第6話 ライン超え

 終わった――。

 私の人生はあっけなく幕を閉じた。


 吸血鬼の女の子に血を吸われ、さらわれたかと思えば、突然現れた獣人の女の子に、吸血鬼だと間違われて首をはねられる。

 VTuberデビューしてから一ヶ月、私は普通に活動していただけなのに……。


『なんてね』


 こんなことで人生が終わるんだったら、私はとっくの昔に死んでいる。


 不意打ちは嫌いではない。

 卑怯という意見もあるけど、私は正当な戦術だと思っている。

 もしそれで格上の相手に勝てるんだったら、絶対に実行するべき。

 勝つためなら何でもする。その考え、私は嫌いではない。


 だからこそ、こうとも言える。



 と――。


 状況によっては、格下が格上に勝つ最後のチャンス。

 失敗した時点で格下側に勝ち目はない。

 今の一撃で私を仕留められなかった。

 勝負はすでについていた。


「えっ……!?」


 私を襲ってきた白狐の女の子は言葉を失っている。

 彼女の放った刀は、私の首の皮、そのミリ手前でガタガタと小刻みに震えている。

 魔法の障壁を張っていたから。

 私の障壁は、半端な力では打ち破ることはできない。


 獣人の彼女の一撃、早く重たい。威力は十分だった。

 だけど、相手が悪い。


「ライン超えは良くないよ」


 私は今、どんな顔をしているのだろうか。

 不適に笑っていたりするのだろうか。


『なるほど、そういうこと……』


 全てがつながったわけではなかった。まだ、違和感は少し残っている。

 だけど、一部は解決した。カレンちゃんの貧血の原因、おそらく彼女。


 吸血鬼はかなり強いと聞いている。

 弱点はあるものの、再生能力は非常に高く、不老不死の肩書きに偽りはない。

 そんな強敵を仕留めようと思ったら、血を絶つのが一つの有効手段と言える。

 吸血鬼の力の源、血を絶ち、弱ったところを全力で叩く。それが今日。


「そんな、なんで……」

「覚悟はできているよね?」

「ひっ……」


 私は左足に重心を置き、右足を地面から離す。

 その重心を右足に移動。その際、魔力の付与も忘れない。

 そして私は、目の前の敵に対して、右足で強い蹴りを放った。


 彼女の体は、向かい側のマンションの壁へとぶち当たり、その衝撃で破片の一部が崩れ落ちた。

 女の子だから体重は軽いけど、それでも40キロくらいはある。

 物体の速度は出て、それに比例して、衝撃もそれなりのものになったはず。


 しかし……、相手はしっかりと受け身を取っていた。

 獣人の基本的な特徴の一つ、尻尾を上手く使いバランスを取っている。

 さらに、自慢の脚力を生かし、マンションの壁面を上り、上空へと逃げようとしている。

 もちろん、逃すつもりはない。


【クレアーティオ】


 私は魔法使いの杖を、この世界に創造する。

 長さが1メートル以上もある、黒い木の杖で、先端には青い魔法石が埋め込まれている。

 私は杖をしっかりと握りしめ、魔法の箒のように飛ばし、素早く空中を移動してみせた。


 獣人の彼女と魔女の私、出会った場所から向かい側のマンションの屋上に、ほぼ同時に着地する。

 さすがに逃走は不可能だと察したのか、向こうは臨戦態勢をとっていた。

 表情から、焦りの色も見て取れた。


「戦うしか、ないみたいですね……」

「そうだね」


 ちょうどいい機会だった。

 最近、配信ばかりしていて、すっかり体がなまっていたところ。


「はじめようか」


 私は静かに言い放つ。


「魔女に弓を引いたこと、後悔させてあげる」

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