第9話 やられる前にやれ
ガスドラゴンを退けても脅威になる相手は多い。
〝ゾンビ〟
アンデッド系統最下層のモンスター。
こいつの脅威は何と言っても麻痺毒だろう。
常時爪からドロドロ流れ出ているこの黄ばんだきったねえ液体は体内に入った時点で即座に肉体を麻痺させ全く身動き取れない状態に変える。
実質的な即死攻撃だ。
こいつは少人数パーティーにとってヤバすぎる相手のため見つけ次第全力で逃げている。
盗賊青年の索敵能力により敵より先に発見できる陽になったためこいつから逃げ出すのはかなり楽になった。
それでも戦闘をせざるを得ない場面はどうしても出てくる。
その場合、有効な対処法はやられる前にやることだろう。
白魔法を修める職業のみが覚える特殊技能、
祈りを捧げる事によって生み出される、不浄なるものを天に還す光はアンデッドのゾンビにももちろん有効だ。
白魔法使いの俺と君主くんの同時ターンアンデッドによる聖なる光は合計7名のゾンビを瞬く間に塵に変えた。
麻痺爪が脅威なら振るわせることなく仕留めれば良い、頭の良いゴリラが考えた様な作戦だが実際に有効なのだから仕方ない。
万が一麻痺を食らっても君主くんの覚えている麻痺を治療する第3位階魔術〝解麻魔術〟があれば立て直す事自体は可能なのだが、君主くんが麻痺を食らうと解麻魔術が使えなくなるので詰むのだ。
それならやはりやられる前にやる作戦の方が良いだろう。
そして最後に〝クリーピングコイン〟
迷宮内を30体程度のグループでふわふわと飛び回る金貨によく似たこの虫は一体では大したことはない。
花火と同程度の火力のブレス、貧相な攻撃能力、迷宮でも最低レベルの耐久等壊滅的だ。
魔法抜きで俺が唯一勝てる魔物と言っても良いだろう。
しかしそんなのでも徒党を組んでくれば話は別。30体にまとめてブレスを吐かれれば俺は死ぬ。
地球の人間程度の耐久力しか持たない俺は花火を30本も浴びせられたら間違いなく死ぬのだ。
よってこいつ相手に守りの姿勢になるのはまずい、よってこいつへの有効な対処法はやられる前にやるだ。
俺の睡眠魔法、銀髪君主くんの雷魔法、盗賊青年の巻物による火炎が今まさにブレスを吐こうとしているクリーピングコインの大群に叩き込まれる。
俺の命を容易く屠るであろうブレスは吐かれること無く終わった。
やられる前にやる以外に作戦無いのかと思われるかもしれないが少しでも行動させるだけでこちらを壊滅させうる迷宮の魔物は極力行動させてはいけない。
睡眠魔術でも武器でも良いので一刻も早く無力化し、行動をつぶさなければ死ぬのだ。
帰り道はホクホクだった。
今日だけで三回ほど死にかけたものの取り込めた魔力は絶大、とくにクリーピングコインの集団を撃破した時の吸収魔力は凄まじかった。
あいつらは単体でもそこそこの魔力を溜め込んでいるのに大量に出てくるので、強敵だが凄まじく美味しい相手でもあるのだ。
戦利品も今までとは比較にならないほどある。
一週間程度はまともな宿に宿泊し、肉たっぷりのスープを毎食食える程度の現金。
第一位階回復魔術と同レベルの治癒効果を持つ傷薬。
使い切りだが一度限り第三位階火炎系攻撃魔術を発動できるスクロール
君主くんの今の獲物より上質なロングソード、通称切り裂きの剣が手に入ったのもでかい。
そんなこんなでウキウキの帰り道で第一層に帰還。
ここから先は大した敵もいないし帰るだけだ。
そう思ってると眼の前に倒れた人影が見つかった。
聖職者風の服を着た女性だ。
死体か?
そう思ってせめて黙祷を捧げようと近づくと倒れた人影の腹から切ない音がなった。
死体じゃなくて行き倒れだこいつ
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