第2話 魔女

黒星くろぼしステラ】のデビュー配信から一ヶ月後。

 私は都内の収録スタジオを出て、帰宅の途についていた。


 今日は事務所の公式チャンネルの収録だった。

 新人の売り出し期間はまだ続いている。


 秋の終わりの11月。

 外は肌寒さの方が勝るようになっていた。

 もう少しすれば、私はここで四回目の冬を迎える。

 私がに来て、もうすぐ三年が経とうとしていた。


 私はこの世界、【人間世界】の住民ではなかった。

 、【魔法世界】という所の出身の魔女。

 いわゆる、『異世界人』ということになる。


 そして、一ヶ月前に私はVTuberデビュー。

 所属はあの有名な【ミスプロ】の中のグループの一つ、【ウィッチライブ】。

 私は数ヶ月前に〈ミスプロ〉のオーディションに合格して、今ここにいる。


 大手バーチャルYouTuberグループ【ミスティックプロジェクト】。

 通称〈ミスプロ〉。

 メンバーの全員が女の子。

 所属するアイドルは二十人を超え、その全員が一定の人気を博している。


〈ミスプロ〉に所属するVTuberの設定は種々様々しゅじゅさまざま

 天使に悪魔、魔女に魔族……、動物がモデルのキャラも数多く在籍している。

 設定の守備範囲はかなり広い。


 ただ、一つだけ抜けがあるとすれば、の設定のキャラクターはいない。


の女の子だけを集めました!』


 それが〈ミスプロ〉の特徴。

 そして、他のVTuber事務所との違いで、大きな売りの一つでもあった。


 私が所属している〈ウィッチライブ〉は、〈ミスプロ〉のメンバーの中から、の設定の人物を集めたグループ。

 メンバーは五人。もちろん私が五番目で、一番の後輩に当たる。


 大手のグループの一つなので、配信者からもすごく人気があった。

 今、〈ミスプロ〉に入りたいと思う女の子はすごく多く、ネットで『ミスプロ』と検索すれば、もれなくサジェストに、


『オーディション 倍率』


 などと出てくる。


 さらに調べれば、関連したブログや動画なども見つかった。

 オーディションの受かり方など……。参考になるかどうかはともかく……。


 そんな、人気のある事務所からデビューしたのだ。

 私を含む、新人三人の初配信の最大同接(※最大同時接続数)は全員が5万人を超え、ネットの記事、ブログ、掲示板、あらゆるところで話題となった。


 そして、一ヶ月後の今の評価。



 と――。


 デビュー当初の勢いはすっかり衰え、チャンネルの登録者数も伸び悩んでいる。

 リスナーもかなり減り、同接の低空飛行が続いている。

 私の場合、墜落しかけていると言ってもいい。


 今期デビューしたメンバー、


黒星くろぼしステラ/ウィッチライブ】 設定〈魔女〉。

夜桜よざくらカレン/アンダーグラウンド】 設定〈吸血鬼〉。

狐守こもりはくあ/サバンナ】 設定〈白狐しろきつね〉。


 私たち三人の置かれている状況は、非常に厳しい。


「はぁ……」


 ちなみに、私は三人の中でリーダーを務めている(運営から任されている)。

 黒星ステラのデビュー配信が最初だったのも、それが理由だった。

 つまり、自分のチャンネルも含めて、立て直しを迫られている。

 白いため息も自然と大きくなった。


 都会の街の人混みの間を、私はすり抜けていく。

 少し駆け足だった。早く帰って配信開始のボタンを押す。たぶん、その気持ちが強い。

 現在の時刻は17時を過ぎ。

 何もなければ、準備も含めて、夜の配信には十分に間に合う。


 日の方は、すっかりと落ちていた。

 明かりがある場所を除けば薄暗く、若い女の子(ちなみに私は20)が一人で歩いていたら、少し危険かもしれない。

 実際に数メートル先では、一人の女の子が、三人の男性(不良)に絡まれていた。

 男女の身長差はそこそこあった。


『言っているそばから……』


 私は歩幅を少し狭めて、四人の様子を伺ってみる。

 そして、この世界では通常、あり得ない状況であることに気がつく。

 魔女の私だからこそ、嫌でも気づいてしまったのだ。


 不良たちに絡まれていた女の子は、私と同類。

 普通の女の子に見えるが、人間ではない。


「あっ、……」


 私の口から、思わず言葉が漏れ出していた。

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