第11話 サイコパス


 今日の迷宮探索はお休みだ。


 君主くんはいつも通り鍛錬、残り二人のパーティーメンバーは街へ繰り出した。


 君主くんの柔軟を手伝う。

 顔を真っ赤にして一人でできるだの言いながら腕をぶんぶん振り回して俺を遠ざけようとする君主くん。


 赤面した顔に気づかないふりをして柔軟を手伝っていく。


 俺の白魚のような指が君主くんのうなじにあたる。耳まで真っ赤になっていく。


 トイレに行くとか言って君主くんは逃げ出した。


 やべえ、クッソ楽しい。


 俺も高校の部活でこういうことあったなと懐かしい気分になる。


 トイレ()から帰ってきた君主くんは顔が水でびちゃびちゃになっていた。赤面しないように水で顔の温度を下げ対策したつもりだろうがそんなの無駄だ。


 こっからの楽しい柔軟でまた顔を真っ赤にさせてやる。


 ■□■□


 いやあクッソ楽しかった、女になって童貞をからかって赤面させるという前世からの夢が叶ったわ


 めちゃくちゃ気分が良いぞ。


 今日は良い日だ。

 今日という日をもっと良いものにするために午後はケーキでも食べに行くか。


 世の中に蔓延る甘いもの好きアピールするゲボカス側溝クソビッチと甘いもの好き好きアピールに弱い脳みそ全身チンカス海綿体クソ男のせいで男が甘いもの好きと言うのは公言しづらい世の中だが俺も甘党だ。


 この肉体になって以降甘いものを気兼ね無く食える様になったのは本当に嬉しい。



 ケーキは本当に美味かった。前世のブラウニーのような食感のチョコケーキで固形化したはちみつをサンドした見たこともないケーキだが美味いのなんの。


 外はしっとり中はサクサクという地球だとあまり見かけないタイプの食べ物だったがブラウニーの優しい甘さに弾けるようなはちみつ部分がアクセントを添えててめちゃくちゃ美味い。


 ああ幸せだ、後は帰るだけだ。


 路地裏に引き込まれた。


 引き込んできたのは以前覚えてろと言っていた集団。目に映るのは弱者への嘲り、強者ゆえの万能感、薄汚い欲望。


 これだけで何もしなければ何が起こるのか理解できた。


 人間から向けられる悪意に身が竦む、呼吸が崩れる。恐怖で意識が五感を手放そうとする。



 良くも悪くも迷宮の魔物達は人間を殺すことしか考えてない。対する冒険者も魔物を殺すことしか考えてない。恐ろしく殺伐とした関係だがそこに基本的に悪意は存在しないのだ。


 しかしこいつらは違う、殺し合いに慣れていても俺は暴力にも悪意にも慣れてないのだ


 飲まれてはダメだ。


 やられる前にやれ

 怒りを使って心を戦闘モードに切り替える。

 思い切り睡眠魔術を詠唱しようとする。


 口に拳が飛んできた、歯がまとめてへし折れる、空が落ちる。違うな、殴られて視界が回転しているのだ。


〝魔術師の対処なんて慣れてるんだよ〟とか言いながら髭面の男が地面に叩きつけてくる


 のしかかられる。


 このあとどうなるか分かるわ、前世で散々その手のゲームやってきたから。


 カス共が煽る。


 俺に馬乗りになった髭面が顔を近づけてくる。


 ここだけ少年の様な目で〝本当にきれいだな〟とか言い出した。


 しかしその目は一瞬で濁る。


 助けてくれ、殺されないにしてもこんなクソ野郎共が俺を虐げ喜ぶことが許せない。




 何やら騒がしい


 誰か来たようだ。


〝弱肉強食ってやつだよ。〟〝法ってのは窮屈でいけねえ、やはり生物同士何だから自然の摂理に従うべきだ〟〝弱者が強者に逆らうとどうなるか、乱入してきたこのバカ君を使って実践してみましょう〟とかカス共がうるさい。


