第21話 衝撃

 放送事故という先輩コラボから三日後。

 私は自分の部屋で何もせず、ほげーと無駄に時間を過ごしていた。


 心の傷はだいぶ癒えたと思う。

 そもそも私はそんなにやわじゃない。

 コラボの失敗の一回でずっと凹んでいたら、VTuberなんて、とてもじゃないけどやってはいけない。


 いつも以上にアンチからの攻撃も激しい。

 昔に比べて、配信者への誹謗中傷は減り。私たちを取り巻く環境は少しずつ良くなってはいる。

 だけど、人のが完全に消えることはない。


 まあ、私が前の世界で受けた仕打ちに比べれば可愛いもの。

 逆思い出補正。あれ以上の悪意、いや憎悪はない……。


 それにも関わらず、回復までにかなりの時間がかかっている。

 三日経っても、配信したいと思う気持ちになれないのはやばかった。

 あるいは、誹謗中傷や批判、あまり関係ないのかもしれない。

 自分の実力不足。私自身に原因があるのが大きいのかもしれない。


 あとは同期が次の日に、先輩とのコラボを成功させていたのもある。

 この辺が黒星ステラが二人に比べて、チャンネル登録者数が低い原因だったりするのかな。


 コラボ中の私の発言も良くなかった。

 良くなかったけど、一番は先輩との同居経験を、私自らがばらしてしまったこと。

 話題に困り、ぽろっと口に出してしまったのだ。


 今まで先輩の同居相手、『見習い魔女ちゃん』の正体は不明になっていたけど、それが黒星ステラだと判明。

 結果、私が〈ミスプロ〉のオーディションに受かったのは先輩からの推薦、つまりコネ入社ではないかという疑惑が生まれている。

 言いがかりレベルではあるけど、自らアンチに攻撃の材料を与えてしまっていた。


 それに……。


 私がはくあちゃんと初めて出会ったとき、彼女はこう言っていた。


『――魔女の女の子が見つかったのに』

『――やっと私、VTuberデビューできたのに』


 そのことから、私が最後のオーディション合格者だと思われる。

 異世界人の数合わせ。その線も考えられた。


 つまり私は、その疑惑を完全に否定できないでいた。

 実力不足は、私が一番良く分かっている。

 オーディションに受かったのは、不自然だったのかも。

 何も言ってくれないだけで、もしかしたらアリス先輩が――、その可能性を拭いきれないのだ。


「うっ……」


 考え出したらまた凹んできた。

 今回は本当にやばかった……。


 私は早く気持ちを回復させようと、他のミスメンの配信を探してみる。


 最近は視聴を楽しむというよりも、先輩たちが日頃、どうやって面白い配信を生み出しているのか、観察してしまっている自分がいる。

 完全に職業病。VTuber本来の配信を楽しめてはいなかった。

 だから、今日ぐらいは昔に戻り、ミスメンの配信を思う存分楽しもうと思う。


〈ミスプロ〉の公式サイトから、先輩たちの配信予定を確認する。

 その中に、暁月アリス先輩の名前を見つけた。


「先輩……、今日は何の配信をするんだろう」


 その配信内容は――。


『暁月アリスから皆さんへ大切なお知らせ』


「ん?」


 タイトルから、内容が分からない。

 概要欄にも特に説明はなし。

 そもそもサムネが白背景に黒文字のみ……。


 私はすごく嫌な予感がしていた。

 それは、数日前にアリス先輩と出会ったときに感じたもの。

 数時間後、先輩の配信を観た私は言葉を失っていた。


、〈!』


「えっ……」


 え、え、えっ!? 何で……!?


 今日、VTuber業界に衝撃が走った。

〈ミスプロ〉の〈暁月アリス〉の退


 それは一つの歴史の終わり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る