第4話 同業者

 意識が戻ると、私は吸血鬼の女の子の部屋で横になっていた。

 不良たちにお持ち帰りされそうになっていた女の子を助けたら、その女の子にお持ち帰りされていた。

 どうしてこうなった……。


 半覚醒状態だけど、意思の舵はしっかりと回復している。

 吸血鬼の魅了の能力も解けている。

 特に拘束はなし。外傷も首筋以外になし。普通に目覚めた感じかな。

 いい具合に採血されたので、倦怠感は少し残っているけど。


「おはよう、気分はどう?」

「あんまり、良くないです……」


 彼女に声をかけられ、私は赤いシーツのかかったベッドの上で、ゆっくりと体を起こす。

 ただでさえ収録で疲れていたというのに、次に吸血したら

 拘束がないことから、彼女は私に危害を加えるつもりはないらしい。

 殺意も悪意も、今のところは感じられなかった。


 となると……、お腹が空いていただけかな? 貧血って言っていたし。

 一般人の血を吸うと、色々と問題になりそう。

 だから、異世界人である私の血を吸ったのだろう。はた迷惑。


 少し休ませてもらってから帰ろう(そもそもの原因は向こうだけど)。

 今、何時だろう……。

 収録が終わったら配信するって、前もってファンに言っていたんだよね。

 リスケ(※リスケジュール)も考えないといけないかな。


 私は時計を探すために、彼女の部屋を見渡す。

 赤を基調とした広くておしゃれな部屋。服装と同じでセンスが良いことが分かる。

 窓からは、大きく夜空が見える。

 遮る物がないタワーマンションの上層。すごく家賃が高そう(いや、実際に高いか)。


 ここまでだったら、普通の人の感想かも?

 さらに私はこの部屋に対して、大いに興味を持つことになる。

 そして、吸血鬼の彼女に対しても……。


 最初に私の目を引いたのは、部屋に置いてあるパソコンだった。

 ノートパソコンではなく、大きな箱形のデスクトップパソコン。

 一般的なゲーム機よりもさらに大きく、世間ではゲーミングパソコンと呼ばれている。


 そのパソコンとケーブルでつながっている先、モニターはなんと二枚。

 デュアルディスプレイ!

 さらにデスクには、コンデンサーマイクとウェブカメラが備え付けられている。

 ここまでくると、彼女がパソコンで何をしているのかが、ほぼ分かる。


 つまり。私と同じで、彼女は配信者をしている。

 ほかにもゲーミングマウスやキーボード、配信者がよく使うオーディオインターフェイス、椅子はゲーミングチェア。

 部屋を見渡せば見渡すほど、彼女が配信者である確たる証拠が増えていった。


 しかも、配信環境は彼女の部屋の方が上。

 壁紙をよく見ると、吸音パネルまで張ってある。結構ガチじゃん!

 私もこんなおしゃれで実用的な部屋に住みたいいい。

 なんかイライラしてきた。


「珍しかったかな?」


 じっくりと観察していたのがばれたのだろう。

 彼女は自慢げに尋ねてくる。


「はい。おしゃれな上に配信者もしているんですね」

「驚いた?」

「少しだけ」


 急に親近感がわいてきた。

 ズカズカと質問攻めを決行。

 人見知りの私は過去へと置いていく。


「普段、どんな配信をしているんですか?」

「深夜にゲームや雑談かなー」

「いいですね!」


 一応、鉄板ではある。吸血鬼だから深夜帯をメインに活動しているのだろう。

 私の知り合いにもそんな人が……。あれ?


「その容姿だと、結構人気があるんじゃないんですか?」

「そうでもないよ。顔は出していないからね」

「ええー?」

「Vの方だから」

「なるほど」


 私と同じVの方でしたか。さらに親近感がアップ。


 よくよく考えると、異世界人がネットに顔を晒すのは、ちょっとリスクが高いかも? 身バレすると危なそうだし。

 そうなると、顔を出さなくてもいいVTuberは安全かも。

 万が一、やばいことを口にしても、フィクションで済むし。

 というか私がそうだし……。


 容姿が良いだけに、少しもったいない気もする。

 配信の腕は分からないけど、コメント捌きが上手かったら、容姿と合わせてすごく人気が出そう。

 ガチ恋勢も量産できる。しかも、かなり濃そうな人が。


 ちなみにだけど、私は憧れの人がVだったから、同じ道を選んだ感じ。

 配信が好きなのも、その人の影響かな……。

 私が、リアル容姿に自信がないのは言うまでもない。

『声だけは可愛い』と、今でも言われ続けてはいるけどね……(あの、配信は?)。


 というか彼女の声、どこかで……。

 実は配信、見たことがあるかも。


「どのぐらい活動しているんですか?」

「んー? 4年ぐらいかな」

「長いですね」


 すごく大先輩でした。

 別に特定したいわけではないけど、長く活動を続けているVTuberは、全体を見れば意外と多いんだよね。

(やめるVTuberも、相応に多いけど……)


「でも、前のキャラは卒業して、新しいキャラでデビューしたばかりかな」

「ほえー」


 なんか色々とあって、転生しているらしい。

 気にはなるけど聞いたら失礼かな。


「なんで転生したんですか……? 活動が上手くいっていなかったとか……」


(でも、結局は聞く。少し知りたいし……)


「大きな事務所に受かったからかなー。そこからデビューできたし」

「ほえぇぇ?」


 がっつり特定できそうな情報がきた。そこまで晒してもいいのかな?

 少し心配になってくる。まあ、私はばらさないけど。


 最近のVTuber事務所のオーディションは倍率が高く、配信実績があった方が選考が有利に働く。

 彼女は長い実績があったからこそ、大手に受かったのかもしれない。


 というか、あれ!? 微妙にデジャブが……。

 ここ最近の、この業界での大きな所からのデビューって、どこがあったっけ……?


 この世界には、とあることわざがある。


『好奇心は猫を殺す』


 ――という。


「あ、新しく、デビューしてから、どのぐらいですか……?」

「ちょうど、一ヶ月かな~」

「ほ、えっ……」


 私はやってしまったかもしれない。

 でもここまできたら、もう後戻りはできない。


「リアルと同じで、吸血鬼のVをしている……、とか?」

「うん。なんで分かったの?」

「ああ、あああ……」


 間違いない。私はそのVTuberをよく知っている。

 むしろ、知らないわけがない! 連絡先まで知っている。しっかりとスマホに入っている。

 メッセージの文面とリアルの口調が、全く一緒だ。


 どこで気づくべきだった? 声? いや、この部屋?

 この展開は誰かに仕組まれていた?


「あ、特定されちゃったか」


 はい、しましたとも。


 彼女は一ヶ月前に、私と一緒にデビューした同期。

〈ミスプロ〉の中の【アンダーグラウンド】所属、【夜桜よざくらカレン】。

 その中の人である。

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