 ありがとな、助けに来てくれた人、早く逃げろ。


 強くなったつもりだったがチンピラ軍団すら殺せない自分が情けない。




 俺に馬乗りになっていたリーダーらしき髭面の顔面に短剣が突き刺さる。


 盗賊青年だ。


 盗賊青年が暴れる。


 突き出されたナイフを奪い取り突き刺し、急所を殴り、倒れた相手の脚をストンピングでへし折る。

 長物を振ってきた相手の目を短剣で破壊し蹴りで金玉を破裂させ突進してきた巨漢を投げ飛ばす。


 めちゃくちゃ強いじゃねえか。

 いや、当たり前か。

 こいつはレベル7の盗賊、そしてクズ共は迷宮の一層レベルの雑魚。


 こうなるのは必然だ。



 そう思っているとチンピラ集団の中に魔術師が入っていたらしく睡眠魔術を唱えようとする。


 その瞬間盗賊青年が唱えている奴の方も見ずに短剣を投合。喉につきささる。後で知った事だがこの短剣には盗賊青年お手性の激痛を与える薬がたっぷり塗られていたらしい。喉に短剣が突き刺さった魔術師が激痛のあまり魔術の構築を崩す、盗賊青年の膝が入った。


 叩きつける、蹴る、切る、刺す、投げる、焼く、瞬く間にチンピラ集団は地に伏せていた


 〝腕が折れちまったから、戦えないからもう勘弁してくれ〟〝降参だ、官憲のとこにでも連れてけ〟


 そういうボスらしき髭面の眼球に熱した短剣を突き刺す。〝これがお前らの言う弱肉強食だよ、弱者は眼球潰されようが内蔵焼かれれようが足切断されようがぐだぐた文句言うんじゃねえ〟

〝まああれだ、死ね弱者〟

 と言いながら盗賊青年が強烈な殴打を放つ。

 髭面の最後に残った歯が吹き飛んだ


 この後も盗賊青年は見苦しく言い訳を重ねるチンピラ達の片目と足の腱を丁寧に丁寧に潰していった。


 えげつない苦痛と不可逆の部位損傷を容赦なく盗賊青年に与えられるチンピラ達の姿はまさに弱肉強食を体現していた。


 俺は〝私にもやらせて欲しい〟と頼み込む。いつか領主に地獄を見せるのが俺の夢だ。


 拷問の訓練をここで積めば領主にさらなる苦痛を味合わせられるだろう。


〝女の子がそんな怖い事言わないでよ〟


とかヘラヘラ笑いながら言ってくる。


あれ、こいつ…




そう思ってみていると更にもう片方の目を釘で潰し失明させる。内蔵を焼いた短剣で潰し破壊する。腸を引きずり出して蝶結びにする。顔をスクロールで焼き人間の顔とは思えない化け物みたいな面に変える。

これ以上はとても俺の口から語ることができない。


こいつらを更に痛めつけようとした俺すら言葉を失う凄惨な光景。


一切の良心の呵責がない人間特有の無機質な乾いた気配に場が飲まれる


他者への一切の共感が欠落した拷問を継続する盗賊青年に、ついに俺の口からその言葉が漏れた。


〝サイコパス〟





 ■□■□


 結果だけ見れば本当に助かった。ボーパルバニーに囲まれた俺を助けてくれた君主くんと同じく盗賊青年も俺にとってのヒーローだ。それでも、それでも一応の感謝を伝えた。


 盗賊青年は〝感謝しなくて良い、むしろ感謝するのはこちらだ。〟


 何故かと思ったが


〝あいつらは兄さんに悪い噂ばらまいていたカス共〟


〝いつかシメてやろうと思って隙を伺っていたんだがこいつらは君にご執心のようだった〟


〝ノコノコと君のとこに言って言い逃れできなくなるまで待って大義名分ゲット〟


〝後はご覧の通り〟




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