた、魔族の老人が深いため息を付いた。


 別に魔族の老人に恨みはないけど……。

 いや、私は魔族のことはだから、恨みしかない……。

 仕方ないけど、憎悪の武力で交渉させてもらうよ。


 魔女の私と魔族の老人は、お互いに戦闘態勢へと入った。

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