Chapter.Ⅰ 通院と日常
Karte.1 SIGHT
終わりと始まりは、時間の経過から考えると、ほとんど同時にやってくる。
「はじめまして。私は当院の精神科医・
黒髪ロングヘアで真っ直ぐに整った鼻筋に、切れ長の目をしていて、まさに美人という言葉が相応しい顔立ち。
無表情だときつい顔と言われがちな容姿だが、微笑んだその顔からは患者の心を癒やす優艷さが漂っている。
「よ、よろしくお願いします」
患者としてやってきた男の子はどうやら初診に緊張している様子だ。
目が死んでいると揶揄されることもあるが、童顔でどこかあどけなさがある男の子。
見るからに大人しそうである。
「大丈夫よ。肩の力を抜いて、まずは深呼吸をしてみましょうか」
「すぅぅぅ……はぁぁ……」
ゆっくりと深呼吸をした。
「診察室まで迷わなかった?ここの病院広いでしょ」
ここは広大な敷地に建てられた医大附属病院で、院内もとても広いため案内を見ても迷う人間が多くいた。
「すごく迷いました」
おまけに彼はどうしようもないくらい方向音痴だった。
「それはごめんなさいね。次はわかりやすい案内図をあげるわ」
「ありがとうございます」
そう言葉を交わしながら彼はキョロキョロ周りを見渡した。
壁から机まで白を基調とした部屋で、診察をするための椅子とは別にラグの掛かったソファがあって、観葉植物が置かれている以外には何もない部屋だ。
「落ち着かない? あまりごちゃごちゃしすぎていると精神的に圧迫感がある患者さんもいるから、簡素化しているの。改めて、問診票には目を通させてもらったわ。出来る限りで構わない、自己紹介をしてみてくれる?」
天使のような優しい慈愛に満ち溢れた笑顔で、ゆっくりと問いかけた。
「
「わかりました」
実花は優しく頷いた。
大抵、初診の患者はどう説明したら良いのかわからなかったり、説明したつもりでも不十分な思いが残ってしまうことも知っている。
「重複してしまう所もあるかと思うけど、症状を感じ始めたのはいつ頃かしら?」
「なんとなく感じ始めたのは、小学生くらいの時からですね」
「今は、高校二年生……随分、長いわね。そこまで他の病院に罹ったことは?」
「無いです。周りと比べてどこか変だと感じたことはありますが、当たり前だと思っていたと言いますか、零花さんにここを勧められて行ってみようと決心しました」
「それは聞いているわ。決心してくれてありがとう」
景には
実花は彼女と
「問診票からもう少しくわしく聞いていくわね。
たまに、自分が自分ではない感覚になることがあったり、主観と客観がわからなくなる。と書かれているけれど、意識はあるのかしら?或いは、幻聴や幻覚などの症状はある?」
実花は可能性として考えられる症状と、疾患を照らし合わせるように話した。
説明が苦手になりがちな患者に対して、経験則から導き出すのも得意としていた。
「意識もありますし、幽体離脱?とはまた違う感覚で説明しづらいのですが、頭一個後ろ側から自分を覗き込んでいる感覚というのが一番しっくりきます。幻覚や幻聴もありません」
「なるほど。続けてもう一つ、精神科は初めてみたいだけど、うつのような症状になったことはある?」
更に絞るため可能性を狭めていった。
「ありませんね。忘れられない過去のようなモノがあって、それが少なからず原因となっている可能性もありますが……」
景は重い口を開いた。
「忘れられない過去?言える範囲でいいわ。少し話せるかしら?」
「はい。今は消息のわからない父親からの虐待と、小学生の頃に受けていたいじめです。その時から、こういうときはこうしていればいいんだというような、どこか作り笑いや、自分を納得させる感覚を頭でどんどん創り上げていきました」
初診ということもあって、長くはならないよう、二人は向かい合う状態で話した。
「なるほど……辛かったわね。
なんとなくわかったわ。とりあえず今日はこれくらいにしましょうか?最近、精神的に不安定になったりすることはある?」
「とくに……無いですね」
「わかったわ。では、薬の処方は見送ります。療法は少し考えるので、次回の予約をしていってくれる?緊急の際は電話してもらって構わないからね」
「ありがとうございます」
「それでは、お大事にね」
景は軽くお辞儀をして診察室を後にした。
この世界は『残酷』だよ……。
さあ魅せてやるよ……。
焦がれた世界とやらを……。
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