Karte.4 嗤う月

景は自分の部屋に戻り、寝る前に机に向かって症状を書き出そうとしていた。


景は原色系が好きになれない。

また嫌いではないという矛盾が生じるが、カラフルな物を見ると、視覚の定位がズレたように感じてしまうのだ。

音響効果でよくある音の定位のズレが視覚で起きるような感覚である。

それが時として心地良く、時として気味悪い。

なので部屋にもカラフルな物は置かないようにしている。


机に向かい、ライブの時にグッズ展開されていた好きなアーティストの刻印が施されたポータブルスピーカーで、音量を絞り気味にして音楽を聞いている。

無音が苦手なのだろう。

しかし曲と曲の間の無音部分は嫌いではない。

離人症性障害は結構な自己矛盾の感情で成り立っている。


景の部屋の窓からは月が見える。


―月を見る度に吸い込まれるような気持ちになる。

月は地球にずっと同じ面しか見せていないらしい。まるでずっと地球を睨むかのように正面を見せていて、監視されているようだとか、嘲笑っているようだ―


そんな余計なことを考えてしまったりする。


ただ天体の宇宙の法則だから?

本当に、ただそれだけなのかと。


「よし。箇条書きみたいな感じになってしまうけど、とりあえず書いてみよう。ネットで調べてみると離人症性障害が一番当てはまるけど…」


・常に膜や壁のようなフィルターがあるというより、強いて言うなら自分だけ狭い硝子張りの中にいるような感覚になったり、大きな硝子の部屋にいるような感覚になったり、時にはその硝子張りの外側から見ているような感覚になる。


・後頭部のすぐ後ろあたりから自分を見ているような感覚になる時がある。(幽体離脱とかいうのとはまた違う)


・主観、客観、俯瞰が自分の意識とは別に切り替わる。


・理解しようと努力しないと文章や情報が入ってこない時がある。


・それとは反対に情報がプラグで直接繋いだように入ってくるときもある。映画や音楽を聞いているときに、その感覚になるとすごく感動する。


・バーチャルとリアルの感覚が麻痺する時がある。


・緊張する時としない時の差が激しい。


・普通の人は居心地が良いはずの主観である自分視点の時が、つらいと感じることが多い。


・生きづらい時と心地良い時にも差がある。


・常に正反対の感情がせめぎ合うような哲学的思考がある。


・楽しいと思ったこともすぐに冷静に見つめてしまい、冷めた視点が同時に現れて素直に楽しめないことがある。


・ポジティブとネガティブが同時進行で加速して頭を張り巡らせることがある。


・自分が存在していない或いは、自分以外が人工物と感じることがたまにある。


・今いる空間もしくは自分が身体から切り離されたような感覚になることがある。


・世界がVR空間のように感じることがある。


・急に今、生きている世界が作り物のように感じる。


・環境や気持ちの変化によって自分やモノの大きさが変わっているように感じる。


・意識はあるのに急に人格が変わったようにスイッチが入る時がある。


・とにかく自己矛盾を感じやすい。


・見たことがある景色なのに初めてのように思えたり、会ったことある人なのに初めて会ったもしくは、随分久しぶりに会ったという感覚になることがある。(メジャヴ)


・他人の行動や自分の行動が映像を見ているような感覚になる時がある。


・記憶もあるのに過去の出来事が自分のことではないかのように感じる。


・現在の出来事がまるで過去のように感じたりと、未来現在過去の感覚がおかしくなって、現在を懐かしいと感じたりする。


・自分の心と身体はゼロ距離で繋がっているはずが、急に宇宙に自分の身体があって何億光年先に自分の皮膚感覚があるというような感覚になることがある。


・意識はあるのに、意志とは反対に身体が動いたり言葉を発したりしている。


・この世界が現実だと理解しているのに実感がないときがある。


「なんとなく、こんな感じかなあ。次回のカウセリングの時にこれを見せよう。」


他にもあげればまだありそうだが、気付けば時間も遅いので、景は寝ることにした。


離人症の症状なのかは定かではないが、睡眠の質が常に一定ではないことが多いので、眠るのが嫌いだと感じることが多いのだった。

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