第20話 憧れと理解
事務所で、アリス先輩と再開した次の日。
私はコラボ配信の準備をしていた。
と言っても、私たちが準備することはあまりなかったりする。
コラボをするにあたって選んだ配信の内容は、ライトな対戦ゲームもの。
様々なミニゲームで対戦しつつ雑談を交え、最終的にトータルの成績を競う形。
だから、ゲームがきちんと起動するか、確認するぐらいかな?
〈ミスプロ〉の今期の新人の先輩コラボ解禁。
その一番手は、私、黒星ステラが務めることになった。
偶然にはなるんだけど、はくあちゃんとカレンちゃんも同グループの先輩、つまり出身の世界が同じ人物とのコラボを予定していた。
どうやら、私とアリス先輩のコラボの次の日に行われるらしい。
『あのステラが最初かよ!』
というネットの意見も見かけたけど……。
まあ、いつものことなのでスルーしておく。
急遽決まったコラボ配信。
それにも関わらず、私たちのコラボ配信はかなり注目を集めていた。
これは〈ミスプロ〉のメンバー、〈ミスメン〉同士だから、という理由だけとは限らない。
VTuber、あるいは配信者同士のコラボはいつもと違った展開、予想外の化学反応を期待しているリスナーが多い。
今回は白と黒、光と闇の魔女の初めての邂逅。
コラボ相手が有名なことも、それに拍車をかけていた。
というわけで、
私の今回のコラボ相手の紹介――。
【
長い銀髪が特徴の大人気VTuber。
チャンネル登録者数は80万人を超えている。
ガワのモデルは聖女。
あるいは大作RPGで例えると白魔道士。
一目見て、ヒーラー的な位置づけだと分かるキャラクターをしていた。
設定も例に漏れず、澄んだ『声』で人々を癒やす、回復魔法が得意と、公式のプロフィールには載っている。
破壊を好む黒の魔女とは大違い。
暁月アリスの正反対の存在としてデビューしたのが、黒星ステラだったりする。
運営側もコンビで売っていこうと考えているようで、そういうプロモーション展開を、何となく私は感じ取っていた。
配信内容は、最近はゲームが多い。
歌枠はごくまれにやっていたりする……。
最初は歌や朗読だったり、ASMRだったり、設定通り『声』を全面に押し出していたはずなんだけど……。
まあ、色々とあるよね……。長く活動していると……。
その声質は可愛い寄り。アニメキャラの声に近いかも。
最近は様々なシチュエーションのショート動画を上げている。
こっちは『声』の設定が生かされている。
声優的な方面と親和性は高いと思う。
〈サバンナ〉など、奇抜的なメンバーが多い〈ミスプロ〉の中で、暁月アリスは大きく目立つ存在ではない。
しかし、〈ミスプロ〉メンバーの全員に親しまれている。
間違いなくアリス先輩は、〈ミスプロ〉の大黒柱。
彼女がいないと〈ミスプロ〉や、〈ウィッチライブ〉は回らなかった。
あと、これはあまりコラボとは関係ないかもしれないけど……、キャラクターの見た目とリアルの容姿、アリス先輩もあまり変化がない。
ここまでくるともう、まだ会ったことがない他の先輩も、近い姿をしているんだろうな……、と嫌でも分かってしまう。
あんまり異世界人であることを隠さない秘密組織(※アイドル事務所)。
そういうことにしておこう。
とにかく憧れの先輩とのコラボ、失敗はできなかった。
私の目標としている人物。
この世界での命の恩人。
アリス先輩に憧れて、私はこの世界に入ったのだ。
私はまだ、何も為せていない。
そういった想いが、焦りが、のちの失敗を招いたのかもしれない。
* * *
結論から言うと――。
アリス先輩とのコラボは『失敗』に終わった――。
それも、放送事故レベルの。
私は今、布団の中で泣いている。頭はまだ混乱している。
コラボの内容を思い出そうにも、断片的にしか思い出せない。
それも全て事故を起こしたシーンばかり。
きっと未来永劫忘れようとして、でも、ふとした瞬間に思い出してしまうのが容易に想像できた。
現在、コラボが終了してから数時間が経っていた。
つまり、今から語るのはその数時間前の出来事、前日譚である。
事の発端は機材トラブルから。
いつもは使えていた、パソコンの配信ソフトが上手く動かなかった。
その時点で、私の頭は真っ白になっていた。
あれさえなければ、ここまでの事故にまだならなかったのかも……。
結果、アリス先輩の助けもあり、何とか直ったものの、配信開始時間は三十分も押した。
トラブルが起きても、普段通りの配信ができればよかった。
しかし、それができないのが私だった。
そのあとも、ひどいものだった。
先輩のボケに突っ込みを入れることができなかったり、空気がギクシャクして会話が空回りしたり、最終的には先にオチを潰したり……。
私はアリス先輩に憧れていたけど、コラボの相手となると、その意図を汲み取ることができなかった。
とある漫画の、
『憧れは理解から遠い感情――』
よくできた言葉(台詞)である。
もちろん、リアルで面識があるとはいえ、初めてのコラボ。
多少、上手くいかないのは当然で、お互いの距離の探り合いから始まる。
そういう初々しさは初コラボでしか観ることができない。
それはまた、別の需要があった。
あとは、相性の問題もある。
どうしても当人同士、波長の合う、合わないがある。
実際にコラボが苦手で、ソロ配信がメインの先輩もいる。
私は少しだけ……、配信内での暁月アリスが苦手だったのかもしれない……。
ただ、そういった長い言い訳を込みにしても酷かった。
全ては以下の言葉で片付けることができるから。
『黒星ステラは面白くない』
――と。
私は途中から何も話せなくなり、泣き声が配信にも乗り、最後はミュートにする始末。
配信の後半は、先輩が一人で話して間を持たせている中、私は淡々とゲームを進めていた気がする。
最後に選んだミニゲームの決着が長かったのも、事故に拍車をかけた。
かろうじて先輩の進行で締めに入り、形にすらなっていない終わりの挨拶をして、私はすぐに配信を切った。
それと同時に配信(アーカイブ)は非公開に。
私は最後の力を振り絞って、SNSでファンに向けて、配信を観てくれたことへのお礼。
そして、ベッドで横になって今に至る。
「うっ…………」
戦闘が得意な私でも、配信の方はまるっきりダメだった。
求められる分野が違うことは、分かってはいるんだけど……。
薄々気づいていたことを、私は口にする。
「私、向いていないのかな……」
濡れた布団の中で、私は眠りについた。
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